争奪戦⑨
「梶原さん。あの部屋です」
天野が指差したのは廊下の突き当たりにある部屋。部屋の前には絵に書いたような黒い肌ののボディガードが二人いる。
「じゃあこれで。ありがとうございました」
そう言って夏川はそそくさと部屋へと近づいていく。ぶっきらぼうに彼女を置いてったのは単純に巻き込みたくないだけだ。若干憂いを見せた表情を忘れてして彼は進む。
問題はこのボディガード二人。ここを突破にしないことにはどうしようもない。できるだけ戦闘は避けたい。彼はもともと身体能力は中の下といったところだ。真正面から戦ったところでどうしようもない。
そう思案していたところで後ろからウェイトレスのような人物が夏川を追い抜いていった。揺れる短い髪を気にせず、なんの迷いもなく南野の部屋へと進む。
見覚えのある女だった。記憶と照らし合わせ『あの女』だと気づいた時には、もう全てが終わっていた。
目を疑うような光景。ボディガードがうめき声をあげたと思ったら、クルリと宙を舞った。
「……は?」
それがどちらの男が出した声なのか、自分の出した声なのかはわからない。しかし、これだけは事実。二人の屈強な男達は宙を舞ったのだ。
ドサッ、と落ちた二人をウェイトレス――袋野ホタルは顔面を目掛けて踏みつける。
「が、がぁ……」
「おいぃ……やめっ……!?」
酷く冷めた目つきだった。害虫への視線よりも冷たかった。彼女にとってはこの一連の動作はその程度だ。流れ作業と言わんばかりの手際で、折りたたみ式のナイフを一度ずつそれぞれの腹部へと突き刺す。この間は両方の口を足で塞いでいる。もちろん両足とも顔面のそれぞれの上だ。
その態勢のまま、振り返りこちらに来るようにジェスチャーする。
「……ここから先は、協力しよう。君は鈴科の保護を優先してくれ。私は君らの護衛をする」
「了解」
短く、それだけ言ってもはや死体の寸前といった肉塊の腹部に触れ、血を両手にこびりつかせる。
「何をしている?」
「……用はイメージの問題だ。どうせここにビビリな南野って野郎がいるんだろ?それじゃあ俺達は正体不明の殺し屋ってことにしとこうぜ。第一印象ってのは結構大事だしな。俺を凶悪で残忍な殺し屋だって思わせてビビってもらえりゃ少しは仕事が早くなる」
「なるほど。それなら私はどうすれば?」
「アンタは何もしなくても殺し屋感抜群だから大丈夫」
軽口を叩いてヌメヌメとした手でドアを開ける。




