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現実逃避  作者:
2/2

小さな家


晴れた空の下。風に揺れた草が頬をくすぐる。鈴は草原に横たわっていた。慌てて立ち上がりあたりを見渡す。小さな家がぽつんと建っていた。


おかしい。鈴はからりとした空気に違和感を覚えた。今の季節は秋。空気は冷えるようにはなってきたが、まだ夏の名残のような湿り気を帯びた生暖かい風が吹いていた筈。それに今日は、そう、雨が降っていた。


まるで春の日のようだ。太陽は明るく、風は優しく、草は青々と茂っている。空までもが呆れるほどに清々しかった。文句の付け所がない、晴天そのもの。


鈴は数学の授業を受けていた筈だった。窓際の席でぼんやりと雨の空を眺めながら。左手で頬杖をつき、右手で軽くシャーペンを握っていた。だが今は机も椅子もない。


それどころか、ここは教室とは全く違う場所のようだった。制服は着ている。校内専用の上履きも履いている。それがまるで似合わない場所。


鈴は思わず頬を緩めた。一瞬覚えた驚きや恐怖は、もうどこかに消え去っていた。感じているのは静かな興奮。いきなり非日常に放り込まれたその味わったことのない感覚に身を震わせた。


そしてこのような状況に突然置かれた場合のお約束のような台詞を、呟いてみる。

「ここはどこ?」


声は今までと全く変わらず響いた。声質もなにも変わっていない。取り敢えずほっとする。鈴自身には何の変化もなかった。


鈴は小さな家に向かって歩き出した。見渡す限りの草原である。人が住んでいそうな場所はそこしかなかった。


家は煉瓦が積み上がってできているようだった。キャンプ場などで見かけそうな素朴な雰囲気だが、それらと違うのは古く、清潔感がまるで無いところだった。誰かが掃除をしているとは思えない。家の外壁には至るところから草が生え、日の当たらなそうなところからは苔が生えていた。


「すいません、どなたかいらっしゃいますか?」

鈴は乾いた木の扉を遠慮がちに叩いた。返事はなく、ひとの気配も無い。少し声を張って、強く扉を叩いてもやはり反応はなかった。


鈴はそっと扉を開けた。鍵はかかっていないようだった。驚く程呆気なく開いた扉を開け放つと、何か小さな生き物達が動くのが聞こえた。少し重みのある音も聞こえたので、ゴキブリなどだけでなく鼠もいるのだろう。鈴はそういう類のものに怖気づくタイプではなかった。そっと家の中に足を踏み入れた。


外はからりと晴れているのにも関わらず、家の中は薄暗かった。光は家の壁にある僅かな隙間から漏れるように入ってきているだけだった。余りの埃っぽさにむせそうになりながら、鈴は窓を探し出しその全てを開け放った。


勿論硝子などははまっておらず、家には外の新鮮な空気が流れ込んだ。鈴はようやく明るくなった家の中を改めて見回した。鈴の部屋だった。


いや、鈴の部屋の通りに物が配置されているのだった。小さな家の中はちょうど鈴の部屋の大きさで、ベッドや机などの大きさまで同じ。そういえば窓も扉も同じ位置にある。時代も国も違うような雰囲気の小さな家に妙な既視感を覚えながら、鈴は自分の部屋とは違い本の少ない本棚から広辞苑のような本を手にとった。

はい、異世界やってきましたー。

しかしリアルを求めます、

ゴキブリがいます。

埃だらけです。

夢が無くてごめんなさい。

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