長浜美紀3
それから、二週間ほどがたったが彼女の人気は凄まじいものであった。まず新入りは先輩に仕事の仕方を数日間教わる。その後、店で正式にはたらくのだ。普通は新入りは指名は受けにくいものなのだが、ここ数日指名が入りっぱなしなのだ。まぁ、あの容姿でK大卒の触れ込みがつけば当然と言えば当然なのだが、やはり10代が人気のあるこの業界でover25でこの人気は凄いものである。
「凄いねミキちゃん!これならNo.1も、もうすぐだね。」
「いや、私なんかまだまだ……これからも精進していかないと。」
精進て……と俺は思ったが、まぁ頑張ってとだけ伝えた。
ミキとは長浜美紀の源氏名だ。つけたのは店長だがヒネリがなさ過ぎる、本人は気にしていないようだ。
まぁ、この世界は裏方と言えど気苦労も多くこの仕事についてから、酒の量は確実に増えた。だいたい週3か4で飲みに出かけている、とは言っても一人飲みなので対して金もかからないのだが。ここ何年か飲みに行く場所はだいたい決まっている、
『オカマバーメリッサ』だ。
無論俺は女への興味が薄らいでるとはいえ、そっちの気があるわけではない。あそこは安いし、焼酎でもワインでもウイスキーでもなんでもある。その上、数杯で何時間もいられるので便利なのだ。まぁ、他にも理由がない訳ではないのだが。
そんな訳で今日もメリッサに顔を出した。
「いらっしゃいませー、あっタカちゃん!!いらっしゃ〜い。」
「お前頼むから、俺の前で女ぶるのやめてくんないか、虫唾が走る。」
「いや〜ん、酷い!なんでそんな事マリーに言えるのよ。長い付き合いじゃない。」
「長い付き合いってなお前、変な言い方すんなよ。第一お前男だろうが、丸山!!」
「いやー!!本名言わないでー!丸山じゃなくてマリー!」
そうここには、自称マリー(本名丸山翔)が働いているのである。丸山とは高校の時、二年ほど同じクラスだった。それほどの絡みがあったわけではないが、可愛い系の男の子だったのは覚えている。まさか、女になってるとは思いもしなかったが。
数年前、当時の同僚と共にここに来た時に話しかけられたのだ。最初は、まるで思い出せなかった。まぁ、顔も整形し胸にシリコンまで入れてるんだから気づけというほうが、無理な話なのだが。そう言った経緯で、ここに入り浸るようになったのだ。たまに従業員のまかないを、タダで食わせて貰えるのも利点だが。
「もう!本当に酷いんだからタカちゃんは!ママ〜本当にタカちゃん酷いよね〜」
「なに、またマリーイジメてんのかい?そんなにイジメるとあんたの玉袋引っこ抜くよ!!」
「やめて下さいよ、ママならやりかねない気がしますから。」
そして、このバーのママでもあるメリッサさんだ。マリーは整形もしていて、一見普通の女性にしか見えないのだがメリッサさんは明らかに男が化粧をしてるだけだ。しかも、年齢は俺の母親より上らしい。
「それよりタカちゃん!昨日のツケ払って頂戴!」
「あぁ、払うよ払うよ。」
まぁ、なんだかんだ言ってここは居心地はいいのだ。
「にしても、細い体だね。ちゃんと食ってるのかい?マリーなんか作ってやって」
「いいですよ、第一それでお金とるんでしょ。」
「あら!私がそんな女に見えるかい?バカ言っちゃいけないよ。500円でどうだ?」
「500じゃ高すぎますよ、350でどうです??」
「あぁ?350じゃ割に合わないよ、450だ!!」
その後、ママと俺のバトルの末420円となった。出てきたのはナポリタンだった。と言うか、かなりの高確率でナポリタンが出てくるのだ。まぁ、味も悪くないし420ならギリギリ許せる範囲だ。
ママのメリッサはこのバーにくる人たちから、本当に慕われているいい人だ。この町のママになる!と酔うとよく言っているらしい。まぁ、どう考えてもママよりパパだが。
ちなみにだが俺は、母子家庭で育った故に父と言うものをよく知らない。ここにくるのは、ママも父親っぽいところもあるのかもしれない。
次の日はバーで飲んだ事もあり、少し遅れて出勤した。大概店長は遅れてくるのが当たり前だし(こない日もあるくらいだ)俺がいなくてもある程度店は回る。
俺が少し遅れて事務所に入ると、ミキが丁度準備を終えて事務所から出てく所だった。
「あっ、副店長さん!おはようございます」
「あぁ、おはよ」
その時、ふと彼女の耳に目がいった。彼女はいつも右耳にだけ赤い少し大きめのピアスをしているのだ。
「そのピアスいつもしてるね。彼氏から貰ったの?」
「いえ、母から二十歳になった時に貰ったんです。大切にしなさいって言われて。」
てっきり彼氏とかから貰ったものだと、思い込んでいた俺は少し驚いたが、そう気にも止めなかった