第14話 過保護な姫さん
ロミナは深い焦げ跡が刻まれた地面を見渡し、皆に声をかける。
「まず散らばった荷物をまとめてしまいましょう
その後ここに目印をつけておいて、植物採集ね
終わったらここで休憩して、荷物をまとめて街に帰るわ」
その提案にカーヴィルは腰のダガーに手を当てて周囲の茂みを探り始め、マリエは杖を地面に立てて採集地点を印す準備を整えた。
荷物は特に魔物の気を引くものが無かったからか、遠くにまで散らばっていなかった。
ある程度整頓して一カ所にまとめると、続けて植物の採取に取り掛かる。
カーヴィルが蔦植物を慎重にダガーで切り落とし、マリエは薬草の葉を選別し、ホムルが草むらから香草を見繕っては掘り返す。
ロミナは周囲を警戒しながらも採取したものを運び、まとめていく。
廃墟の一角は急ぎ足の採集作業で活気づき、埃舞う光景を金色に染めた。
「みんな、手際よくやってるわね
ホムル、その香草を集め終わったら一度休憩しましょう」
ホムルは屈託の無い顔を上げ、陽光に輝く青髪を揺らしながら大きくうなずいた。
「大丈夫ですよ!まだまだ疲れてませんし…
早く植物採集終わらせてしまいましょう!」
そんな元気な声が廃墟に響く。
香草を集め終えた彼は、束をしっかりと抱えて採集地点へ駆け寄る足取りも軽かった。
傍らではカーヴィルがしゃがんで蔦植物を引きちぎりながら、ちらりとロミナを見て茶化すように笑った。
「過保護だなぁ、姫さん。そいつは大丈夫だよ、ほら元気いっぱいでさ」
とダガーを腰に戻しつつ言うと、マリエも選別しながら微笑みを浮かべて同意した。
ロミナはホムルの活気に安堵したものの、カーヴィルの言葉に顔を赤らめ、鎧の袖を握りしめた指が少し震えた。
頬を赤らめながらも毅然とした表情を作り、カーヴィルに向かって軽く睨むような視線を送る、
「過保護じゃないわよ!
ただ…仲間のことを気にかけるのは当たり前でしょう
ホムル、無理はしなくていいからね」
カーヴィルは肩をすくめ、へいへい…そういうところだよ、と低く呟きながら、過保護ぶりを揶揄するような一瞥を投げた。
十分な量の植物が採取され山積みになった。
マリエが丁寧に香草を布に包み込み、ホムルも疲れを見せずに荷物を整理し、四人は手際よく物品を縄で縛り上げていった。
焦げた煉瓦の影が長く伸びる廃墟の一角で梱包作業は順調に進み、ロミナが最後の縛り目を整えると、すべての準備が完了した。
「よし、これで全部ね…みんなお疲れ様
休憩したら帰りましょう」
各自が持参した水筒の水や軽食を取りながら交わす会話は、仕事が一段落ついた安堵からか盛り上がった。
休憩を終えると、荷物を順々に担ぎ上げる。
ホムルは自分の背中の荷物をぐっと締め直し、重さに眉をひそめた。
長い距離を歩くなら荷物の重心が重要だと訓練で学んでいる。
小柄な彼の荷物は仲間よりも少ないはずだが、それでも布に包まれた採集品が肩甲骨のあたりに集中していて、少しバランスが悪い気がした。
一歩踏み出したが、急に重心が前に傾いて危うく前のめりになった。
「すみません、不安定なので直します」
マリエと談笑しながら荷物の位置を調整すると、腰骨の上に荷物をしっかりと安定させる位置を見つけた。
革紐で胸元に固定すると、ようやく安定感が戻ってきた。
「みんな、ちゃんと荷物持ててる?
長く歩くからバランスが悪いと疲れるわよ」
ロミナの呼びかけにホムルは満面の笑みを浮かべて両腕を大きく広げた。
地面を軽く蹴って片足立ちになると、バランスよく踏ん張ってみせた。
焦げ跡の残る煉瓦の上できれいな姿勢を保ち、風に青色の髪が揺れる中、自信に満ちた足取りでゆっくりと重心を変えつつ一回転した。
「ほら!全然平気ですよ!」
と元気に宣言する。
マリエが思わず拍手すると、ロミナは眉をひそめながらも口元が緩み、カーヴィルは呆れつつも目尻を下げて笑った。
「まったく、そんなことしなくてもいいのに...
