三十四話 蜘蛛の糸
―――指揮力向上するには、何かと経験を積めばいい。
初級ダンジョンから中級ダンジョンへ進出できるようになった異土たちだが、全体として見ればその戦闘経験はまだ浅い方。
それゆえに、都合よく良い感じの経験を積めばいいのではないかなどのアドバイスをコメントからいくつもいただきつつ…
「…蜘蛛ひしめく、中級ダンジョン『アルゴニア』への配信挑戦…んー…いや、ちょっときついな…」
…配信予定時刻が近づく中、コメントで出てきたおすすめのダンジョン。
しかし、その内容を見て、異土は物すっごく渋い顔になっていた。
【ご主人様、蜘蛛が苦手なのですカ?】
「いや、普通に見たりする分なら平気なんだけど…ちょっとトラウマがね…」
【トラウマ?】
授業も終わり、本日の配信予定時刻までにダンジョンへ向かいたいが、出てきているそのダンジョン名に対して異土は悩む。
「…昔の話なんだけどさ、小さい時に近所のガキ大将といたずらして遊んでいた時があったんだよ」
それはかなり昔の話であり、そのガキ大将も既に引っ越してこの場所にはいないが、当時は仲良く過ごしていた。
色々といたずらをしていたのもあって、怒られもしたが…そんな日々に、罰があたったのである。
「…近所で有名な、肝試しの場所としてなっていた廃墟。そこで、まさに蜘蛛の子を散らす現場を見ちゃったというか…巻き添えにあったというべきか」
大人たちに怒られるかもしれないが、怖いモノ知らずだった部分もある。
そのため、こっそり進入し探索する中で、やらかしたのだ。
「‥‥ものを動かしたら、そこからぶわっと…」
【あ、すみません、ご主人様。大体想像できたので、止めてくだサイ】
【何が起きたのか、それ以上聞かなくてもわかるな…確かに、それは怖い】
まだ話の途中だが、オチが見えたようで、異土の話を静止させるエリーゼとサクラ。
二人ともマジックアイテムとモンスターでもあるが、恐怖を知らないわけではないのだ。
特に、蟲の大群何てもの、生理的嫌悪感が出てもおかしくはなく‥‥
【…まぁ、Gよりはマシだとは思いたいですネ。過去、姉妹機のデータでは、10m越えの巨大なその群れと対峙した記録があるようですシ…】
「それ本当にあの這いよる混沌の蟲で合っているの?」
【あれはサイズの大小に限らず厄介だとは思うがな…】
エリーゼの血縁者が味わったデータであるのならば…起きていてもおかしくはないかとも思う。
しかし、10m越えってそれもはや蟲じゃなくてモンスターでは‥‥どんなおぞましい場所なんだ、そこ。
とにもかくにも、そんな巨大すぎる相手ならばともかく、中級ダンジョンであればそれなりのサイズでまだ済む。
一部の例外はあるようだが、これを機に苦手意識の克服を考えての良いのかもしれない。
「なら、次の配信で行くか、中級ダンジョン『アルゴニア』。蜘蛛相手だけど、対策自体は割と多いんだっけ?」
【虫が出るタイプのダンジョンとしては、割と多いようですネ。カフェイン団子に、マッドビーからのドロップアイテムである『ポイズンニードルランス』で作られた即死系アイテム等…蜘蛛自体が結構凶悪なものですが、だからこそ挑む人も多かったようで、その分出てきたようですネ】
【ただ、糸が鋼鉄よりも強靭なものを出したりするものや、目にもとまらぬ速度もいるようなのが注意すべき点か…まぁ、オレの防御力を貫いて主殿へ向かえるものはほぼ皆無だろうがな】
あとは普通に、このダンジョンで出てくるドロップアイテムは蜘蛛が相手なこともあって糸が多いようだが、上級ダンジョンで出てくるタイプに負けず劣らずの高品質なものが多いらしくて、アパレル業界などでは人気のダンジョンでもあるらしい。
「他の配信者も、結構挑みやすいダンジョン…予習がてら、見ておくか」
【トクマロチャンネルとか、五人衆チャンネル、ドラマティックチャンネル…結構多いですネ】
【ダンジョン内で料理も…おっふ…これ蛇肉…】
…異土たちが各々で次に向かうダンジョンでの配信に関して準備を進めている中、その肝心の中級ダンジョン、アルゴニアではとある異変が起きていた。
「うぇいうぇいうぇ~いどうも、アルゴニアに来たぜぇ、ウエブチャンネラズ~!」
「「「うぇいうぇいうぇぇい!!」」」
ダンジョン内の中、本日はここで配信を行おうと、とある配信者の一団が撮影を行っていた。
笑いながら撮影を行っているのは、この中級ダンジョンに挑める配信者たち。
彼らのお目当てはこのダンジョンでのドロップ品の糸だった。
「へいへい、皆今日はここで、糸を取っちゃうぜぇ~」
「ここでがっぽり稼いで、ブランドものに使われたりするものもあるけれども」
「「「全部使って豪華なオレサマブランドにしてやるぜぇ!!」」」
”あいかわらずはっちゃけてんなぁ、ここ”
”そして絶対に売れないように見えて、絶妙なダサさが逆に受けて売れているという不思議よ”
最初こそ、穏やかに…あっちこっちで武器を振るってモンスターがドロップ品に変えられていくのはまだよくある光景だっただろう。
だがしかし…ある場所まで来たところ、突然空気が切り替わった。
「おいおい、今日は楽勝だなぁ。やけによえぇ雑魚がたっぷりで、それなのに良い感じのドロップ品ががっぽりなのはうまいじゃん」
「だけど、何か急にでなくなったな?」
先ほどまでは適度に蜘蛛のモンスターが襲い掛かってきたはずだが、なぜか急にその姿を見ない。
狩り過ぎたのか、それとも単純に獲物が少ないだけか…
「…なんか妙だな?さっきまでアレだけいたのに、いなくなるって…めちゃ狩りやすかったらがつがつ奥へ進み過ぎたのも…」
ヂュンッツ!!
「ん?何の音だ、お、」
…何か妙な音が聞こえ、急に動きが止まる配信者たち。
声も止まり…そして次の瞬間。
ーーブッツンッ
”あれ?画面が消えた?”
”カメラの電源切れか‥?”
不吉な予感はゆっくりと
それをはねのけられるかは…次回に続く!!
…なお、作者は良く蜘蛛ヒロイン的なものを書いていたりしますが
個人的に見るだけならOk、触るのはきつかったりします
ハエトリグモとかは可愛いんだけどねぇ…触るのがねぇ…




