第二十八話 ダメデモトモト、ギャンブルモジンセイゾイ
分かる人にはわかる、今回のサブタイトルは某大王のセリフ。
――――『召喚石』もとい『地獄のギャンブル石』。
それは、ダンジョンで出現するモンスターから得られるドロップ品の中で、唯一全モンスターで共通して超低確率でドロップするとされる代物。
マジックアイテムの一種ともいわれているが、その詳細は定かではなく、その効果の落差が非常に大きすぎることから、そのような名称で呼ばれているのである。
その石の効果としては『従魔』と呼ばれるようになるモンスターを呼び出すもの。
ダンジョン内では完全なる敵…しかし、召喚石で呼び出されたものは、召喚主に対して忠実なものとして従うようになるのだ。
人では無いモンスターだからこそ、良いモノであれば配信者にとって利益はある。
だがしかし、世の中そう都合の良いものはなく…呼び出されるのはその石をドロップしたモンスターの種類だけではなく、物凄い数のランダム性があるのか、当たり外れが大きすぎるのが欠点だという。
あるものはミノタウロスを仲間にできたと思えば、あるものが呼び出せたのはただのスライムだったりする。
またあるものが呼び出したらゴブリンだと思えば、別の者が呼び出したら炎のモンスターに抱き着かれて大事故になりかける等、特定できるものではない。
たとえ忠実なものだとしてもモンスター…人の考えとはまた違うもので、うっかりやらかせば大事故につながりかねないリスクも相当に持っている。
けれども、そのギャンブル性に魅了されるものは多く、例え超レアドロップで中々出回らないものだとしても大金をかけてまで夢を見る配信者たちも存在しており、当たった時に得られるものが非常に大きく…噂によれば、なんとワイバーンのようなものを引き当てて密かに国庫の番人として利用している国もあるのだとか。
「とはいえ、基本外れが多くて、本当にギャンブル性が高くて入手に命をかけ過ぎて破産しまくる人も出たという…取り扱いが、非常に危険な代物か」
【ギャンブルは、身を亡ぼすリスクが非常に大きいですからネ。ご主人様を敗北させる気はないのですが…『運』となると流石にメイドでもどうにもならないですヨ】
はぁと溜息を吐きながらエリーゼがそうつぶやくが、一介のメイドが、主の運命に介入できるわけがない。
いや、まずできてたまるかと言うツッコミはさておき、それだけこの召喚石と言うドロップアイテムは扱いが難しいもののようだ。
「しかるべきところに出品すれば一攫千金…ギャンブルは他者に任せて、自分は大金を得るだけという選択もできるが、どうする?」
「あー…売るって手段もあるのか」
ギルド内で、ギルド長にそう言われたらその選択肢もありだなと思ってしまう。
正直言って、エリーゼを引き当てた時点で、異土自身は自分の運がほぼ使われたような気がしてならない。
なので、出るとしてもしょぼいものになる可能性もあるし、そこまで期待できるものではないだろう。
単純に金目当てになる配信者であればここで売却するという手も取れるが…
「でも従魔かぁ…配信すれば、それはそれで面白そうな気もする」
「過去に、それで大金をはたいて大勢の前でやった結果、出てきたのがゴムルムガエッチョという訳の分からないものだったという事故配信もあるぞ」
「何それ」
【何ですかソレ】
聞いたことも無いようなものも出てくるらしく、本当にランダム性が高いようだ。
「というか、何で訳の分からないもので、種族名が直ぐに出たんだ‥?」
「召喚石は使用時、召喚主の頭の中に情報を流し込むらしい。実際、知らないはずなのに知識が増えていた…何て事例もあってな。応用が効けば、テストのときに暗記をより楽にさせられるのではないかと研究のために求める者もいるようだ」
色々と事情や求める者もいるようで、混沌としたものになるのは間違いない。
厄介事の種になるぐらいなら、さっさと売り払うか…使って無くしてしまうのが良い。
「…ちなみに使い方は」
「血を一滴、垂らせば良い。それだけで、発動するものだから、入手が難しいモノの中には、血を詰め込んだ銃で遠距離からスナイプを狙うとか…」
そこまでして求めるものなのだろうかと思うが、それでも執念じみた欲望を持つ人はどこにでもいるもの。
それならばいっそ、もう…
「問題事の種として露見する前に、使うか」
配信で視聴者の前でやるのも良いが、その合間に変なことになるのもアレだ。
ここでさっさとやってしまったほうが、思い切りが良い。
【お使いになられますカ?】
「ああ、取っておいても売っても面倒ごとになるなら、もう使ったほうが良いかなと思ってな」
「おい、だがやるなら外でやれよ?何が出てくるのかが分からないからこそ、全身が火で包まれた骸骨だとか、周囲を沼地にするカエルだとか、ゴリラを降らせる雨雲だとか、ギャンブル石と言われるだけあってとんでもねぇ大外れを出すこともあるからな‥‥ギルドの中で、そんなものを出されては困る」
思った以上に、とんでもない外れ枠も多い様子。
【ゴリラ…ゲリラ豪雨じゃなくてゴリラ豪雨…ふふっ…くすっ…】
「何かツボに入ったの、エリーゼ?」
ギルド長が出してきた例えで、何か変なものが思いついてツボにはまったのか笑いを漏らすエリーゼ。
彼女の思わぬ笑いにちょっと驚かされるが、一応は忠告通りに外に出て…試してみる。
「血を一滴、たらすだけでいいか…鬼が出るか蛇が出るか」
【ドロップ自体は、蛇から出ましたけれどネ】
言われてみればその通りではあるが…これで蛇が出ればそれはそれでどうなのか。
「外れだとしても…可能なら、フワフワもこもこなのが来い!!ベッドにして良し枕にして良しクッションにして良しのよしよしジェットストリームアタック!!」
【私の胸も膝も、枕にできますよ】
「絵面的に何かアウト!!とにもかくにも、四の五の言わずにちょっとした運試しっと!!」
エリーゼに裁縫用の針を貸してもらい、ちょっと痛いがすぐに絆創膏を張れるようにして、血を出して垂らしてみる。
石にかかればそのまま表面を赤く濡らさずに、まるでじゅわっと染み込むようにして消え失せ‥次の瞬間、ひびが入った。
ピキッツ!!パキィ!!
ドッゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンン!!
「って、だいばくはああぁぁつ!?」
【いえ、派手ですが衝撃波はなく…演出のようなものですネ。さて、何が出るのカ…】
黙々と煙が立ち込めつつ、徐々に晴れて見えてくる影。
ギャンブル性があるとはいえ、外れだとしても使いようがあるのならば良いと考えていた異土は、その姿を見て…頬をすぐにつねった。
「いてっ…え、マジ、これ…あ、頭の中になんか入ってきた」
【大丈夫ですか、ご主人様?一体何を、呼び出して…】
「…わぉ」
…エリーゼの問いかけの合間にも、召喚によって得られた知識を飲み込み、異土はどういう事になったのか、嫌でも理解させられる。
少なくとも、運は尽きていないようだったが…いや、ある意味悪いというべきか。
自分の身長の小ささにも悔しさを残しつつも、目の前にそびえたつそれに対して、しっかりと受け入れることにするのであった…
「と言うか、エリーゼも大きいのに、こっちもかよ…何、世の中大きいものが増えるのか…!!」
【何か、メンタル的にダメージを受けてませんカ?】
やらぬ後悔より、やって後悔
その方が、次はどうすればいいのかと言う教訓も得られるだろう
だがしかし、これはどうなのか‥‥次回に続く!!
…外れ7割、当たり2割、やっべっぇぇの…1割?




