鈴科ラン④
正午ちょうどだった。
夏川を含めた数人のメンバーはキャンピングカーから降り、とある施設へと侵入する。
そこは廃工場だった。
無駄に敷地面積が広いが何も手もつけられず近くにある海のせいか、サビ腐っている。当然辺りには昼間だというのに人一人いない。
アザミによるとここに例の能力者が匿われているらしい。
『天才』黒崎が前に出る。
「……いこうか」
まずは宣戦布告。
東城が左手からランチャーを取り出し、工場でとぶっぱなした。
ヒュン!と空気を切り裂く音の後に遅れて、爆炎が空気を飲み込んでいった。当然、工場の壁も食い荒らされていく。東城は及第点か、といった表情でランチャーを右手にしまう。
黒崎は後ろを振り向いて笑顔で言う。
「あばれちゃってかまわないよ」
「あいよ」
東城が工場に向かって走り出したのを皮切りに他のメンバーも走り出す。工場から武装した敵兵が出てきているが東城の消火ホースレベルの水の噴射により押し流されていた。
夏川は動かずそれを見ていた。隣では黒崎が三脚を設置している。
「これで恐らく鈴科をかくまってる奴らが焦って動くはずだ。そこを冷静に叩くぞ」
「いわなくてもわかってるって。それにしてもこのさくせん考えたのアンタらしいけど……何者?」
「んー?天才」
「……それアザミさんのまえでいうなよ。じょうだんぬきに殺されるから」
「はい」
そんなときだった。
廃工場の隅っこからワゴンがよそよそしく出てきた。
「……ビンゴ。ツバキ、行くよ」
「……いつから呼び捨て?」
黒崎は夏川をジェスチャーで早く行けと指示を出し、自分はスナイパーライフルのスコープを覗き込む。
スコープの中の視界の先には慌てふためくワゴン車が動いている。
距離はざっと100M程度。
「……らくしょう」
パァン――ッッ!!と大げさな音が銃弾が撃たれたことを実感させた。そしてその銃弾は正確に車のタイヤを打ち抜いていた。
ザリザザリザリッ!!とスリップする車に夏川は走って向かう。
そしてもう一度、パァン――ッッ!ともう一つタイヤを打ち抜く。
地面を削りながらワゴン車がようやく止まった。そして夏川がそのドアを強引に開き、勢いよくかがむ。その上をまた、銃弾が飛んでいった。
血しぶきが二つと悲鳴が一つ。
車の中には正確に頭を打ち抜かれた男二人とふわふわの長い白髪の少女がいた。
夏川はアルバイトで培った営業スマイルを振りまく。
「うわぁ、汚いな。この車……えっと、鈴科ランだな?」
「は、はい……え、えぇっとアナタは……?」
「ゴメンな、危険な目に合わせちゃって。怪我ないか?」
「え、えぇ。大丈夫です。……多分」
「多分って……自分の体は大切にしろよ?せっかく可愛いんだから」
鈴科の手を引いてキャンピングカーへと再度乗り込む。
「あの……アナタは?」
「夏川ツバキ。覚えとかなくていいよ。脳がもったいない」
「んだオイ。夏川オイ。保護対象ナンパしてんじゃねえよバカ」
「してねぇよ。バカ」
そんな光景にクスクスと鈴科は笑う。あまり見ない笑い方だった。笑うということ自体慣れてないのだろうか。顔の筋肉が強張っている。それでもしっかりと彼女は笑っていた。
そんな顔をされては夏川達も笑うしかなかった。
あっさりと任務は完了された。こちら側の負傷者はゼロだった。