三十三話 企みは斜め上に
「…ふむ、回復、もしくは指揮か…これまた、難しい課題のようだが…」
…厚目財閥のビルの一室…先日の異土の配信の結果、この財閥の衣服で配信すればレアドロップが出やすいのではないかと言う一時的な熱によって資産が増えるということが起きた結果、買収できた建物中にて、厚目泰三は、異土の配信のコメントを見ながらそうつぶやいていた。
個人的なコレクターとして、エリーゼを狙うという目的は変わっていない。
だがしかし、データを集めれば集めるほど、なかなか難しいというのもわかっているため、細かく配信を確認することでどうにかできないかと、ほんのわずかにしかないような糸口を探っているのである。
そんな中で、本日の配信で見られた異土たちの足りない点…そこに、彼は目を付けた。
単純な話、その足りない部分を補うことができるものがあるという話で、罠を仕掛ければいいのかもしれない。
真正面からぶつかれば当然、あのメイドに叩き潰され…いや、未だとあの巨蛇に押しつぶされる未来が目に見えているが、ならば隠れ蓑になるものを使う搦め手であれば、まだ勝機は見えるだろう。
案件として用意したメイド服の方に、何か仕掛けを施すという手段もあると言えばあるが…その場合は、メイド服に関してエリーゼが勘づきそうなので、そこはうまくいかない可能性が大きいのもわかっている。
「噂話で誘い…全滅を狙うのも手か」
「しかし、その手はいかがなものでしょうか。あのアイアンナーガのサクラとかいうものが増え、耐久性自体は上がっているものかと」
「多くのモンスターの群れがいても、あの圧倒的硬さと大きさでぶっ飛ばされそうですな…」
集目に付き従う部下たちも一緒に配信を視聴しているからこそ、異土たちに関してどれほど挑むのが無謀そうかと言うのは理解している。
中には、その強さだけではなく彼女たちの美貌にもあてられてこっそりファンになっていたり、非合法の地下ファンクラブの会員になっていることは口が裂けても言うことはない。
「だが、やらないよりはマシだろう。それに、データを得るのならばもっと配信させるのが吉だ」
「ああ、もしかするとあのメイドの知らない機能が、解放されるかもしれないからな」
「あのナーガの機動力も、蛇ゆえに寒い場所では鈍るとか分かるかもしれないですね」
色々と思うところはあれども、何もしないよりはいいはずである。
良く言うではないか…
「…やらない善行よりやる偽善、やらない企みよりもやるいたずらと」
「言わなくないか?」
とにもかくにも、方針が決まったのであればそれに向けて取り組めばいい。
「となると、仕掛けるダンジョンも必要か…都合の良い場所はどこがある?」
「彼らの潜れる中級ダンジョンだと、近隣で行えそうなのは…『アルゴニア』はどうだ?トラップが多く、そこを的確な指示で切り抜けられれば指揮力が上がるとか…」
「それもありか…ふむ、それに蜘蛛のモンスターも多いから、うまくいけば縛られた姿を…」
様々な思惑を混ぜつつ、彼らは地道に罠を張っていく。
向かわせる場所は、蜘蛛がひしめく中級ダンジョン…『アルゴニア』で、蜘蛛の巣にからめとるように、異土たちを彼らは狙うが、その思惑はうまくいくのか。
その回答は神のみぞ知りつつ、よこしまな心が彼らを突き動かしていくのであった…
「ついでに新しい案件として、別の特別な衣服を着せたりできんかな‥‥」
「アイアンナーガも、あの鎧を脱げば相当な物っぽいし、そっち方面での期待も…」
…一部、彼らの主であるはずの思惑とは違った方向に振り切っていたようだが。
悪も一枚岩ではない
それゆえにちぐはぐになるが、それでも目的は一応やっておく
どこまでやれるのか…次回に続く!!
…ちょっと早いかな?




