同じセカイで
「もう待たなくてもいい」
あの人はそう言って私の前から立ち去った。
その言葉が、今生の別れを告げていることは分かっていた。
でもそれを認めたら私が私でなくなるような気がして認めたくなかった。
だからあの言葉を消えた背中に告げた。
届かない言葉。
……でも届いてほしい。
ううん、届くはず。
だからあなたがいつ帰って来てもいいようにここにいます。
だからお願い、諦めないで……。
ここに来てどれぐらいの月日が経ったのだろうか。あいつはもう自分の幸せを見つけているだろうか。
多分そうだろう、……そうであってほしい。
ここに赴く時に覚悟はしていた。もう帰られないことを。だからあの言葉を残した。
あいつは何かを言おうとしていた。……いや言っていたのかもしれない。それも今となってはどうでもいいことだ。
目の前には圧倒的な絶望が襲い掛かろうとしている。抵抗する手段は殆ど残されていない。
いよいよここまでか……。
諦めが心を埋め尽くそうとした時、声が聞こえた気がした。
聞こえるはずは無い。空耳に決まっている。でも……。
例えそれが空耳だとしても、その言葉を聞いたら、諦められないじゃないか。
……そういえばあいつ、昔から人の言うことを聞かなかったからな。
自然と口元が緩む。
あのバカたれの顔をもう一度見るのも悪くない。そして文句の一つでも言おうか。
人の言うことを聞けって……な。
あの嵐が過ぎ去ってから少しの時間が過ぎ去った。
約束はしていないけど、あの日からここで帰りを待っている。
でも未だに帰ってこない。
諦めなさい。もう帰ってこないんだから。
そう言う人が多い。
……それは分かっている。全滅だったことも。
それを理解しているのにどうして。
それは私のわがまま。私が私であるための。
これをあの人が見たらなんて言うんだろう……。
……なんか声が聞こえてきた気がした。あの人の声が。
自然と涙が出てくる。
ホント私って人の言うことを聞かない……ね。
でもありがとう。
それでも待っている。
その言葉を受け取ってくれてありがとう。
そして帰ってきてくれてありがとう。
それだけで私は満足です。
次会える時はもっと穏やかなセカイで……ね。