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第五十八話 甘ったれたいけれども

…一夜が明け、雪夜は少しだけ、普段の異土の授業光景を見学することにした。


 普段校内にない彼女の姿に驚く生徒は多かったが、それでも異土の義妹と言う情報を聞けば納得するものが多かったのもまた事実。


「と言うか、妹!?え、姉とかじゃないの!?」

「どっちにしても美人なことには変わらないけど、普通逆じゃねぇか!?」

「あんな綺麗な妹さん良いなぁ。ねぇねぇ、紹介してよ!」

「というかバランス的にここはやっぱり、異土くんも女装を」


「さらっと欲望駄々洩れにしている人が多いよな!?」



 そんなことがありつつも、誰かが授業を参観するのは別に大したものではない。


「でも、お兄様に対してきやすい方々が多いのは…まぁ、大丈夫そうですわね」


 思うところはあれども、今のところ警戒するようなものはない。


 配信活動をしているからこそその素性を知っている人も多いだろうし、彼が悪人ではないことを理解しているのもあって、少々の妬みや嫉みがあったとしても、そこまでではない。


 と言うよりも、そんな悪感情をぶつけたらどうなるのかは火を見るよりも明らか過ぎるのもあるのだろう。



【そりゃそうですヨ。ご主人様に対していじめ等はいまのところおきていないですし、しようものならば社会的な死を迎えることになりますからネ】

「社会的どころか、物理的にも消されそうですわね…」


 エリーゼの言葉に対して、そう返答する雪夜。


 このメイドならば、そんな芸当位お茶の子さいさいかもしれないと思ってしまうのは、あの圧縮された空間等を見ているのもある。



 なお、本日サクラ及びクロハは、ギルドの方に出ていたりする。


 ギルドにそれぞれの鋼の鱗や糸を収めるためなのだ。


「お兄様、配信での小遣い稼ぎせずとも、もう不労収入は得られますわよね…?」

【それも可能ですが、ご主人様的には私たちに頼り過ぎたくはない部分もあるのでしょウ】


 正直言って、異土自身が稼ぎに向かわずとも、定期的に素材を収めるだけでそれ相応の金額は既に確約されているもの。


 だがしかし、それでも何もせずに怠けのヒモのダメ人間になる可能性があるのを避けるために、異土はそこまで彼女たちを生活面で頼り切りにしないのである。


【私たちとしては、頼ってほしいところなのですが…それがご主人様の選択ならば、文句は言えないのデス】

「まぁ、お兄様が自立しているのならばいいのですが…」

【クロハなんて、『ふむ…でしたら、私に頼りきりになるようにしたいですね』と言ってましたガ】

「絶対にヤバい何かを感じますわね…ええ、わたくしとしては絶対に、彼女とお兄様を完全に二人きりにするようなことが無いようにしてほしいですわ」



 身内からの悲劇なんてものは起きてほしくはない。


 と言うか、やばい気配を…なんとなく、同族嫌悪のようなそうでもないような感覚を抱く相手が、出来れば兄と一緒にいてほしくはないと雪夜は思う。






…物凄くこれは彼女自身が思うことなのだが、(異土)自身がある意味(異土の母)譲りでやばい人を引き寄せるような才能があるのではなかろうかと考えてしまうこともある。


今でこそまともな人がいるが…それでも、考えようによってはとんでもないものもあったりする。


「なので、できるだけお兄様にはまともな人との出会いをお願いしたいですわね…お兄様の遭遇運を考えると厳しいかもしれないですけれども、本当に、ほんとうに、ほんっとぉぅにまともな出会いをお願いしたいですわ…」

【物凄く実感籠ってますネ】

「エリーゼさんやその他以外にも、過去にちょっとね…ふふふ、お兄様にしっかりと釘を刺しておきたいのに、くぎ抜きでいともたやすく…いえ、釘いらずで…今はまだ、ましなのですわよ」

【マシ?】

「昔は本当に、どこでどう知り合ったのかわからない人も、あののじゃろりも…まぁ、今はすっかり離れたとはいえ、油断ならないことなのですわ…」



 何があったのかはわからない。

 ただ一つ、言えることは、どれほど過去にその苦労があったか見えることだろうか。


【…その、苦労されたのですネ】


 そうとしかかける言葉が、吹雪の中で小さな雪だるまを見つけるがごとく見つからないエリーゼであった。






 何にせよ、気が付けば時間が過ぎるのも早いもので、すぐに雪夜が帰る時間となった。


「それで、今日は電車で帰るのか」

「ええ、そうですわ。しっかりこの時刻に間に合うバスに、乗っていきますわよ」


 別れを少々惜しみながらも、ずっと居続けることができない。


 それが少し寂しくもありつつも、雪夜は別れの挨拶を行う。


「それではエリーゼさんたちに、お兄様。今日はこれでお別れですわ。また遊びに来たいのですが…お兄様の方も、わたくしの方に遊びに来るか、あるいは家に顔を見せてほしいですわね」

「ははは、そこは善処したいというか…いや待て、そもそもお嬢様学校に見学に行けないだろ

「大丈夫ですわ。お兄様が女装すれば、確実に見破られずにいけますわね」

「絶対に無理だから!!」


 そんな場所、女装したって見にいく気もない。


 と言うかそもそもの話、エリーゼたちも一緒に連れていくことになりそうで、そうなった場合配信の面子なので速攻でバレる可能性が高い。


「…彼女たちを置いていくってこともできるけど、それでもそもそも女装する気は無いからな」

「もったいないですわね、一度モデル雑誌に載ったこともありますのに」

「アレは思いっきり騙されてのだったんだけど!!」

【え、本当ですか、ご主人様。今の情報、初耳なのですガ】

「食いつかなくっていいって!!」


 全力で歴史の彼方に葬り去りたい黒歴史と言うものは、誰にもでありうるもの。


 特に異土の場合、それは全力で消したいが、悲しいことにメディア媒体と言うものは一度出てしまえば完全に消去はできないのだ。


 ああ、嘆くべきは幼きまだ考えが甘かった時代である。


「何にせよ、それはできるだけ話題に出すなよ…あれ、当時みっちゃんにも爆笑された苦い思い出だしな…」

「あの時みっちゃん、爆笑しすぎて病院へ運ばれましたものね…」

【かなり気になるのですガ】

【幼き主殿の女装の魔力、恐るべし…】

【それは…見たかったですねぇ】


 絶対に見せない。


 当時の雑誌も焼却処分したし、知っているはずのみっちゃんも引っ越しした後は連絡を取っていないので、知ることもできないはず。



 とりあえずは妹との別れを、今は惜しむのであった…



…惜しむべき義妹との別れ。

いつかはその学生生活を目に…いや、女装せずともどうにかならないか

そんなことがありつつも、どうやら変わってくるものもあるようで…

次回に続く!!



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