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起床①



目を覚ましたのは夏川の自室だった。隣ではすぅすぅと寝息をたてるユリがいた。頭に軋むような痛みが走る。目に焼けるような痛みが張り付く。いつどこで気を失ったのかすらわからない。


カチ、カチ……と規則正しく針を動かす目覚まし時計は午前の2時を指していた。



意味のわからない頭痛に苛まれ夏川は再び目を閉じた。



――ケータイに着信が来ていることに気づかぬまま。




 ◇


 ◇





 「あ、あのぅ……これはどういう……?」



モノクロに統一された豪奢な部屋。完璧に並べられた家具達はそれぞれが洒落にならない金額である。



泣きそうな声で呟くのは厄災を振りまく女、鈴科ランだった。渡された妙な形状のコップの中には血の色の液体が入っている。



 「君は夏川並に常識がないな。……まぁ、あれの場合常識ではなく知識の問題だな。ろくに学校にも行ってないんだろう。そうでなければあんな歪な正確にはならないからな」



結局、血の色の液体の正体がわからずあわあわとしている鈴科だったが、須王が自分のコップに口をつけた時点でなんとなく無害なものだとはわかった。


ひとまず飲んでみる前に否定しておきたいことがある。



 「彼は……優しい人です」



ワイングラスをクルクルと回しながらニヤニヤと気味の悪い笑みを作る。須王としては面白い展開になったものだ、と半ば喜んでいた。



鈴科を縛り付ける鎖ができたからだ。自分の飼い慣らす夏川が飼い慣らす鈴科。嬉しい構図になってくれた。



――このまま、熟成させるのもいいが……待ってはられないな。



 「そうか、君がそう思うのならそうなのだろうな」



適当に言って話をごまかす。決して鈴科の言葉が正しいわけじゃない。確かに夏川は人殺しはあまり好まない。



だが、殺さない限りはどこまでもやる。笑顔で拷問だってする男だ。それに妹が関われば修羅の如く犯人をぶちのめすことだろう。



――しかし、彼女にはそんな話を聞かせたとこでなんの意味もない。



 「それで?この状況は君の予定通りってところか?」


 「……はい?」


 「夏川ツバキをこっち側に引きずり込み、自分をハッピーエンドに導いてくれるがかれ自身はバッドエンドへと堕ちる。そんな悲劇のヒーローに仕立て上げたんだろ?」


 「……」


 「どこかのコンビニででも接触したか?君ら二人共覚えているのかは知らないが、君の意識には関係なく本能の部分でそう願って能力を使ったな?」


 「……知りません。それに彼は私を助けてくれました。それだけは変わりません」



節目がちに鈴科は答える。彼女の言葉に妖艶な笑みを浮かべる女性は、その笑みを引きつらせていた。



――クソウザイなこの女。始めて優しくしてもらって盲信してしまってるな。恋は盲目とは言うが……イライラする。



こめかみに青筋を立てながらワインを口に運ぶ。口に程よい酸味が広がる。もう慣れてしまった味だ。



哀れで、惨めで、ウザったらしい彼女の目はどこぞの『天才』や『嘘つき』と違って死んではいなかった。



それが酷く滑稽で、まるであの二人を侮辱しているようでならなかった。



自分の望むものを得られなかった二人を嘲笑っているようにしか見えなかった。



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