鈴科ラン③
恒例の楽屋。恒例の東城。
……流石にため息が出そうになった。
「すっごいねぇ夏川。もうあんな大役任されてんでしょ?もう、指導係として誇らしいぜ」
いつの間にか監視係から指導係にクラスアップしたのには特に突っ込む気もない。
再度、ため息が出そうになる夏川を尻目に東城は聞いてもないのにベラベラとしゃべり続ける。
「俺なんか雑魚の掃除だぜ?今から右手で海水汲んできてドパァってやれだってさ!俺をなんだと思ってんのかな、アザミちゃんはさぁ!?」
「知るか、ボケ」
夏川はポーチに必要な分だけ武器などを入れながら東城に話しかける。
「この作戦で保護する鈴科って娘。知ってるか?」
「一応アザミちゃんに聞いたけど、よくわかんないな」
東城は首をかしげる。
「幸運だって言うならそもそもこんな世界に巻き込まれることなんてないだろ?」
「それも……そうだな」
「おや?スーパーインテリの夏川クンでもわかんないの?」
「わかんねぇもんはわかんねぇよ」
夏川は吐き捨てるように言う。途端、東城はわざとらしくため息をつきながら夏川のポーチを指差した。
「……お前さぁ、いくらなんでも装備少なすぎるぞ。それにお前の命かかってんだからな?」
「多すぎたら取り出したいものが取り出せない。これが最低限で黄金比だよ」
ヘイヘイそうですか、と東城は楽屋から出て行った。今から海に行って海水でも汲んでくるのだろう。
夏川はケータイの電源を切り、深呼吸をする。
未だに慣れないものだ。
この楽屋を出た途端、死をイメージしてしまう。今までがうまく行き過ぎている気がする。それこそ嫌なくらいに。今回は死ぬかもしれない。むしろ、そっちの方が確率は高いかもしれない。
それでも、夏川は腰を上げた。
ここで立ち止まっていられるほど、夏川は状況が分かっていないわけじゃない。