第三話 嘆きは続くよ、どこまでも
…初級ダンジョン「スタリアル」に出現した、グランディスブラッドワームの情報。
それはすぐに討伐されたようだが、どうして出現したのかその調査も厳重に行われているその裏で…ダンジョンを管理していたギルドの職員たちは、胃薬を求めようとしていた。
「…えっと、初級でかつ、採掘向きの材質をしたダンジョンの壁が脆いとはいえ…この大穴はなぁ…」
「その前に、ワームのあの肉体を消し飛ばした威力がやべぇよ。中級あたりからでるが、他の実力のある配信者たちが普通は束になって討伐するようなもので、ソロでやっていいやつじゃないだろ」
「ダンジョンには自己修復機能があるから、いくら崩壊しても3日ほどで戻るらしいけれども…これはなぁ」
「お前ら、喋っても良いがこの周辺の調査もしっかりやらんと不味いぞ。また第2第3のあの滅茶苦茶なメイドが出土する可能性を考えると、初級から一気に引き上げられて、俺たち異動させられる可能性もあるからな」
「うぐぅ…!!」
ワームは打ち滅ぼされ、一時的に安全にはなったダンジョン内。
事後調査も含め、駆り出されている職員たちは全力で嘆きたくなった。
「とはいえ、一番キッツいのは…吉田ギルド長か…」
「…つまり、メイドとしての情報以外は自分でもわからないと」
【そうなりまス。残念ながらこの身は、ご主人様のためだけのメイドであるというのはわかっているのですが…私自身の細かい情報に関しては、ロックされているようですネ】
「どこの誰だよ、本当にお前を作ったやつは…!!」
「ぎ、ギルド長…大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけがねぇ…久しぶりの大問題児の出現に、胃が久しぶりに激痛が…」
うごおぉぉっと、うめくように頭を抱えているおっさん…もとい、このスタリアル支部のギルド長の姿を見て、異土は物凄く申し訳ないような気分になっていた。
【ご主人様?ご気分がすぐれないでしょうカ?膝枕でもして、寝かせましょうカ?】
「いや、別に良いよエリーゼ。今はただ、君の扱いに関して、大人たちが頭を抱え込んでいるこの状態に、何とも言えない気持ちになっているだけだからな」
【うーん…たかが、一人のメイドにそこまで悩むものなのでしょうカ?】
(((どの口が、たかが一人のメイドと言えるんだろうか?)))
エリーゼの言葉に対して、異土やギルド長、他にも聞き取り内容を記録する職員など、その場にいた一同の心の声が一つになる。
グランディスブラッドワームとかいうやばいモンスターが、すぐに討伐されたのは良かったことなのだが、代わりに出てきたのがこのエリーゼと言うメイドの扱い。
マジックアイテム扱いであり、一見すると美しいメイドにしか見えないのだが、その攻撃力がシャレにならなかったのだ。
「…はぁ…異土、とか言ったか。お前はまだ、配信を始めたばっかりで、まだ色々と経験が浅いだろうから言うが…あのワームに関して、普通はソロで挑むようなものじゃねぇ。本当は結構やばい奴でな…」」
かくかくしかじかと説明を受ければ、グランディスブラッドワームはその名前におごらず、それなりの強敵としての強さを持っているらしい。
地中を自由自在に泳ぎ回り、どばっと突然飛び出しては獲物を喰らい、不意打ちの恐怖に加えてその肉体もかなり頑強であり、本格的に上位の配信者たちにとっては苦労するようなものでもないのだが、それでも相対するのは非常に面倒なモンスターとして知られているようだ。
だがしかし、そんなゲテモノは…
【…私の、ライトカノン一発で消し飛びましたネ。ご主人様を害そうとしたので、当然の末路なのですが…もしかして、結構おいしい素材が取れていたから、損をしたとかありますかネ?】
「そうじゃねぇよ、このメイド…あのワームを消し飛ばすどころか、ダンジョンも貫通するやべぇ兵器を搭載しているってのが、色々とアウトなんだよ…!!」
エリーゼの言葉に、色々と言いたいことが詰まっているような感情でそう口にするギルド長。
見た目こそ、彼女はただのメイドに見えなくもないのだが、その内包している代物がどうもぶっ飛んだものである可能性が非常に高い。
いや、あのワームを消し飛ばした右手の武器だけでも相当なものなのだが、他にも持っている可能性が出てきたのである。
「規格外のマジックアイテム…ワームを消し飛ばす武器だけでも、戦略級で、本来なら一個人が所有していい代物ではないから、関係機関への判断にゆだねるのと提出する必要があるが…内蔵武器で、それかぁ」
【まだありますヨ。メイドたるもの、大事なご主人様の身の安全を守るためにも、多種多様な武器を身に着け、その扱いを熟知し、しっかりと活かす必要がありますからネ】
「どこの世界のメイドに、そんな物騒なものがあるんだぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
エリーゼの言葉に対して、ついに我慢が出来なくなったのか、心からの叫び声をあげるギルド長。
その様子に他の職員たちも同意するように何度もうなずき、異土自身も心の中でうなずくのであった…
「しかもこれ…配信映像…見ている奴らの切り抜きとかが、既に拡散して止めようがねぇ…!!」
「そういえば、配信中だった」
【おお、ご主人様、見てください。コメントに、ギルド長への良い胃薬の紹介が乗せられたようでス】
…というか、切り抜きの拡散…あ、これもしかして、本当に色々とヤバくなりそうな…考えないほうが良いか。
嘆きの声を上げるギルド長
その心からの咆哮はその場にいた者たちへ伝わるだろう
だがしかし、いくら嘆いてもやらかした事実はネットの海で消えることはなく…
次回に続く!!
…さて、どこまで一旦広がるかな