争奪戦⑥
VIP御用達のホテル。無駄に広い一室には白い髪の少女と小太りのヒゲを生やした老人がいた。
鈴科と南野。
部屋の前には当然ボディガードもいるし、カゲナシ対策に窓は防弾ガラスにシャッターまでついている。
大きな牛肉を頬張りながら南野はうつむいている鈴科に声をかける。
「どうしたのかね。最高級の肉だぞ?」
「……」
「せっかく君の能力への報酬へとしてあげたのに……残念だ」
「……」
肩をすくめる南野の耳にコンコンとノック音が聞こえた。返事をすると失礼します、とこれまた教科書通りの秘書が入室してきた。両手にはパソコンが持たれている。
「南野様、お電話です」
「誰だ」
「ヒカリ製薬の須王様です」
「渡せ」
そういって強引に奪い取る。秘書は感情が死んだように顔の筋肉が一つも動かない。
『これはどうも、南野さん。お忙しいところを』
「どうしたのかね。私は暇じゃないんだが」
『すいません。一つご相談がありましてね』
「そもそも私の連絡先をどうやって手に入れた?」
画面の奥でクスクスと須王は笑う。
『これは失敬。まぁまぁ、話を聞いてくださいよ。それがですね、うちの鈴科、という社員が誘拐されたんですよ』
南野は表情を変えない。瞳孔の動きさえ気にする。それを気にするほど危険な相手との会話だ。
「そうか、それは災難だな。警察にでも届けを出すといい」
『あんまり大事にしたくないんですけどね、こちらとしても』
須王はニタニタを笑い続ける。
『キモくて肥えたおっさんに誘拐されたことなんて世間に好評できませんし』
「ッ」
表情は変えない。
『それがその犯人。相当変態みたいでしてね?なんでも『理想の秘書』をクローン化して量産し、奴隷のように使ってるとか』
「……」
『いやぁ、それでも南野さんでも知りませんでしたか。それでは私はこの辺で。さようなら』
回線が一方的に切られる。南野の頭には既に血がのぼっていた。すぐさま秘書へと指令を出す。
「私の顔に泥を塗ったものにはどうする?」
「死を望むまでの拷問を」
それだけ言うとどこかに連絡を取りながら秘書は外に消えていった。肉を頬張りながら歯ぎしりする南野に嫌悪感を覚える鈴科の目はどこかを見ていた。
どこかを、見ていた。




