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楽屋





 「つーってもよぉ? クロネコさんたらどこにいるのかわかんねぇんだろ? それじゃあ殺すとかそういうの無理だと思うんだけど」



学校の体育館ぐらいの広さの楽屋と呼ばれる部屋で様々な人々がたむろしていた。理由はそれぞれの仕事の準備のためだ。早朝だというのに人数は少なくはない。



その集団の中の一人。チャラい服装をしニタニタ笑いを浮かべるのは赤髪の男。烏川カブト。誰に話しかけたというわけでもなく、全員に聞こえるように言ったのだ。


ほとんどの人間が烏川の危険度を知っているからか、反応する人間は少ない。



全員が彼のことを知っているわけではないが、知らない人間も烏川の妙な気持ち悪さに関わろうとしない。そんな状況に烏川は不満は持たない。むしろそれを望んでいるようだった。




その遠く。



妹の見送り直後にやってきた黒髪の紺色ジャージの青年、夏川ツバキ。そして金髪のTシャツ姿というラフな格好の東城ラリアは特に気にすることもない。二人はベンチに腰掛けている。夏川はペットボトルの清涼飲料水を口につけ、東城は何をするでもなくぼーっとしている。



二人はユリの写真について論じていた。



 「そんで? どうすんだ、さっき言ってたその脅迫犯。場合によっちゃ俺も手ぇ貸すぜ。日本の宝とも言えるべき子供を狙うなんて変態は始末しなきゃならんしな」


 「あぁ……見つけ出して……ぶち殺す」


 「……あ?」



ついさっきまで余裕な表情だったのに、いきなり怪訝な顔をした東城に夏川は怪訝な顔を返す。



 「なんだよ、気持ち悪い顔して」


 「お前……」


 「だからなんだって」


 「気づいてないんならいい。俺がどうこう言えることじゃないしな」


 「いや、だから言えって」



夏川が急かすも東城は無視を続ける。首をかしげながらも彼は再び清涼飲料水を口に含む。東城が何を言いたいのかは定かではないが彼にはやらなくてはいけないことがある。


ユリを狙う犯人を殺すこととクロネコと呼ばれる人物を殺すことだ。





ふと、目線をあげるとそこには見覚えのある顔がいた。



 「鈴科?」


 「夏川くん、調子はどう?」


 「普通だよ」


 「そっか、よかった」



こちらも危険人物。鈴科ラン。ふわふわの白い髪と須王からもらったのであろう白いドレスが相まって妖精のようにも見える。しかし本質は真逆。ある程度の制御はできるもののほとんど無作為に放たれるのは、他人を不幸にするという能力。


これまでどれだけの人々が彼女の力によってバッドエンドを迎えたのかは計り知れない。巷では皮肉を込めて『パンドラ』などと呼ばれている。


彼女にはそんな思惑は一つもないというのが余計厄介なのだが。



 「お前も元気そうでよかったよ」



一応警戒しながらも目を合わせる。鈴科は微笑んで彼の隣に座った。この時東城は呆れ顔をしながら立ち去っていった。


もじもじしながらも白髪をいじり、薄い唇を動かす。



 「クロネコって人の話、聞いてきたよ。ほとんど都市伝説って感じだけど」


 「そう。聞かせてよ」


 「その人はどこからともなく現れて出会った人物を昏倒させる。能力者らしいんだけどイマイチわかってないみたい。怪物に変身したり黒いオーラが出たりって」


 「なんだその超人。ホントに俺が行かなきゃならんのか……」


 「あと、もう一つ。その人の顔を誰も見たことないんだ」


 「……?」


 「黒猫の仮面をかぶってるんだって。それと横切られたら100%で意識を失うから、二つの意味でクロネコなんだって。怖い話だねぇ」



どうも人ごとのように話しているからか緊張感が伝わらない。この少女は須王のお気に入りだからか汚い仕事はせず秘書の真似事をしている。このことに黒崎がブチギレていたが夏川にはなんら関係はない。



楽屋内の時計がポーン……とやけに耳につく音を放つ。クロネコ討伐班の集合時間の合図だ。



 「そんじゃ行ってくるよ」


 「うん。あ、ペットボトル捨てとくよ」


 「サンキュー」



そう言って空のペットボトルをベンチに置いてそそくさと立ち去っていった。貧相な背中を見て少女は恍惚の表情を浮かべていた。



 「かっこいいなぁ……」



少女の人生において、圧倒的存在への気持ちは膨らむばかりだ。



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