表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

過去投稿作品(短編・掌編)

同じセカイで

作者: よねぎし久羽

「もう待たなくてもいい」

あの人はそう言って私の前から立ち去った。

その言葉が、今生の別れを告げていることは分かっていた。

でもそれを認めたら私が私でなくなるような気がして認めたくなかった。

だからあの言葉を消えた背中に告げた。

届かない言葉。

……でも届いてほしい。

ううん、届くはず。

だからあなたがいつ帰って来てもいいようにここにいます。

だからお願い、諦めないで……。


ここに来てどれぐらいの月日が経ったのだろうか。あいつはもう自分の幸せを見つけているだろうか。

多分そうだろう、……そうであってほしい。

ここに赴く時に覚悟はしていた。もう帰られないことを。だからあの言葉を残した。

あいつは何かを言おうとしていた。……いや言っていたのかもしれない。それも今となってはどうでもいいことだ。

目の前には圧倒的な絶望が襲い掛かろうとしている。抵抗する手段は殆ど残されていない。

いよいよここまでか……。

諦めが心を埋め尽くそうとした時、声が聞こえた気がした。

聞こえるはずは無い。空耳に決まっている。でも……。

例えそれが空耳だとしても、その言葉を聞いたら、諦められないじゃないか。

……そういえばあいつ、昔から人の言うことを聞かなかったからな。

自然と口元が緩む。

あのバカたれの顔をもう一度見るのも悪くない。そして文句の一つでも言おうか。

人の言うことを聞けって……な。



あの嵐が過ぎ去ってから少しの時間が過ぎ去った。

約束はしていないけど、あの日からここで帰りを待っている。

でも未だに帰ってこない。

諦めなさい。もう帰ってこないんだから。

そう言う人が多い。

……それは分かっている。全滅だったことも。

それを理解しているのにどうして。

それは私のわがまま。私が私であるための。

これをあの人が見たらなんて言うんだろう……。

……なんか声が聞こえてきた気がした。あの人の声が。

自然と涙が出てくる。

ホント私って人の言うことを聞かない……ね。

でもありがとう。



それでも待っている。



その言葉を受け取ってくれてありがとう。

そして帰ってきてくれてありがとう。

それだけで私は満足です。

次会える時はもっと穏やかなセカイで……ね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