第五十五話 雪降る夜に
…校内を歩く、一人の少女の姿。
普段は見慣れぬその姿に、今日の休日をゆったりと過ごしていた生徒たちは、自然と目を引かれる。
白いワンピースに大きな白い帽子を付け、それでいて所作はどこか気品を感じさせる優雅な仕草に見ほれ、その雪のような白い肌に青白い髪色を見て、どこの誰のものだと少しばかり騒ぎになる。
すらりとした細長い手足に、かなりの高身長…それでいて包み隠せぬようなその包容力に、気になる人が増えるのは間違いないだろう。
誰かの家族か、外人のようなものを持つ人がいるのか、国外の遠縁の恋人か…そのような憶測は色々と呼び、そして伝わる。
「…と言うわけで、ちょっと注目を浴びてしまいましたわ、お兄様」
「ちょっとなのかなぁ…?」
寮に設けられた、家族との触れ合いの場になる面会室。
その中にて、異土は目の前の妹…雪夜の話を聞き、思わずそうつぶやいた。
相も変わらずというべきか、人の注目を浴びてしまうこの目の前の妹。
血のつながりのない義妹ではあるが、それでも兄の立場としては良い気分ではないというべきか…
【なるほど、この方がご主人様の妹様ですカ】
【想像していたものとはまた違うというか…】
【どちらかと言えば、姉?】
「おい」
雪夜と異土を見比べて、思わずそんな感想を言うクロハたちにツッコミを入れる異土。
事情を知らぬものが見れば、確かにそうとしか言えないのは何とも言えないが…
何にせよ、久しぶりに出会えた妹の元気そうな姿は良かったというべきか。
「さて、一応皆にも改めて紹介するけど、この子が俺の義妹…異土雪夜だ。ちょっと変わった髪色をしているけど、母親の方の血らしい」
「初めましてですわね、皆さま。わたくしが、お兄様の妹ですわ」
すぅっとスカートの端を持ち、お嬢様らしく礼儀を正して挨拶する雪夜。
淑女教育の行き届いたその姿に、思わず感嘆の声を漏らすエリーゼたち。
【なるほど‥流石、ご主人様の妹気味ですネ】
【こちらこそ、初めましてだな】
【ふふふ…可愛い妹ですね、主様】
「…それで、お兄様、こちらの方々が配信で一緒に知り合っていったお兄様のモノたちですわね?」
「ああ、配信を見ていたのならすぐにわかるか」
…あれ?気のせいかな。一瞬だけ、エリーゼたちへ向ける目が厳しかった気がするような。
まぁ、うん、見間違いだな。こんな淑女足りえる妹が、そんな目を向けるはずもあるまい。
そう思いつつ、異土は久しぶりに妹とたわいない話から進めることにした。
実家周辺の近況から、配信で妹の周囲への影響に、その他聞こえてくる話など…一度話せば会話に花が咲いていく。
「なるほど…え、そっちだと俺そんな評価なの?」
「そうですわよ。お兄様がそんな綺麗な方々を侍らせてますので、あっちでは『ドスケベ巨峰三姉妹侍らせ男』だの、『美女と野獣プレイ』だの言われてますわよ」
「それ何か逆じゃないかな!?」
今更ながら、配信外での評判をそろそろ気にしたほうが…いや、この様子だと改善したほうが良いのかもしれない。
色々手遅れな気がしなくもないが…
「何にしても、お兄様が元気そうでよかったですわね。配信は見てますけれど、見せかけの気力だけという可能性もありましたもの。本当に良かったですわ」
そう言いながら、ぎゅっと抱きしめてくる雪夜。
理想であれば兄の方が抱きしめられる絵面となりそうだが…いかんせん、身長差で異土のほうが包まれる形となる。
「ちょっと、雪夜…あまり抱きしめられると、結構苦しい…」
「ふふ、大丈夫ですわよ。ええ、お兄様を抱擁するのは癒されますわね…そのあたりの女とは違いますわよ」
…やっぱりちょっと、何か棘があるような?こんな妹だったか?
色々と思うところはあるが…それでもまあ、大事な妹だし、何かと心配性な部分があるのだと思いたい。
久しぶりの妹との再会を喜びたいところだが、それでも何かこう、引っかかる異土であった…
【…ふむ】
【どうしたのだ、クロハ?何か難しい顔になって】
【いや、何かこう…何でしょう?可愛らしい主様の妹様ですが…んー…?】
久しぶりの家族の再会
それは何よりも、暖かい光景のはず
けれども、何かこう感じ取れるのは‥?
次回に続く!!
…同族嫌悪とか…




