第三十一話 鉄蛇乱れ桜
(…オレは思う、この主に対して忠誠を誓う気持ちは何のためにあるのかと)
大きく剣を振り回し、目の前に迫るゴブリンの群れをまとめて一刀両断…いや、剣の腹部分で弾き飛ばし、今はまだ血に濡らせるほどでもないかと判断して彼女は冷静に薙ぎ払う。
(召喚石、そんなもので呼ばれたというが、それだけではない。話を聞けば、それで忠誠を誓うというが…ああ、そうだな、洗脳とかそういうものではないだろう)
素早く動き、とぐろを巻いてバネのように宙へ飛び、盾とその質量を持って押しつぶし、目に見える範囲の敵を殲滅する方へ体を動かしつつ、彼女は思考を巡らせていく。
話し上手なわけではない。言葉が旨く出るわけではない。
だが、それでも考えるだけの力はあり、戦いの中で冷静に見極めながら、ふと今の主の方に目を向ける。
まだ幼そうな姿をしているが、それでも人間で言えば青春真っ盛りなものだという…いや、正直言って体格だけで言えば、小さくて庇護すべきようにしか見えない者もある。
だがしかし、その奥にある芯は強く、年相応の戦いの中の経験不足が見て取れたとしても、それを補うだけのやるべきものを見極めている力も見える。
(呼び出され、その主を見て…思ったものよ。これが、運命なのかと)
自分がどこの誰であれ、それでも何をすべきなのかもすぐに理解する。
そして同時に、彼の側にいるメイドの方にも目を向けるが、あちらは個人的にはわからない部分が多く、若干苦手意識がある。
それがどういうものなのかはわからないが…野生の本能的なもので、その奥に潜む危険性を見てしまっているのか。
とりあえず言えることとすれば、今はただ、主への忠誠を誓い、その力を振るうだけで良い。
(難しく考えるのも、疲れるし…ここいらで、止めておこう)
【---主殿、回避を。今、潰す!!】
「わかった!!頼んだよ、サクラ!!」
【ああ!!】
『サクラ』…それこそが今、この身で持つ名前にして、主から授かった名前。
前の自分がどのようなものであったのかもどうでもいい。今はこの名で、忠誠を尽くすのみ。
そのために力を振るうのは当たり前のことであり、呼ばれていることに心からの喜びを感じ取りつつ、アイアンナーガ…もとい、サクラは宙を跳躍し、今まさにこの群れの奥の方から隠れて弓矢を放とうとしていたアーチャーゴブリンたちへ体を回転させて勢いに乗った尻尾を叩きつける。
【『ヘヴィーアイアンテール』!!】
ドッゴォオオオオオオオオオオオオオン!!
【【【ゴブゴブァアアアアアアアアア!!】】】
鋼を超える硬さに、重みと勢いを乗せた蛇の鞭は一撃で大地ごと敵を粉砕していく。
アイアンナーガのその鉄壁の硬度は、攻撃にも転じられる、攻防一体の強靭さを誇る。
守りたいものを守り抜き、それを脅かすものを叩き潰す…豪快な種族特性ゆえに、本来のナーガやラミアのもつ毒の攻撃手段は失われているが、それを差し引いたとしても大きくプラスになっており…
ドォォォォォォン!!
【【【ゴゴブアァァァッヅ!!】】】
「…召喚しておいてなんだけど、ガッチガチに硬い体を活かして蹂躙しまくっているなぁ、サクラ」
【蛇は柔らかそうな動きをするはずなのに、思いっきり剛柔しまくってますよネ】
初中級ダンジョン内で、大暴れをかますサクラの姿を見て、そうつぶやく異土に同意するエリーゼ。
ゴブリンたちの吹き飛ばされる様は、見ている方が哀れになってくるが、相手の方から襲ってくるからには仕方がない事ではある。
「一応、ダンジョンからのカウンターとかが怖いけど…今のところはその気配はないか」
【センサーで念のために確認していますが、大丈夫なようデス。条件は色々と異なるようですからネ】
前の初級ダンジョンではエリーゼの蹂躙劇が原因だったようだが、ここではそう簡単に出ない様子。
まぁ、そんなにホイホイやばいのが出てきたらどの階級でもダンジョンが危険すぎるが…いや、そもそもモンスターが出てくるだけもそうか。
色々と思うところはありつつも、ひとまずは本日の配信は無事に終わるのであった…
【…ところで主、聞きたいのだが、何故オレの名前をサクラにしたんだ?自分で言うのもなんだが、鋼の蛇ゆえに、メタル系の名前になるかと思っていたぞ】
「ん?ああ、初めての従魔だし…将来に向けて桜の木のように大きく花を広げて大成出来たらなと思って、考えていたんだよね。…実際はその桜よりでっかそうなのが来ちゃったけど…」
…まさか、桜の木すらも巻き付いてへし折れそうなのが来るとは思わなかったもん。
べきっと軽く折れそう
そんな感じの強力な仲間だが、花を開かせることはできるのか
次回に続く!!
…ほんわか系or軍人系アラクネも候補だったけど、次回あたりにするべきか…ゆる~くふわふわか、びっちりハイレグかで迷って…




