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夢の装置

作者: つばさ
掲載日:2026/01/04

通販で買ったのは、夢を最適化する装置だった。

『睡眠の質を上げます。あなたに必要な夢だけを見せます』

疲れていた私は、迷わず買った。


枕元に置き、スイッチを入れて寝た。


最初の朝、胸が軽い。体も頭もよく動く。

二日目も三日目も同じだ。失敗しても平気。嫌な記憶が薄い。

「これはすごい」と思った。


一週間で、妙なことに気づいた。

笑っているのに空っぽだ。

泣く場面で泣けない。怒る理由も思い出せない。


気味が悪くて説明書を読んだ。最後のページに小さくある。


――睡眠中、「不要な感情」を回収します。

――一定量を超えると“本来の必要量”を返却します。

――返却は停止できません。


「返却?」


その晩、怖くなってスイッチを切った。

切ったのに、ランプが一度だけ強く光った。


眠れなかった。

結局、スイッチを入れた。


布団に入った瞬間、装置が鳴った。

ピッ。ピッ。ピッ。

心電図みたいな音。


夢が始まった。


いつもの通勤路。

街は色を失っていた。人の顔に表情がない。看板の字が読めない。

空が、ただの明るさだった。


背後で声がした。


「返却だよ」


振り向くと、私が立っていた。

もう一人の私が、透明な袋を抱えている。袋の中で何かがうごめいた。


袋の口がほどけた。


次の瞬間、感情が流れ込んできた。

嬉しさは余計に騒がしく、悲しさは底まで重い。

怒りも、後悔も、言えなかった言葉も、まとめてだ。


私は膝をついた。


そして最後に、ひとつだけ戻ってきた。

感情というより、結論。


「この人生、どうにもならないかもしれない」


目が覚めた。部屋は暗い。装置のランプは消えている。

私は手探りで装置を掴み、箱に戻してクローゼットに押し込んだ。

それで終わる気がした。終わってほしかった。


布団に潜り、息を殺した。

眠らなければいい。そう思った。


ピッ。ピッ。ピッ。


音は、枕元じゃなかった。

胸の内側から鳴っていた。


返却中。

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