須王アザミ①
モノクロに統一された部屋。白の豪奢な椅子に腰掛けるのはヒカリ製薬最年少幹部、須王アザミである。20代後半ながらも、圧倒的なカリスマや指導力を誇る。しかし年功序列というシステムには勝てず、ヒカリ製薬内での地位はそこまで高くない。
黒髪のポニーテールを揺らし、白のドレスを身にまといチェスの盤上を睨みつけていた。向かいには先ほどまで戦闘を行っていたジャージ姿の夏川がいる。
「それで? 話というのは?」
「あの、烏川カブトとかいうやつの事なんですけど……」
「あぁ、あれ? クソジジイ共が手に負えないからって押し付けられたんだよ。まぁ、ケイトウに見張りさせてるし大丈夫だろ」
「そうですか。あ、チェックメイトです」
「んぐ……ルール教えた途端私に勝ちやがって……まぁ、いい。それよりも具合大丈夫か?」
「ちょっとした風邪みたいです。っていうかよく知ってましたね」
「……そりゃあな。部下の体調ぐらい確認しとくべきだろう?」
「大変ですね。上の役職っていうのも」
「そう思うならこの仕事してくれないか? 誰も引き受けてくれんのだ」
そう言って盤上の駒を蹴散らすように置かれたのはノートパソコンだった。極めて簡易などこにでもあるパソコン。
問題はそこに映し出されているリスト。無数の名前が書かれている。
「これは……?」
「言ってしまえば要注意人物ってとこだな。コードネームが付いてるような奴らだ」
「コードネームってあれですっけ?特徴を皮肉ったりするあだ名みたいなもんですよね」
「あぁ、うちの班には『カゲナシ』、ケイトウや『ポケット』、東城とかだな」
「アイツ、そんな有名だったんですか……」
「能力のおかげで武器が税関とかに引っかからないからな。結構人気商品だから暗殺の依頼も多いんだ」
「へ、へぇ」
知り合いの意外な使用用途を聞き、ぎこちない愛想笑いをする。正直言ってどういう反応が正解なのかわからない。須王の言うとおり凶器が見つからないというのは、大きい武器になるのだろうがあの性格ではうまくいきそうもない。
対応に困りながらもマウスに手を置き、リストをスクロールしていく。
「君はあれだな。妙にこういう環境にすぐ適応するな。普通は生き残っても狂ったり自殺したりするものなんだが」
「怖いですよ、俺も。できることならさっさとちゃんとした就職口見つけたいですけどね」
「天下のヒカリ製薬様に就職できてるだけですごいと思うぞ?」
「それはどうも。……で、このリストを俺に見せた理由は?」
「殺して欲しい奴がいる」
須王は身を乗り出して、リストの項目の一つに指差した。
「コードネーム『クロネコ』名前も性別も顔すらも誰も知らない。が、充分脅威となる存在だ」
「了解。と言いたいとこですけど俺が殺せるかどうか……」
「……」
「どうしました?」
「いいや、なんでもないさ。もちろん東城やホタルも動向させる。せいぜいかんばってくれ」
「……はい」
そう言って夏川は一礼するとアザミの部屋を後にした。
部屋に残された須王は、護衛のために能力によって姿を消している黒崎に向かってか、笑い始めた。
「いひひ……ハーハッハッハッハァ!!」
「……どうしたの?めずらしいね、そんなにわらうの」
「あはっ! あははっ!! だって仕方ないだろう!? あの野郎『俺が殺せるかどうか……』だって。この前までは殺したくないとかほざいていた癖にさぁ!!」
「……」
「ハッハッハァ……あぁ……」
ようやく笑いが収まった須王はポツリと、言葉をこぼした。
「面白くなってきたなぁ……」