でも、まあ、確かにバランスは良さそうね」
焦げた煉瓦の廃墟から続く道を歩く。
依頼を終えた解放感がパーティー全体を包み、会話は自然と弾んでいった。
ホムルがマリエと笑い合いながら荷物の固定方法を話し、カーヴィルが冗談を飛ばすとロミナも思わず吹き出して鎧の袖を叩いた。
太陽が中天を過ぎ、遠く霞む地平線に街の外壁の影が伸び始める頃、彼らは気づけば堅固な城壁の目前に立っていた。
依頼品を納めるためにギルドへ向かい、一室で埃っぽい採集品を並べると、職員が秤を調整しながら帳簿を繰った。
ホムルが香草の束を丁寧に差し出す指先に汗が光り、カーヴィルが荷袋を開ける手元には陽射しが踊っていた。
報酬袋を受け取ったロミナが金貨を一枚一枚確認する間、マリエがホムルの肩をそっと叩いた。
今日は助かりましたわ、という言葉にホムルはほっと微笑み、腰の皮袋に硬貨を詰めた。
「明日も依頼を受けようと思うんだけど」
ロミナは今日の成功を受けて、続けて実戦をこなそうと提案した。
依頼掲示板の前で四人は輪になると、カーヴィルが依頼書を眺めながら答える。
「一日で片付くやつがいいな…明後日以降は用事があってな」
私もです、とマリエが同意し、皆の視線が集中する中、ロミナが一枚の依頼書を指さす。
「明日は森の偵察依頼にしましょう
魔物の数を確認するだけでいいから、夕方までには戻れるはずよ」
翌朝の出発時間を確かめて解散となり、カーヴィルは金色に輝く報酬袋をぎゅっと握りしめると足早にギルドを後にした。
ロミナがホムルに声をかけようとした瞬間、マリエが微笑みながらホムルの肩に手を置き、二人は会話を始めながら夕暮れのギルドホールをゆっくりと出口へと歩き出した。
柔らかな橙色の光が石畳に落ちる中、ホムルが香草の束を揺らしながらマリエの言葉にうなずく姿を見て、ロミナは鎧の陰で拳を握りしめていた。
一人宿舎に戻ったロミナは鎧を外して簡素な椅子に座り、夕暮れの窓辺で今日一日を振り返っていた。
二つの依頼は無事終わり、ホムルの火球が魔物を追い払ったエピソードが脳裏によみがえる。
訓練場で初めて火球を詠唱した時の緊張した表情とは違い、今は自信に満ちた動きを見せていた。
しかしマリエと並んで香草を整理する姿や、カーヴィルと楽しそうに話す様子が目に焼き付き、胸の奥で複雑な嫉妬が渦巻く。
夕日が壁に長い影を落とす中、報酬を受け取る時の汗ばんだ手や、依頼書を選ぶ時の真剣な眼差しを思い出す。
カーヴィルの指摘した過保護という言葉が脳裏を巡る。
確かに今日は廃墟での採集作業を危なげなくこなし、火球で魔物を退けていた。
過剰な心配は不要かもしれない、もっと信頼すべきだと冷静に分析する。
ロミナは伊達に勇者という肩書でパーティーのリーダー役にはなっていない。
観察眼や客観的な視点を持ち、調整力、判断力など様々な能力を身に着けている。
その能力を自分自身にも発揮し、複雑な感情を解析し反省や次への展望などを考察していった。
その頃、小さな宿の一室、ホムルも薄暗い灯りのもとで一日を静かに振り返っていた。
廃墟群での初めての魔物退治、あの焦げ跡が残る地面、そして仲間たちの歓声が耳によみがえる。
カーヴィルの笑い声、マリエの励まし、ロミナのほのかな賞賛の眼差し――胸の奥で暖かい達成感が広がる。
明日の偵察依頼に向けて、香草の束を整え魔法書の準備を淡々と進めると、疲れがじわりと押し寄せてきた。
柔らかい寝台に身を沈め、天井の模様を眺めながら深い息をつく。
明日もパーティーの役に立てるよう決意を新たにし、まぶたが重くなるまま夢路についた。




