三十八話 ご主人様の危機以外にもキレる時もあるのデス
ーーー異常をきたしている、ダンジョンの内装。
蟲を蒸し焼きにでもする輩でもいたのかと思いたくなるような多湿すぎる環境だが、それでも敵がいなくなっているわけではない。
いや、むしろどのようなものが出てきたのか、それが明確になっているというか…
【アゴォオオオオオ!!】
【ギノォォォオ!!】
「二時の方向からアーマータラテクト及びクワタラテクトの群れ!!」
「どれも異常…キノコのようなものが生えて、明らかにヤバい挙動!!」
「くっ。ゴリラビームでも、防ぎきれないわね」
【『アイアンテール』!!‥‥っつ、やっぱりこの感触気持ち悪っ!!】
ぞわぞわっと背中を震え上がらせて、盾となりつつ防ぐサクラの言葉に対して、皆同意する。
そう、異土たちへ今、襲撃を賭けてきているのはこのダンジョンで出てくる蜘蛛のモンスターばかりなのだが、その中身が従来のモノと異なっていた。
むしろ、この高温多湿な環境だからこそ、出ても生えてもおかしくはないものがあるとはいえ、明らかに以上の原因としか見られないというか…
【ギノッゴォオオオオ!!】
「明らかにあれ、寄生虫ならぬ寄生キノコ的なものに乗っ取られているよね!?」
「冬虫夏草とか、モンスターじゃない例もあるが、目にするときっしょいな!!」
大量のキノコを生やしまくったモンスターたち。
その目は明らかに正気を失っているというか焦点はあってない、けれども、キノコの方に目があればその目は向いているような感覚と言うべきか…
【ふむ、センサーで軽く分析できましたが…ガチで寄生してますネ。モンスターの魔石に、キノコらしからぬレベルで濃密にがっちりと根を張ってマス】
「生殺与奪の権をがっちり握られて…か」
見た目だけでもあれだけど、見た目通り過ぎたレベルのやばい寄生である。
「すみません、ダンジョン中級初心者ですが、あのような寄生キノコって例があるんですか?」
「いやみたことねぇよ!!悪の怪人風モンスターでも、あんなえげつなさそうなの使う奴いなかったし!!」
「ゴリラに寄生されたら厄介だから、出しにくいかも…」
「…いや、待ってください。そういえば、聞いたことがありましたね」
「虫博士」
「何か知っているの?」
見た目だけでもヤバいが、人的被害を想像するとまともに相手にするのヤバそうだ。
そんな空気が漂う中、少々空気寄りだった虫博士が、ふとそう口を漏らした。
「中級ダンジョンのイレギュラー例…ええ、過去の蟲系ダンジョンでも、似たようなのがありました。ああ、ですがアレは確か蜘蛛でなく蟻でしたが…『パラサイトノッコリス』ですね」
「名が体を表すわかりやすい最悪の例だな」
かくかくしかじかと虫博士が解説するが、どうやら蟲系統のモンスターのダンジョンで、起こりうる異常事態の一つとして、記録されているらしい。
数多くのダンジョンで、未だに片手で数えるほどしかないようだが…そのキノコ、もといパラサイトモンスター『パラサイトノッコリス』は、まさにその名が示す通り寄生キノコとして猛威を振るうことがあるようだ。
「なお、ダンジョン由来ではなく…どうも人為的なものになるようでしてね、一説によれば、どこかの国で生み出された細菌兵器が、ダンジョンに不法投棄された結果生み出されたようで…ああ、もちろん、その国は滅びたそうですが、それでも微弱な菌糸はかなりしつこく生き延びるようで、ダンジョン内外でもごく少量漂い…ごくまれに発芽し、キノコの帝国を作り上げるのだとか」
「えげつなっ…そして人為的な時点で最悪すぎる…」
「不法投棄って、そこはしっかりやれよ…しかも滅びた国ってことは責任も追及しきれねぇ」
「そのうえ、キノコの帝国って…バリバリに意志あるタイプのやばそうなものだよね?」
ちなみに、蟲系モンスター限定での感染性らしく、人間への寄生事例はないらしい。
あったらそれはそれで今ここが最悪の場と化すのだが、脳の構造だとか魔石の有無だとか、そういう条件が異なり過ぎているためにセーフのようだ。
だがしかし、その分蟲が適合しすぎて…
「キノコ全体に統一された意志があるようで、恐らく我々の侵攻もわかっているでしょう。恐ろしいほどの統率力を有するらしく、ガチで軍と戦っているぐらいには気を引き締めないと不味いかと」
「さらっとやべぇのが…これ、俺たち引き返して報告、国にどうにかしてもらう案件に…」
その規模があまりにも大きすぎるため、一介の配信者が手を出しきれない部分まで来ている。
異土たちはそう悟り、早々に引き返そうとしたが…どうやら遅かったようだ。
【グモボォオオオオオオオ!!】
【ギノギノギノォオオオ!!】
「っ、囲まれた!?」
周囲をいつの間にか、大量の寄生キノコ蜘蛛の大群に囲まれていた。
【…ふむ、どうやら誘導されていたようですネ。皆さまがギリギリ倒せるぐらいで、ゆっくりと進ませ…本命はこちらで出す形だったようでス】
「ゆっくり分析している場合か!!」
「サクラ、薙ぎ払って!!」
【分かっている、主殿!!】
その大きな蛇部分を活かして、サクラが一気に振りかぶるが…
ベトベトベトォォンン!!
【いやぁぁぁっつ!!めっちゃねばべっとべっとするもので受け止められたぁぁぁぁ!!】
「蜘蛛の糸…粘度をかなり底上げしている!?」
「タンクを封じに来たのかよ!!」
珍しく弱気なサクラの悲鳴が上がり、彼女の蛇部分が蜘蛛の糸で受け止められる。
どうやらこちらの攻め方を見ていたようで、対処方法を作られていたようだ。
【かなり知能もあるようですネ…しかも、後方からの魔法などに警戒してか、こちら側にも…ぶべっ】
ベチィンツ!!
「エリーゼ!?」
「絶対に行方不明になった配信者から、映像機器でも盗み見て我々の対処方法を得ているだろこいつら!?」
べとぉんっとエリーゼにも大きな蜘蛛の糸がべったり付けられ、さえぎられる。
…しかし、この程度で止められるとは思わない。
【…カチンッ】
「え」
「何か今、変な音が」
【ーーーーレフト、ライト、アーム制限一時解除。『直撃灼熱砲』セット】
ガシャゴンッツ!!
蜘蛛の粘液糸が張り付いたまま、無情な機械音声が響き、エリーゼの右手と左手が同時に火炎放射器のような…いや、違う。どこかの波〇砲のような形状に変化した。
【ファイア】
チュィンツ…ドゥッツ!!
そのまま一瞬光ったかと思えば、次の瞬間には…蜘蛛の群れが消失…もとい、焼失か蒸発。
ダンジョンの地面もその膨大な熱の影響を受けてか、きらきらと輝くガラスのような状態に変わり果てていたのであった…
【…このねばつく糸、分析したら取り除くのがかなり厄介なのが分かったので…焼き尽くすことにしまシタ】
「焼くってレベルで済んでないよねコレ!?」
…後片付けの面倒さが、逆鱗に触れたらしい。
…キノコ、やらかしたお知らせ。
これぞまさに、地獄の蓋が開いたというべきか、
汚物の焼却処分…で済むのか
次回に続く!!
…レジェンズ面白…




