第四十五話 タイムリミット
―――正直言って、長くは持たない。
ローブに仕込むようにしていたとはいえ、酸素の残り時間は長くはない。
(そもそも、数時間も持つように設計はしてもらってないからな…)
元々が窒息死を防げるだけの、時間稼ぎ用。
ある程度の水中戦が生じた時も想定してたとはいえ、長時間持つものではない。
「だからこそ、出たいけど…」
【【【ギノゴォォォオォン!!】】】
目の前に並び立つ、パラサイトノッコリスの手駒たち。
そしてその周辺には、散らばりまくったキノコドロップアイテムが溢れまくっており、倒しても倒してもきりがないこの現状を示していた。
「やっぱり、殲滅向きじゃないんだよなぁ…俺」
エリーゼのガトリングが欲しくなるほど、敵の数が多すぎる。
パラサイトノッコリスの中をタラテクトナイフで毒をまき散らしながら進んでも、この邪魔してくるやつらが厄介すぎる。
時間を少しでも許せば修復され、必死になって掘り進み切り進めようとしても、事態が好転しない。
いや、むしろ悪化しつつあり、酸素も残り少ない。
「…あとは寄生も…っつぅ」
ずぐんっと胸奥が痛みを発し、既に無事ではないことを嫌でも痛感させてくる。
滅菌道具でかなり減退させているかもしれないが、時間の問題としか言えない。
「自分をナイフで刺して、自我を保つ…って手段もありか…」
痛みを使って、寄生に抗う荒業も手ではある。
大量出血による失血死を考慮したらリスクが高すぎるが…出来ない手ではない。
だがしかし、そこまでの覚悟をする前に、力尽きる方が早いか。
「っつぁ…」
ぐらりと視界が揺れ、まともに立つことができない。
感覚的に結構時間がかかっているように…いや、もしかするとパラサイトノッコリスの体内では時間の流れが違ってて、本当は外から見ればまだわずかしか経過していない可能性もある。
そうじゃ無ければ、あのエリーゼやサクラがいてのあのチームの救援が、こんなに遅いわけがない。
(でも…もう限界か)
【ギノギノギノ…】
迫りくるキノコの大群。
迫りくる修復されていくキノコの床や天井。
この異土の小さな体を押しつぶす気か、取り込む気か、はたまたは寄生して利用する気か…なんにせよ無事で済まないのが目に見えている。
「っつ…でもあとちょっと…」
手足に力が入らずとも、このまま黙ってやられたくはない。
ナイフを手に持ち、かすむ視界の中、何かが見えた。
無数にドロップしたキノコの山の中にある、キノコではない別の何かで…
「---あ」
それを見た瞬間、異土の頭に一つの賭けが生まれた。
ドロップ品の中で、偶然落ちていたソレならば、やれるかもしれない。
成功するかどうかは定かではないし、悪質過ぎるほどのギャンブル性ゆえに、ハズレを引くかもしれない。
だが、たとえそうだとしても一矢報いることができるかもしれない可能性ならば…最後に、一太刀でも悪くはない。
「タラテクト、ナイフっ…!!」
手足が自由に動かずとも、糸で動かせるナイフならば届く距離。
毒が回るだろうが、構わずに素早く自身の血を付け、飛ばす。
―――ダメで元々、届くかもわからないがやらないよりはいい。
そう考え、異土の意識が落ちた時には…ナイフは綺麗にキノコの中を駆け抜け、その血であるものを、砕いたのであった…
…某大王の言葉を借りるならば、まさに人生はギャンブル
その賭け事に勝つか負けるかは…次回に続く!!
…さて、凶と出るか…それとも…




