第五十三話 嵐の前のひと悶着で
…気が付けば季節も少しづつ変わりゆくもので、夏場に向けて気温がぐんぐんと上がってきて真夏日が増えてきた。
校内も夏服に着替える人が増えて、配信者たちの配信光景も夏に向けて怪談や水着に関するものなども出てきている中で…
「と言うわけで、この校内の配信者たちの投票結果によって…このたび、合同配信が決定しました!!」
「「「いえぇぇぇぇい!!」」」
…配信者を輩出する学内だからこそ、この夏場の取れ高はできるだけ稼ぎたい。
冬場に比べれば魅せる頻度が増える分、だからこそより一層協力し合うことで稼ごうという思惑も交差し…このたび、合同配信が決定したのである。
【ついでに経費は、配信者ではなく高校側…ある程度の上限は設けられているとはいえ、普段よりもやれるのを楽しみにしている人が多いようデス】
正直言って、配信者側の方も基本的に小遣い稼ぎな面々が多いため、自腹で払う分が減るというのはすごくありがたい事。
それに、夏場の配信活動は何かとアウトドアで見ない人が増えるかと思いきや、近年の猛暑と彼影響もあって逆に配信映像を見る人も増えたりして、結果として稼ぎ時にもなりやすい。
ゆえに、元手が軽く済みつつ、他の配信者たちと組んで合同で配信ができることによって、通常時とは違った利益を得ることができるだろうと企む人もいるからこそ、この合同配信の機会を逃すようなのものはそんなにいないのである。
【あとは普通に、絡むことが少ない相手との交流による、配信者同士の関係性の拡張も目的にあるようだな】
【ふふふ…でも、私たち一番最悪なのは】
【【【そろって、水泳経験が無い…】】】
はぁぁっと、深い溜息を吐きながら、あまりよくない表情を浮かべるのはエリーゼ、サクラ、クロハ。
水着姿が生徒たちや視聴者たちからも待ち望まれそうな美貌を持つ彼女たちであったが…悲しいかな、全員水泳経験が無い。
エリーゼはデータで水泳方法はある程度理解できるが、経験が不足している。
サクラは蛇の身体ゆえに泳げないことはないのだが、アイアンナーガ…鋼の特性持つがゆえに、その重量が不安視される。
クロハに至ってはそもそもダンジョン出身とはいえ水辺になるような場所も無く…泳いだ経験すらない。
まぁ、合同配信の会場が海になったとかそういうわけではないとはいえ、可能性としてはないわけではない。
そのため、やるのであれば…
【…と言うわけで、水着を見繕いに来ましタ。やるのであれば、まずは形からですかネ】
「その理由はわかるけど、エリーゼのことだからどんな場所でもすいすい泳げるマジックアイテムの水着でも作れそうな気がしたんだが…」
【それも出来なくはないのですが…いかんせん、水の抵抗や個人の実力などに合わせて用意する必要がり、データを集めるためにまずは普通に泳ぐことはどうしても必要になるのデス】
自身の主に渡す道具も言わずもがな、作り方を得ていたとしても、合わせる必要性が生じるのはどうしようもない事。
きちんと現場の声を聴かなければ適切に反映されない店と同じで、エリーゼとしてはしっかりと皆のデータを取っておきたいという思いもある。
そのため今回、異土にお願いして…全員の水着を一度選ぶために、この休日に一緒に水着売り場へ来てもらったのであった。
ここで普通の水着を購入し、適当な水場で泳ぎ、各自のデータを取って問題ない道具を作る…その考えは間違ってもないだろう。
努力して自力で泳げるだけのスペックは持っていそうだが、万が一と言うこともある。
しかしながら、ここで一つだけ大きな問題が出来てしまった。
「あの、すみません、お客様方。…当店に、人外の方々の専用水着はないのですが…」
【【…あ】】
【言われてみれば、私は良いのですが、他が無理でシタ】
「いや、買いに来る前に気が付けよ」
悲しいかな、この面子の4分の3が人外だった。
そのうち4分の2が下半身が蛇と蜘蛛だと、そりゃすぐに用意できるようなものがあるはずもない。
「あとついでにですが…その、人型部分で大丈夫なところもありますが…サイズが…」
【【【え】】】
「…そこは、どうしようもなかったか」
余計に悲しいかな、最初から積んでいたどころか、盛大に爆破していたよ。
あまり見ないようにと言うか、ちょっとばかりトラウマもあったから、そこに目を向けるのを避けていたのが悪いのかもしれない。
「ほんっとうに申し訳ないのですが、当店ではそんなボン、ドゴンッ、ドスコンッな方々向けは…!!」
「店員さん、彼女たちのどこを見てそんな修羅の顔で見ているんですか」
「だって、本当に、だってだって…!!」
言いたいことはわかりたくもないが、何かわかってしまう気がする。
そして同時に、店内にいた他の女性客たちが物凄く同意するかのようにうなずきまくっていたのであった。
「---情報だと、確かそろそろこの辺りにお兄様たちの寮が…いたっ」
…とぼとぼと異土たちが意気消沈して寮へ戻る中、その帰路を目撃したものがいた。
今すぐにでも、突撃をかましたい。
けれども、ここで焦っては意味がないだろう。
「と言うか、あの様子だと…ふむ、水着を買うのに失敗した感じですわね。あの巨峰山脈三姉妹がいるのならば、間違いなくありえなくもない…そこをもうちょっと考えればわかったけど、抜けているのもお兄様らしいですわね」
予想通り…いや、そうだとしても色々と問題しかないだろう。
だがしかし、こういう事に手を付け始めたのであれば、早めに対処はできる。
「とりあえず、手続きをして合法的にまずは正面から乗り込みますわ…!!」
相手がいかなるものだとしてもやりようはある。
合法的な手段をもって、正々堂々と彼女は乗り込み始めるのであった…
「…でも、目的のサイズで買えなかったのは同情したいですわね…うん、ちょっとだけ敵に塩を送ることもしておきましょうか…」
思うところはあれども、そこはまぁ乙女として同情すべき部分がある
けれども、やらなければいけないというのもまたあるため、
しっかり分けつつ、次回に続く!!
…昔は毎日更新できたけど、今は地道に少しづつ。




