第五十一話 思うからこそ、気になるもので
【…ふむ、主様の家庭環境が気になるところではありますね】
…記念配信から数日後、クロハはそうつぶやいていた。
外から見る校内の光景…本日の歴史の授業、ダンジョン出現による世界情勢と法律の変化を受けている彼女にとって愛しい主の異土の姿を見て、思わず出た言葉。
あの配信内で気になりはしたが…考えてみれば、異土自身は見ていても、彼の周囲の人間関係までは興味を持っていなかった。
だがしかし、将来のことを考えるのであれば避けては通れぬ道であり、何かしらのトラブルがあるのも不味いだろう。
【なので、初期から主様に仕えている身ならば情報を知らないかと思ったのですが…】
【確かに、主殿の家族関係も気になるが…そこのところはどうなのだ?】
【あの配信中にも告げましたが、基本的にメイドはご主人様の許しを得なければ、そのプライベートにかかわる事項は触れられないのデス】
自分よりももっと前から、異土の側にいるエリーゼならば、何か知っているかもしれない。
そう考え、サクラと共に問いかけてみたのだが、良い回答が得られないのだ。
【まぁ、一応は家族構成に関して多少ならば得てはいますネ】
【そこは調べているのか。では、どういう構成だ?】
制限はあれども、必要最低限の情報は獲得したほうが良い。
そのため、色々な制約の中の穴をついて、エリーゼは異土の家族に関する情報をどうにか得ていた。
【血縁上の母親と、再婚された父親…その前の方の連れ子の義妹がいるようデス】
【前の方?】
【三度目の結婚をされていると?】
【そうみたいデス】
かくかくしかじかと、エリーゼがつかんだ情報によれば…どうも異土との血縁関係上の父親が死亡後、母親は再婚を繰り返していたらしい。
一度目がその父親で、情報によれば配信中の事故によって死亡。
二度目の父親は連れ子…異土にとっての血のつながりのない義妹がいたが…
【とんでもないDV夫だったようでして、化けの皮が直ぐにはがれて結婚後に家族丸ごと虐待されていたようデス】
【なっ…!?】
【それは…】
その言葉を聞き、驚愕するサクラとクロハ。
まさかの悪い男に、母親が引っかかったのだろうか。
【ですが、それから間もなくして…何をどうしてか、その夫は行方不明になり、死亡扱いになったようデス】
【え?事故でも遭ったのか?】
【そのあたりが不明でして…最後の目撃情報では、何故か歌いながら全裸で夜の街に一輪車で爆走して駆け抜けていったとかいう奇行の姿しかないそうですネ】
【…どう考えても目立ち過ぎる不審者になっているのに?】
何があったのだろうか、そのDV夫の謎の奇行は。
酒にでも酔いまくっていたのかそのあたりの詳細は不明のようで、気になりはするが、そのおかげで家族は無事に暴力から抜け出し…そしてようやく、三人目の今の夫を得て、異土の一家は安寧の暮らしを手に入れたようである。
【ですが、家族中が不仲だとかいう情報は無いですネ】
【ふむ、色々あったが無事に家族になったのならば、そこまでトラブルはなさそうだが】
【その義妹とだけ、何かあったとか…どうでしょうか?】
【残念ながら、今の私の情報収集限界はここまでデス】
いくらメイドに長けているとはいえ、一介の許可が無いメイドではこれ以上踏み込むことはできなかった。
それでも、ここまで得た情報では異土とその家族が不仲だとかいう情報はなく…あのやや、気まずそうな空気になった理由が分からない。
【結局のところ、主殿に直接聞くのが手っ取り早いだろうが…二番目のその話などを考えると、嫌な記憶まで誤って思い出させそうなのが怖いな】
【もっと情報収集できればよかったのですが、やけに情報が少ないんですよネ】
【…でも、それでも知らないよりはマシですし…それに、主様に嫌な記憶があるのなら、刺激sないほうが良いですね】
聞いた感じでは、そこまで踏み込まないほうが良いような気がする。
これはもう、自然に話してくれる時まで…そこまで、心を許してくれる時まで、ゆっくりと待てばいいだけの話だ。
そう結論付けて、彼女たちはそれ以上、異土の家族の話に関して踏み込もうとはしないのであった…
【…一応聞くが、その行方不明になった二番目の夫、その情報は得てないのか?】
【ああ、こちらは後日談と言いますか…それは得てますネ。なぜか凍傷になって、海を漂っていたところを異国の船に拾われたようデス。もちろん、そんなことで生来の気質までは変わらなかったのか、その後に事件を引き起こして、無期懲役を科されたようですが…ご主人様とはもう完全に無関係なものとして処理されてますネ】
【救いようのない人間もいるんですね…主様を傷つけた輩であれば、ふさわしい末路ですが】
【【それに関しては、同意する(デス)】】
色々あったようだが、平和な家族になったのならばそれで良い
しかし、微妙な距離感は何なのか
そのあたりは次回に続く…
…さて、本当に何があったのか、それは偶然なのか、それとも…




