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そういうのをトラブルメーカーっていうんじゃない?(2)

魔界での生活に慣れてきた頃、目が覚めると体にとんでもない変化が起きていた。

「尻尾おおおおおお!?」

「もう一度やるか?」

木崎さんが掌をひらひらとさせた。

「いえ、結構です」

また、口塞がれて、挙句に顎がみしっとか言ったらたまらない。それでなくても、何だか顎の調子が良くない気がする。その掌見ただけで。

条件反射的な。


意識をやる。

よくわかんないけど、とりあえず尻尾のあたりに見当をつけてみた。

ふさん、と尻尾が揺れた。

そう、私の意思で。

間違いない、これは私についているのだ。

いやん、ラブリーとか、人のものだったら言えたかもしれない。ふさふさとして、毛並みは艶々、尻尾の中でもこれはかなり上等だろう。

尻尾コンテストがあれば上位間違いなしだ。

誇りに思ってもいい。

勿論、此処で言った全ては、尻尾がついていて問題のない生き物であれば、だ。

私は――それは太古の昔は尻尾ついてた種族だろと言われればそれまでだが、尻尾を持たない方の生き物である。

いや、あった、と過去形で言うべきか。魔界に来て以来、自分を何と形容していいかわからないので。

とりあえず現在尻尾を持たない種族の筈、といって間違いはないだろう。

どんなに美しくて立派であろうと、そもそもある筈のないものがついている、その時点で、酷く凹むのである。


「なんでこんな事に」

木崎さんと勅使河原さんは、また顔を見合わせた。

どちらが口を開くか、そんな風に目だけで会話をしていたみたい。そんなに言いづらい話なんだろうか。

「少々、厄介な相手らしい」

そして、やっぱり言い出したのは木崎さんの方だった。

「うん?」

でもって、私は、自分の事だというのに、何が何だかわからないでいる、というのに、勅使河原さんは全部わかってるらしくて、腹立つわあ、その態度。

「参ったな」

額に手をやる。

「あの人、苦手なんだよ俺」

「私とて得意ではないわ」

「お前は身内だろうが」

身内って何の事?

疑問符を一杯飛ばしているのにやっと、二人は気が付いてくれたらしい。

「すまぬが、しばらく都、そのままで過ごしてもらえぬか」

「そのままも何も、どうしようもないんですけど?」

生えてる尻尾をどうにかしようにも、方法なんて知らないもの。

「それから、私達以外に、顔は出さぬように」

私達のいる此処は、一応魔王となった者と、その周囲の一部だけが出入りできるという建物で、城、と呼ぶ人もいる。

私達以外は、この家を機能させるに必要な、ごく少数しかいない。そして私は、まだ勉強中の半人前という事で、まず、人の前に出て行く事がない為、その少数すら、殆ど会った事がないのだ。

だから、顔を出すなと言っても、そんなに問題は、ない、かな?

多分。

「しかし、こんなの仕掛けてきたって事は、あの人、このままじゃすまねえと思うけどな」

勅使河原さんは、思案顔。

「わかっておる」

対する木崎さんは、酷く嫌そうな顔をしてる。

あの人って、どうやら木崎さんの身内を指しているようなんだけど、誰の事なんだろう?

木崎さんは、自分の家の事を殆ど語らないし、どうやら事情がありそうなので、此方も掘り下げて聞いた事はなかったのだけど。

「その、話題になってる人って、誰の事?」

「あー」

勅使河原さんが、頭をがりがりとかいて。

「教えてないのか木崎」

「必要ない」

「そうも言ってられねえだろ」

そう言って。

勅使河原さんは此方を向いた。

「木崎の母親」

「は?」


お母さん?


「正確には、養母だ」

「どっちにしても母親にかわりねえだろ」

「ですよねー」

うっかり同調してしまった。

木崎さんのお母さんが、関わってるっていうの?

「悪い人じゃないぜ」

勅使河原さんは言う。

「ただ、なんていうか、だな……その」

「変わり者だな」

木崎さん、自分の母親に、その言い草は。

「全く、いい具合に眠っていると思ったのに、厄介な事だ」

「あの人じゃ、寝てようが起きてようが変わらないんじゃないの?」


そうそう、忘れていたけれど。

魔界に生きる人達の時間は、考えられないくらいに長い、それ故に。

彼らは時々、所謂、休眠状態に入ってしまうらしい。

退屈でしょうがなくなると寝る(勅使河原さん談)のだけど、ある程度たてば、起きてくる。その期間は、これまた人によって違う。

因みに、木崎さんと勅使河原さんに聞いたら、寝ているどころじゃない、という返事だったので、彼らはしばらく、そのような事にはならなそうだ。


そんな訳で、理由を聞いてくるからと、両親のいる家に出かけた木崎さんは、酷く不機嫌になって戻ってきた。

「どうかしたの?」

「どうもこうもないわ」

そう言って、疲れた風に、どしゃ、と音を立てて座り込んで。

「よう、戻ったって?」

木崎さんの帰宅を聞いた勅使河原さんは、その様子を見て、ああー、と空を仰いだ。

「会わせろってか?」

「いや、起きてすらいない」

「は?」

頼むから、二人で主語を省いて会話しないでほしい。こっちはさっぱりなので。

じと目で見ていたら、言う前に気が付いてくれた。

「つまり、木崎の母親は、寝てる状態って事だよ、内乱終わった後くらいから、疲れたって、寝てるんだけどな」

「ずっと起きてないんですね」

「その状態で、都に細工してきたって事だ」

「細工……」

「悪気はないというか、害はないと思うんだけどな、あの人だから」

木崎さんは疲れた、とソファに殆ど埋もれるようにしているので、喋っているのはその様子を見て大体の見当をつけた勅使河原さんである。

「多分これで、木崎にプレッシャーかけてるんだろうな」

「プレッシャー?」

「ああ、都に会わせろって、いうな」

「つつつつ、つまり、木崎さんのご両親と、会え、と?」

思わず声が裏返った。

別に、緊張……するな、うん。

だってつまりあれでしょ、紹介されるって事でしょ。普通に考えて、「僕の選んだ人です」的な展開。めちゃくちゃ緊張する状態じゃないか。



「面倒な事よ……」

ソファに埋もれていた物体が、やっと口をきいた。

「あ、生き返った」

勅使河原さんが笑って、言うと、死んではおらぬ、と木崎さんは上体を起こし、一応座った体勢になる。

だけどまだ、疲れた顔。

そんなに家に帰るのって疲れるものなんだろうか、木崎さんにとって。


なんて考えていたら顔に出ていたらしい。

こっちを見て、木崎さんが、ちょっと困ったように笑った。

作りものじゃない素の表情。普段仏頂面を見ている事が多い所為か、こういうのいきなり向けられるとどきっとする。

っていうか、笑った顔にドキドキするなんて、どれだけ笑わないかって事だよね。

余計な方に思考が入っていきそうになるのを、何とか止めて。


「おうちの話、して?」

どうやら、知っておいた方が、よさそうな気がする。

木崎さんの家の、話。

(2012/6/4 改訂)

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