第五十四話 思う気持ちはあれどもね
「---え?面会連絡?」
「はい、何でも寮の生徒を指名しての面会が…」
…女子寮へ、自分たちにサイズが合う水着を作ろうとエリーゼたちが向かうのを見た翌日。
珍しく、男子寮に面会の連絡があり、その中に異土が含まれていた。
配信者向けの生徒用に使われている寮だが、一応生徒の身の安全も踏まえたセキュリティが施されている。
迷惑配信者系の突撃や、はたまたは狙う輩等から身を守るための安全措置であり、直接話をするには必要な手続きを行う必要があり、ちょっとばかり面倒ながらも安全面は非常に高い。
そんな中で本日、異土の元へ面会の予約が入ってきて、職員が伝えに来たのだ。
「でも、誰が?言っちゃなんだけど、わざわざやってくるような知り合いも少ないはずだけど…」
「ええと、予約名は…ご家族ですね。妹で、『異土灯夜の妹の、異土雪夜とのことです」
「…と言うわけで、今日の午後二時ぐらいに妹が来るらしい」
【なるほど、ご主人様の妹様ですカ】
【前にも何か聞いたことがあったが、主殿の妹殿か…】
【急な訪問ですね】
久しぶりの妹との話。
その前に、紹介する必要もあるだろうと思いつつ、情報共有のために異土はすぐに動き、学内の食堂にてエリーゼたちへ訪問の話を伝えた。
【ちなみに、偽物と言う可能性ハ?】
「いや、どこの世界に妹に化けてやってくるような奴がいるんだろうか…いたとしても目的は何だよ。暗殺とかこんな一介の配信者に行う奴とかいないだろうしなぁ」
【【【…】】】
「何、その呆れた目」
異土の言葉に対して、何か思うとことがあったのか。
エリーゼたちは何とも言えない目を一瞬浮かべたが、すぐに切り替えた。
【まぁ、そんなことはさておき、主殿の妹殿だろう。初めて出会うことになるのだが、どのようなものなのかちょっと知りたいな】
【そうですね、主様のご家族ですし、前は聞けなかったのでこの機会にちょっとだけ知りたいですね。…外堀を埋めるには、家族の肉片からと言いますし】
「何かを間違えて、しかも盛大にやってないか、それ。まぁ、今更隠す必要とかも多分ないし…ちょっとだけ話しておくか」
…エリーゼたちとしては、以前ちょっとだけ探り、その情報を聞いたことはあった。
今の異土にとって二番目の父親が連れてきた子供であり、彼にとっての義妹。
「まぁ、あの外道DV糞親父は夜の街に、何でか全裸一輪車爆走で消えたとかいう訳の分からない失踪したとはいえ…それでも、消えるまでの間が酷くて、特に酒癖が悪くて毎晩殴ってこようとしたからなぁ」
【今なら確実に、ご主人様の技量で暗殺できそうですが、当時は難しそうですネ】
「確かに、そうかもしれないけど…その被害に遭ってたのが、あの義妹…雪夜でね。出会った当初はまぁ、あの糞親父が隠していたのか白いおしろいでべったりで…そして、消えそうなほど細かったのさ」
できれば思い出したくない、最悪の記憶。
いくら喜劇のような悲劇の結末を迎えたであろう二番目の父親のことなんぞ、出来れば今ならエリーゼから教わった様々な体術で念入りに粉微塵にしたいところだが、そうはいかなかったのが悲しい思い出。
それでも、血はつながっていないとはいえ、出来た義理の妹に対して、兄にになった身としては名一杯守ってやりたくなったものだ。
「昔はさらに体も弱くてさ、結構咳こんだり、中々体温が上がらず冷たい体をしていたし、一生懸命看病したよ。今の三番目の父さんになって余裕が出来て、しっかり治療を受けて元気いっぱいになったけど…うん、まぁ、少々ね。何とも言えない具合に元気いっぱいになり過ぎたというべきか…」
【ン?何やら歯切れが悪いですが、どうされましたカ?】
