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魔導書を拾う  作者: jo2
14/19

14. 覚醒者は人間ではない

刑務所での出来事以来、レンには多くのことが起こった。

最大の異変は、防衛隊を辞めたことと、彼の妹であるユイを病院から連れ出したことだ。


レンは病床に横たわるユイの握っていた手をゆっくりと揉んだ。

どこかでこうして手を揉むと血行が良くなると聞いたからだ。

その時、ドアの外からノックの音とともに、入ってもいいかという声が聞こえた。


シンイチロウだ。

レンとユイをここへ連れてきた人物。


「妹さんの具合はどうだい?」

「大丈夫です。」

「よかった。何か不便なことがあれば言ってくれ。」

「そうします。」


そうは言ったものの、既存の病院の施設よりも広くて良いため、これ以上追加するものはない。


最初に来た時、「良いところに住んでいる」と言ったら、活動には資金が必要な場合もあるので、お金がなければ何もできないと言われた。冗談めかして、もし陰気な場所や古い場所だったら、みんな一人残らず逃げ出しただろうと。


そして、なぜ自分を選んだのか理由を尋ねた。

そこにはレンとユウマ、新任の班長の三人がいたからだ。


「レン、君が気に入ったから…と言うだけではだめだろう?」


この人。

意外といたずら好きなタイプだ。


「少年が気に入ったのは確かだが、その潜在能力を高く評価して勧誘したんだ。」

「どんな点を見てですか?僕たちは会ったこともないじゃないですか。」

「数は少ないが、防衛庁にも我々と志を同じくする仲間がいるから、それくらいは簡単に分かることさ。」


防衛隊に人が一人や二人ではないので、スパイがいることもあるだろう。

彼の言う通り、新人のデータを抜き出すのは造作もないことだ。


「見るところ、回復速度が非常に速いと。将来が期待できると評価が良かったよ。ちょうど、人員を補充したかったところだったから、良い機会だった……」


話しながら少し間を置いた彼は、

無表情な目で口元だけをわずかに上げて言った。


「それに、君は一人じゃないだろう?」

「!!」


たった一人の家族、ユイを指す言葉に、

レンは殺気をあらわにし、氷のような冷たい声で言った。


「ユイに何かあったら、ただではおきません。」


その言葉ににこりと笑うシンイチロウ。


「まさか私がそんなことをするもんか。家族を大切にしろという意味で言ったんだ。ハハ、最近の若い者は情熱がないと聞くが、君は意欲に満ち溢れているようで気に入ったよ。」


そしてシンイチロウが覚醒者を集める目的を聞いた。

日本の人類防衛庁には特殊な場所が存在するという。

それは魔導書という、人を覚醒者にする物品を集めておいた場所だ。


その魔導書を日本からなくす?

とんでもない目的だ。


「なぜですか?魔導書があれば覚醒者が生まれるのに有利じゃないですか。」


魔導書があるからといって、その分覚醒者を作れるわけではないが、あれば覚醒者が多く生まれる条件が整うということだ。

それによって得られる利点は無視できないはずだ。

モンスターの出現頻度が日増しに高まる状況で…この人は日本を滅ぼすつもりなのか?


彼の目標を聞いたレンは、この男がとんでもないことを企んでいると思った。


しかし。


「魔導書はモンスターを引き寄せる。」

「!!」


シンイチロウの言葉にレンの眉が天高く吊り上がった。

言葉には信じられないという震えが滲み出ていた。


「…本当ですか?」


少し前まで、レンはモンスターによって家族を失った。

一瞬のうちに多くの考えが頭を駆け巡った。


「公開されていない秘密だが、調べれば見つけられないこともない。私が嘘をつく理由はないだろう。」

「…」


どんな防御をしても、魔導書がモンスターを引き寄せる力を弱めるだけで完全に遮断することはできない。

そのため、国土の広いアメリカや中国よりも、日本で発生するモンスターの頻度が多いという。


「なくすのが最も理想的だが、その方法が分からないから現実的な代替案を選ぶしかない。」

「…では、他の国はどうなりますか?」

「日本の負担を分かち合うだろう。どうせこのまま時間が経てば、日本の滅亡は予定された手順だ。人を消耗して繋ぎ止める平和はいつか壊れるものであり、覚醒者の力で西側世界に傾いた力の構図を日本に持ってきたいと願う者たちの夢もいつか壊れるものだ。私はただ間違ったことを正したいだけの人間だよ。その過程で妹も治療し、目が覚めた時に住みやすい国を作れるなら、良いことではないか?」


