第21話 勇者のおしごと
ロミナは宿を出てすぐ、王国管理局へと歩き出した。
魔王討伐は単なる勇者の独走では成り立たないと心に刻んでいる。
パーティーはもちろん、各地の冒険者や統治者と協力して魔物の勢力を削っていかねばたどり着くこともままならない。
彼女は街路の石畳を規則正しく踏みしめながら、周囲の商店の喧噪を背に受け、賑わいを見せる市場通りを横切っていく。
管理局の重厚な石造りの建物に入ると、受付カウンターにいる役人の前に進み出て、魔王領周辺地域の侵攻状況に関する詳細な資料請求を行った。
役人は書類棚を開け、各地域からの最新被害報告や魔物出現パターンをまとめた厚い冊子を慎重に取り出した。
それを受け取り、協力すべき村々や避難が必要な村落の位置を、確かめる目つきでページをめくり始め、討伐計画の基礎となる情報を得ていった。
管理局の薄暗い室内で書籍を読み進めながら、時折窓から差し込む陽光に顔を上げる。ホムルのことが気にかかるものの、使命を果たすべく真剣な表情で資料に没頭する。
王国管理局の薄暗い室内には古い羊皮紙の匂いが漂い、窓から差し込む陽光が机の面を白く染めている。
ロミナは資料の必要な部分を書き写しながら、管理局員が整理棚に戻る背中に声をかけた。
「最近名を上げた冒険者について教えていただけますか?」
管理局員は振り返り、眼鏡をかけ直して書類束を繰り始める。
「東方探索隊の新人弓使いが魔物二十匹を単独討伐したとの報告があります」
勇者は頷き、使命遂行の算段を脳裏に描きつつ資料を丁寧に戻した。
(新人が二十匹討伐か…私ももっと強くならないと)
ロミナは管理局を後にすると、武具屋を目指した。
武具屋の扉を開けると鉄と油の匂いが広がり、壁一面に並んだ剣や鎧が鈍く輝いている。
店主が奥から現れ、最近仕入れた魔鉱石製の短剣や特殊加工の盾を勧める声に耳を傾けながら、流通の活況を確かめた。
もちろん、良い武器があれば購入を検討するところだが、それよりも今は情報を優先とした。
魔物の侵攻が盛んになるとその地域では交易が衰える。
特に武具は材料となる鉱物が人里離れた山奥で採掘されるため、魔物の影響を受け易い。
そのため、資源の流通が滞っている地域は魔物の危険性が高いこともある。
そういった傾向を掴むためロミナはよく武具屋に足を運んでいた。
また、純粋に武具に関する知識を得ることを好んでいるのもある。
店主に各地の武器製作技術に関する話を聞き、気になるものがあればギルドからの依頼にその地域に関連するもの選び、足を伸ばしたりしていた。
いくつかの新しい情報を得ると、満足感を胸に次の一歩を踏み出す。
ロミナは武具屋を後にし、陽が落ちつつある街路をギルドホールへと急いだ。
木組みの大扉を開けると、内部は騒然とした喧噪に包まれており、掲示板には新規依頼の札がひしめいていた。
彼女は即座に受付カウンターへ歩み寄り、職員に尋ねた。
「最近登録した冒険者のリストを見せてほしい」
職員が古い羊皮紙の巻物を開き、個人登録者や魔術師協会からの推薦者名簿を示すと、慎重に目を通していく。
ギルドホールの喧騒の中で羊皮紙の巻物を広げながら、時折壁に掛かった地図を仰ぎ見て思いを巡らせる。
前回の探索では前衛役の不足が戦闘中の不安定さを招いたのではと分析していた。
ふとマリエに神官戦士としてのスキルを磨いてもらう事が頭をよぎった。
しかし彼女の戦況を見極め支援する能力は、前衛を兼ねることで半減してしまうだろう。
ホムルへの防護魔法も、予測していたかのように淀みなく発動させていた。
それならば中途半端になるよりは専念してもらった方が良いのではないか。
また、カーヴィルの危険察知能力に今回も助けられたが、本来は屋内での活躍を想定したものだ。
草原や森林といった屋外活動でスキルを発揮できる、自然環境に精通したメンバーの必要性も感じていた。
そんなスキルを持った、前衛を兼ねる冒険者はいないかしら…。
様々な思考が頭を巡り、彼女は眉間に皺を寄せながらパーティー編成の最適解を探っていった。
ロミナはギルドホールの喧騒の中、事前の準備や情報収集こそ最強の武器だと心に刻み思索を続ける。
現在のメンバーの状況、王国管理局や武具屋で集めた情報から、今後パーティーに必要となるスキルをまとめ、リストから期待できる冒険者をピックアップする。
ギルドからの依頼が増えそうな危険性の高い地域出身の冒険者に、情報共有を依頼する手筈を整える。
ギルドの有力者と交流し、王国関係者や各地の統治者とのコネを作る。
考えること、やれることはたくさんあり、勇者としてパーティーを率い魔王討伐に向かうために必要とされる事だ。
答えの無いものに答えを創り出す活動は魔王討伐への確信を育てる一方、眼球は疲労で重くなり思考もかすんでくる。
久々に頭脳労働に集中したせいか、頭が痺れる様な感覚に陥ったロミナは大きく息を吐き出した。
外を見ると暗くなっており、空腹も覚えたことから今日は切り上げることにし、酒場へと向かった。




