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争奪戦②





 『なんとしても鈴科を捕えろ』



そんなメールが来ていた。キャンピングカーで移動する夏川はそれを読むが特に返信はしない。



キャンピングカーに乗っているのは東城、夏川、ホタル、運転手、そして新人2人。新人といっても中年と大学生くらいの男達だった。ホタルによると借金が原因で堕ちてきたらしい。


夏川もそんなもんだ。



 「あ、あんたは……」



中年の男が震える口を開いた。目が明らかに怯えている。この状況、この依頼内容で何かを悟ってしまったのだろうか。



 「あんたは今まで何人殺したんだ……?」



ひどく震えた声だった。一回りも年下の夏川に震えた声だった。自分はそんな風に見られているのかと、そういう風なことをする人間だと思われているのかと少し落胆する。



 「二人だけだ。それ以外は気絶だとか、俺が逃げたりだとかばっかだよ」


 「……」



別にビビらせるつもりはないが中年の男の額には汗がびっしょりと吹き出していた。



 「お、俺も……誰かを、ここっ、殺さなくちゃいけないのか?」


 「……」



夏川は少しだけ考えて



 「生きるためならなんだってするべきだ」



結論を言った。



それは自分自身に言い聞かせてるようにも感じた。



その時だった。



ゴ――ッッッとキャンピングカーが大きく揺れた。



座っていたほとんどの人間が大きくバランスを崩す。そして、そんな中で窓の外に見覚えのある地味な車を見つけた。


鈴科をさらっていった組織の車だ。



 「車ぶつけて妨害かよ……ッッッ!?」



そう叫んだのは東城。そのまま窓から身を乗り出して左手から拳銃を出し、発砲する。



が、車が再度衝突し、バランスを崩した東城が席の方へと押し戻され転げまわる。



 「東城!」


 「夏川、そんな奴はほっておけ。今は敵だけを見ろ」



ホタルの言葉に若干イラつきながらもおとなしく従う。


相手は二人。一人は運転をし、一人は拳銃を持っている。



確かに妨害にはなる戦力だ。しかし、そんな戦力で本当に自分らを殲滅する気か?


違う。これは



 「時間稼ぎか!?」



ギリギリギリィ!!と車を横につけられる。そして反対側にもいつの間にか同じような車がつけられていた。



 「まず……っ」


 「うろたえている場合か!振り切るぞ!」



ホタルの叫びに夏川と東城は答えるが、新人二人はパニックになってしまい動けずにいた。



まずはホタルが動いた。片方の車の運転手めがけて発砲したのだ。


しかし命中はしない。逆に相手二つの車が窓を開けて発砲しようとする。




銃弾が飛び交う車間。そこに夏川と東城が飛び込んでいった。



夏川は片方の車に飛び込んだあと、スタンガンを首に押し付けて、拳銃を奪いとり運転手の頭へと押し付ける。


あまりにも簡単だった。それは夏川自信が成長したとかそういうのではなく、相手に力が、技術がなかったからだ。



 「……今すぐ止めろ」


 「へっ、へへへ」



気味の悪い笑みを浮かべた。汚くて、薄汚れた口がぎこちなく動く。



 「おっ、俺達はっ」



男の目が見開き、アクセルを全力で踏み込む。 



 「特攻隊だぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!!」



瞬間、ハンドルも思いっきりきられヤケクソといった感じで道路を暴走していく。その隣の車線でも暴走する車両があった。


東城が乗り込んだ車だ。



 「くっ……そっ」



窓から入ってきてすぐの態勢のせいで座席にしがみつくのが精一杯だ。拳銃も落としてしまった。


考える間にも他の車をなぎ払いながら暴走していく。



このままでは被害が拡大する一方だ。この頭のイカれてしまっている男をどうにかしなくてはならない。



決断する。





狂ってしまった運転手に頭突きを食らわせ、不自然な態勢のままハンドルを奪い取った。そのまま体を運転手にタックルするように座席へとすべり込ませる。幸い、運転手は爆走する恐怖のせいか気絶していた。



やることはただ一つ。



ブレーキを踏むことだ。



火花と爆音が車道を駆け巡る。


夏川は体が前にのめり込まないように片足をハンドルの隣に押し付けていた。


地響きのような振動が内蔵をシェイクしていく。三半規管が乱されるような錯覚に陥った。



地面を削るタイヤが摩擦によって溶けているのか鼻につく臭いが溢れ出す。



そして、遂に爆走する二つの車は止まった。窓ガラスのほとんどが割れ、この車自体も軋んでいる。



 「また、生き残っちまった。ラッキーだ……」



咳き込みながら車を降り、不審な目を向ける一般人に会釈をしながらキャンピングカーへと戻っていく。

再びキャンピングカーは目的地へと進む。



 「ご苦労様。二人共、汗がすごいが我慢してくれ」


 「ジャージできてよかったぜ。……ってかこの後でアザミちゃんに殺されそうだ。下っ端さんたちにここの処理まかせとかなきゃなぁ」



怯える中年はサラリーマン時代の癖なのか妙に下手に出る。



 「こんなことになっちゃって……どうするんですか?」


 「もみ消すさ」



あっさりとホタルは言った。東城も当たり前といった様子だ。しかし、夏川は怪訝な顔をしている。



 「もみ消すって……また、金と権力か?」


 「それ以外に何がある」


 「能力とか?」



素人二人組はもう思考を放棄しているのか何も疑問は持たない。ホタルは夏川の言葉に眉を少し動かして、反応した。



 「能力者なんていらない。あんなものを持った人間はもはやただのバケモノだ」


 「バケモノ本人の前で言っちゃうあたりホント尊敬するよ」



東城はヘラヘラ笑っているが、ホタル自身は真面目な顔で言っている。ホタルが口を開くたびにピリピリと空気が悪くなり、素人二人の顔がどんどん青くなっていく。


夏川はポーカーフェイスで無表情を装っているが、内心は死線の戦闘レベルに心臓が躍動していた。



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