「…途中で、身長抜かされたんだよ。いや本当に、そこだけがほんっとうに…悔しくて…」
【【【…ああ】】】
ぐっとこぶしを握り締め、兄としての立場としてはできればあってほしくなったであろう悲壮な言葉に、思わず納得してしまうエリーゼたち。
普段彼はそのあたりは気にしないようにしている様子だが、その見た目がやや幼い部分も相まって、割と女子たちに女装させられそうになっていたり、合法ショタ呼ばわれたりされたり、はたまたは子供料金でOKと公共交通機関で言われたり…色々と気にしている部分はあったのは見ているので、何とも言えなくなった。
「しかもあの妹、元気になったらなったで、出てきた活発性が災いして、出来れば姉が欲しいなぁとか言って、女装させようとしてきたり、いざさせられたら『妹みたいだね、お兄様』と言われたり…色々とこう、兄としての立場的に心に来るものがっ…!!」
【わァ…】
【その、なんだ、主殿、かける言葉としては…】
【…そっとしたほうが良かったですかね】
異土の悲壮感漂う心からの叫びに、思わず同情するエリーゼ、サクラ、クロハ。
特に立場的には、エリーゼもクロハも姉妹機がいたり、妹弟蜘蛛がいた身でもあるため、兄としての部分でグサッと心に来ている異土の様子に本気で憐れんでしまった。
(…ご主人様、本当に何かこう、心の傷をえぐったようで申し訳ございまセン)
(主殿…ドンマイ)
(でも妹みたいに見える主様の女装…見たいと言えば、嘘ではないですね)
とにもかくにも、そんな過去がありつつも、今はその妹…異土雪夜はこの高校がある場所ではなく、地元にあるお嬢様学校に通っているようだ。
「三番目の父は、一応資産家だったようだしな…正直言って、より安定した生活を送るのならば、そっちの方が良かったんだよな」
【そうなんですネ。でも、それならご主人様も配信者この高校に通うよりも、よりいい場所があったのでハ?】
「一応、勧められはしたけれども…性に合わないし、何よりも娘溺愛父だからあっちの方に金使ってほしいとは思った。あとはそうだな…下手したらお嬢様学校の方に通わされる危険性があったから、家を出たというのもあるな…」
【割とマジで、何をされかけたんだ】
「あの妹が、出来れば一緒が良いと駄々をこねてな…無理やり女装させられた上に、父も母も納得しそうな状態にされたのがな‥ははは、妹に力で負けたのもショックだったのもあるな」
【【【うわぁ…】】】
本日何度目だろうか、心からの哀れみのこもった、彼女たちの言葉は。
そのせいもあって、若干家族と折り合いが悪い部分もある。
…けれどもまぁ、一応は大事な家族であるからこそ、絶縁することもない。
そんな大騒動を除けば、良い家族なのは間違いないだろうし…若干、妹がこちらを見る目がちょっと怖い時もあったが、今なら大丈夫だろう。
「そんなことがありつつも、大事な義理の妹だしな。久しぶりに会うのは楽しみだし、ここで出会ったエリーゼたちも紹介したいからな。大丈夫なら、一緒に面会してほしい」
【わかりました、ご主人様のご命令であるならば、なんなりト】
【主殿の大事な義妹であるならば、でないわけがなかろう】
【ふふふ…ええ、大事な主様のご家族であるならば、ぜひとも】
ひとまずは、まだ面会まで時間があるので、軽く身支度をしてもらうのであった…
【ところでご主人様、その女装させられた記録とかはありますカ?】
「消した…と言いたいが、メインデータはあっちが持ってるからな…見せないぞ」
【ちょっと見たいな。ダメか?】
「駄目って言ったら駄目」
【主様の女装…ふふふ】
「なんかすっごいゾワッと来たんだけど…」