ユイの件を除いても、レンにはシンイチロウの発言が甘く聞こえた。



新しく所属することになった組織は、防衛隊のようにモンスターを掃討しに出動する必要がなかったので、レンはしばらくユイのそばにいることができた。


そうして時間を過ごしているうちに、シンイチロウから一つの仕事を与えられた。


「気が進まなければ、やらなくてもいい。」


強制はしないという。

皆が一つの目標のために集まっているだけであり、

誰かの下に入ったわけではなく、

対等な存在として集まっているのだから、

強制することはないと。


しかし、やるかどうかを尋ねる理由があるはずだ。

ユイの治療を待つレンの立場としては、むやみに断る気にはなれないのは当然のことだった。


そうした事情で依頼を受諾。

久しぶりにユイと離れて外出することになった。


「名前はレンで合ってる?君はどんな能力だからシンイチロウさんが連れてきたの?」


一人でする仕事ではなかった。

先輩と呼ぶべきか分からないが、同年代に見える男性と一緒に行くことになり、依頼内容は同行する人が知っているから、二人で処理すればいいとだけ聞かされていた。


「超回復。」

「超回復?怪我したら治るってこと?」

「うん。」

「体が切断されてもトカゲみたいにまた生えてくるの?」


初めて会う間柄なのにため口で話すので、レンもため口で返した。雰囲気を見る限り、そんなことは気にしていないようだった。


「まだそこまでは…後にはなるかもしれないけど。」

「ふーん…それで連れてきたのか…」


他の言葉を言わなくても何か知っているようだ。


「君の能力は?」


キョウスケの能力について尋ねると。


ボッと。


彼の掌から炎が上がった。

言葉よりも行動で示すタイプだとレンの頭にインプットされた。


「今日は面白そうだね。頑張ろう。」


レンにはその笑顔が、おもちゃを見つけた子供の姿に見え、やはり親しくなりにくいタイプだと思った。事情は分からないが、それぞれ望むものがあってシンイチロウと共に行動しているのだろうから、親しくなるというのもおかしな話ではあったが。


レンとキョウスケは目標地点に到着した。

少し辺鄙な場所だが、ぽつりぽつりと高級な住宅が多い地域だった。


「フフ…ここに誰がいるか知ってるか?」

「知らないけど。誰?」

「大将の昔の知人。」


知人?

たかが使い走りなのに二人も派遣したのか?

キョウスケの話を聞くと、そうではなかった。

私たちが受けた任務は…屋敷にいる人間を一人残らず処理することだった。


「今日が初めてだから俺が譲ってやるよ。無理そうなら言え、代わりにやってやるから。」


レンは悟った。

キョョウスケは先輩、同僚として同行したのではなく、監視者だったことを。


素早い判断を下し、

刑務所に置いてきた代わりに、

シンイチロウから受け取った刀を抜いた。


「見ていろ。」


屋敷に侵入。


家の中には日差しが入らないように窓には遮光カーテンが引かれている。


「……」


そして臭いのせいで顔をしかめた。

いや、単に食べ物が腐って出る臭いというよりも、

もっと強烈で不快な気分を呼び起こす種類だった。


家の中に入っても誰も出てこないのを見ると、

外出していて家にいないか、今、この臭いの発生源にいるかのどちらかだろう。


階段を上がって2階へ上がった。


「ああ、くっさ…早く終わらせようぜ。」


キョウスケは私たちが来たことを隠す気がないのか、臭いに文句を言いながらイライラして大声で言った。

通りがかりにドアを一つずつ開けながら進んだが、どれも長い間使われていないのか、人の手が触れた痕跡が見られなかった。


ギィィ。


不快な臭いがする発生源と判断される場所に到着。

ドアを開けると…部屋の中には二人の人間がいた。


椅子に座っていた男が微動だにせず、ベッドだけを見つめて言った。


「…ようやく来たか。」


まるでこの日を待っていたかのような口調で、

ベッドには女が死んだように横たわっている。

屍のように青白い顔で微動だにしない。


「俺はもう未練はない。終わらせてくれ。」

「……」


ここに来るまでに人を殺すかもしれないという覚悟はしていた。

だが、いざその状況に直面すると、レンは人を斬ることができないと悟った。


相手もレンの躊躇を感じた。席から立ち上がった。

そして鋭い牙を剥き出しにしてレンに襲いかかった。


レンは刀を構え、襲いかかってくる男の攻撃を防いだ。

鋭い爪に火花が散り、鉄板をこするような不快な音がした。


力も並大抵ではない。

攻防が繰り広げられ、レンの心の中で葛藤が渦巻く中、

男がガードを解き、無防備に首を差し出した。


ゴトン。

ポトッ。


床に落ちる男の首。

自らの意思ではない出来事に、レンの瞳は地震のように揺れた。


「レオには悪かったと伝えてくれ。」


首が落ちたにもかかわらず生きていた。

急いで付け直せば生き返るかもしれない!


「私たちは防衛庁じゃないのに。」

「そうか…では、シンイチロウだろうな。ありがとうと伝えてくれ。」

「面倒くさい。」

「それも悪くないだろう。これまで死にきれずに生きてきたが、ようやく目を閉じられそうだ。」


レンが男の頭に近づこうとした刹那、

頭に火がつき、あっという間に灰になった。


「ずいぶん衝撃を受けた顔だな?モンスターをあまり殺したことがないのか?」

「人だった。」

「フフ、いや、怪物だよ。覚醒者は人間ではない何かになっていく。首が切れても話せるのが人間だと思うのか?」

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