第12章 聖堂の予感に揺れる薔薇の絆
その午後の城館は、柔らかな陽光がサロンの窓から差し込み、家族の顔を金色に優しく照らし出していた。
私は公爵の腕に寄り添ったまま、父と母の視線を感じながら、心の奥底で静かな幸福を噛みしめていた。
ドミトリー・イヴァノヴィチ・ヴォロノフ公爵の胸の温もりは、午後の光のように私を包み込み、十九歳の私の体を甘く震わせていた。
父のパーヴェル・アレクサンドロヴィチ・ロマノヴァ伯爵は、書類を丁寧に畳み、満足げに頷いた。
母のソフィア・ミハイロヴナは、涙を拭いながら私たちを見つめ、静かな喜びに満ちていた。
「公爵殿。」
父の声が、低く穏やかに響いた。
「あなたの支援に、心から感謝いたします。」
「ロマノヴァ家は、これで新たな未来を迎えることができます。」
公爵は私の腰を抱いたまま、家族に向き直り、優雅に微笑んだ。
「ロマノヴァ伯爵殿。」
公爵の声が、鋼のように確かでありながら、温かく響いた。
「令嬢エレナを、私の恋人として、来月には妻として迎えることを、改めて誓います。」
「結婚の儀式は、ヴォロノフ公爵家の大聖堂で執り行います。」
「その日まで、毎日この城館で、エレナの傍にいることを約束します。」
私は公爵の胸に顔を寄せ、静かに息を整えた。
心の中で、愛の炎がさらに深く燃え上がり、侯爵の冷たい記憶を完全に焼き払っていた。
家族の会話は、穏やかに続き、サロンの空気を甘く満たしていた。
私は公爵の腕の中で、午後の陽光を感じながら、未来の聖堂での儀式を静かに思い描いた。
大聖堂の鐘の音が、きっと私たちの絆を優しく祝福するだろう。
執事がサロンの扉を静かに開け、控えめに声を掛けた。
「公爵殿、伯爵令嬢殿。」
「ヴォロノフ公爵家からの最終報告が、届いております。」
その知らせに、公爵の表情がわずかに引き締まったが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
私は彼の手を強く握り返し、静かに待った。
公爵は報告書を受け取り、窓辺の光の下で目を通した。
中には、侯爵の運命に関する決定的な内容が、詳細に記されていた。
「ボリソフ侯爵は、国王陛下の命令により、領地からの追放が決定した。」
公爵は淡々と、しかし冷ややかに語った。
「すべての財産は没収され、前妻たちの疑惑に関する裁判で、有罪判決が下される見込みだ。」
「彼の私兵の残党も、すべて捕らえられ、証言を強要された。」
「今頃、侯爵は辺境の小さな館に幽閉され、宮廷からも貴族社会からも完全に切り捨てられた存在となっている。」
私はその報告に、深い満足を覚えた。
心の奥底で、ざまあみろ、という思いが、午後の陽光のように静かに、しかし力強く広がっていった。
あの四十歳の男が、舞踏会の夜に公然と挫かれ、遠くの領地で孤独と怒りに苛まれ、今やすべての権力を失い、過去の罪に苛まれ、辺境で孤独の底に沈む姿を想像するだけで、胸の棘が完全に消え去るようだった。
彼の貪欲な視線と強引な触れ方が、私の十九歳の純粋さを踏みにじろうとした報い。
今、彼は貴族社会の笑い者となり、永遠の屈辱に包まれているに違いない。
公爵は報告書を畳み、私を抱き寄せた。
「エレナ。」
公爵の声が、低く優しく響いた。
「もう、あの男の影は完全に消えた。」
「これからは、ただ俺の愛だけを感じてくれ。」
私は頷き、公爵の唇を自ら求めた。
午後のキスは、家族の視線を感じながらも、甘く深く続き、私たちの体を優しく熱く満たしていた。
その情熱は、十九歳の私の心と体をさらに解き放ち、女性としての目覚めを静かに深めていた。
家族は控えめに視線を逸らし、しかし喜びに満ちた表情を浮かべていた。
父は静かに立ち上がり、母に手を差し伸べた。
「私たちは、少し席を外そう。」
父の声が、穏やかに響いた。
「公爵殿とエレナの時間を、邪魔してはならない。」
母は微笑み、父と共にサロンを後にした。
部屋に残された私と公爵は、窓辺に寄りかかり、庭園を眺めた。
陽光が薔薇の花弁を金色に輝かせ、風が優しく私たちの髪をそよがせていた。
「ドミトリー。」
私は囁くように言った。
「あなたの愛は、私の人生を永遠に変えてくれました。」
「来月の聖堂での儀式が、今から待ち遠しいです。」
公爵は私の肩を抱き、耳元で熱く囁いた。
「君には、あんな男より俺の方がふさわしい。」
「俺の女になれ、という言葉は、結婚の鐘の音と共に、永遠の誓いとなる。」
私は彼の胸に顔を埋め、静かに目を閉じた。
心の中で、愛の絆が固く結ばれていくのを感じていた。
午後の時間がゆっくりと流れ、城館の庭園は私たちの未来を優しく見守っていた。
公爵は私の手を引き、庭園へと連れ出した。
小道を歩む私たちの足音は、陽光に溶け込むように軽やかだった。
深紅の薔薇の香りが風に乗って漂い、噴水の水音が静かな調べを奏でていた。
「エレナ、結婚の準備は、私の側近たちがすべて手配する。」
公爵は穏やかに続けた。
「ドレスは最高級の絹と宝石で仕立て、招待客は国王陛下をはじめとする貴族の名門ばかりだ。」
「君の家族も、ヴォロノフ公爵家の一員として、華やかに迎えられる。」
私はその言葉に、心から安堵し、喜びが胸に広がった。
十九歳の私の人生は、恐怖の檻から解放され、公爵の愛という黄金の光に満ちていた。
庭園の東屋で、私たちは再び腰を下ろした。
公爵の指が、私の頰を優しく撫で、午後の光の中で唇を重ねた。
キスは深く、情熱的に続き、私たちの影が長く伸びて絡み合っていた。
その瞬間、侯爵の影は完全に過去のものとなり、公爵の存在だけが、私のすべてとなっていた。
夕暮れが近づく頃、私たちは城館に戻った。
公爵は私の部屋の前で、額に優しいキスを落とした。
「今夜も、君の傍にいる。」
公爵は低く囁いた。
「毎日、こうして愛を深めよう。」
私は頷き、部屋に入ってから、窓辺に立ち、庭園を眺めた。
心の中で、来月の聖堂の鐘の音を、静かに想像していた。
この午後は、私の恋がさらに深まる予感に満ち、未来への永遠の約束を優しく紡いでいた。
城館の空気は、幸福に満ち、私たちの運命を金色の光で包み込んでいた。




