第二十七話 胃薬が増えているのは責任じゃないデス
「…なるほど、初級ダンジョン『ヘビーバレスト』での…これまでのものとは違う、腐食毒の槍を扱った真・ラミアとでも名付けるべきものの出現とその映像か…はぁぁぁっ…」
(た、溜息が重っ…)
(本当はスタリアルのほうが管轄で、ヘビーバレストはまた別の方が管理されるところですが、報告でぶっ倒れて代理で連れてこられたようですからネ…)
…あのラミアとの戦闘から時間が立ち、無事に帰還できた異土たち。
メイド服は現地調達でさらなる蛇の犠牲を増やしつつも、どうにかエリーゼに蛇鱗模様のメイド服を着せることに成功し、彼女の下着姿を大衆の目に晒すことはなかったと安堵の息を吐いていたのだが…戻って早々にすぐさま配信で状況を確認していたギルド職員たちにあれよあれよという間に引っ張られ…お世話になっている吉田ギルド長の元にて報告をさせられていた。
元々は企業案件の配信だけだったはずなのに、突然のイレギュラーと言うべきラミアの襲撃。
配信してしまったためにどのような状態だったのかは、口で説明するよりも早く伝わったが、その分余計に心労が湧き出てきたようだ。
「とりあえずだ…本来ならば出ないような、いや、このタイプのラミアの出現自体も見たことが無かったが…総合すると、恐らくは『ダンジョンの防衛機構』というものに触れた可能性があるな」
「え?ダンジョンの防衛機構?」
「…そういえば、一応まだ、初心者であまりダンジョンに触れていなかった身だったか。そこのメイドの強さが並外れていたから抜けていたが…うん、まぁこれに引っ掛かる可能性は十分あったな…」
頭が痛いというように手を額に抑えつつも、ギルド長は説明する。
そもそも、配信者が挑むダンジョンに関して、初級や中級、上級に分かれてランク付けされているのはその中身のやばさの度合いを知る以外にも、別の役目もあるらしい。
「初心者は初級ダンジョン、それ以上は上の方に向かうようになっていくが…初級ダンジョンに上級の配信者が入っていくのはそんなに見ないだろう?今更、そんな弱い場所へ…なんて気持ちもあるだろう」
「は、はい」
「だが、実のところそんな目に見えてわかるような分け方をしたのは…」
…その身の丈に合い過ぎた、挑むには実力があり過ぎる輩が入ることで、ダンジョン内での大量虐殺のようなことを産みださせないためだとギルド長は説明する。
過去、ダンジョンが世界に出現した当初、国によってはその資源の可能性から軍隊を仕向け、完全制圧を行おうとしているところもあった。
だがしかし、ダンジョン内で大暴れをし過ぎた結果、とんでもないモンスターが出現し、一つの国そのものが全滅する事態にもなったらしい。
「研究の結果、ダンジョンには少しばかり意志のようなものが存在している可能性があり…特に、自身のみを脅かすようなヤバいものがいた場合は、それに対抗するための手段を産みだすことがある…それを、ダンジョンの防衛機構と呼んでいるんだ」
わかりやすく言えば、カウンターとして作られたモンスター。
剣を振るう相手であれば、剣が通じないようにガッチガチに固めた体を持っていたり、銃を使うならば防弾や反射、その他相手によって様々な仕様を有して、そのダンジョンでは本来出現しないような強化・魔改造されたモンスターが、ダンジョンを守るために出現することがあるようだ。
ただし、単純な破壊や殺戮では作動です、何かしらの条件が重なることで出てくるそうで…
「単純な蹂躙だけではなく、様々な条件が重なるようだからそのあたりはまだ研究途上…いや、そもそもやばいのが出ることが確定しているからこそ、そう簡単に研究できないのが現実だ。今回はおそらく、初級の中で桁違いのメイド…そいつが普段よりも大暴れしたのが原因かもなぁ…」
普段の戦闘ではほぼサポートに徹するエリーゼだが、今回に限っては配信の都合上、表立って戦ってもらっていた。
いささか興に乗っていたのかもしれないが、それでも溢れんばかりの力を振るい、強化メイド服の性能を見せるために魅せる戦い方もしていたが…色々と複雑に絡み合ったのだろう。
その結果が、あの初級ダンジョンに出てくるとは思えない腐食毒液を纏った槍を扱うラミアだ。
【防衛機構の、カウンターモンスター…ああ、なるほど。だから、あの腐食ですカ。並の毒液では通じないことを見抜かれていたのでしょうウ】
説明に納得がいったと、そうつぶやくエリーゼ。
彼女の耐性すらもダンジョンは見越して、対応できるものをよこしたに違いない。
「それでもまぁ、無事討伐が出来て良かったとが思うが…この事態を引き起こすほどのものだとなると、もう初級はダメだな。お前の入れるダンジョン、次から中級だ。…と言うか、まずその蛇鱗メイド服を着たマジックアイテムを有している時点で、本当は上級へぶち込みたいが…持ち主自身の強さを加味すると、そこまでまだいけないのが歯がゆいか…」
今後のことを考えると、初級ダンジョンでのこれ以上の活動は再び防衛機構を作動させかねない。
そのためひとまずは、中級ダンジョンの方で今後は配信しろと、ギルド長に言われるのであった…
「あの、ところでこのラミアからドロップした宝石のようなものはなんですか?」
「ん?ああ、そりゃ…うぉい、ガチのレアドロップ品じゃねぇか…それ」
「え?」
「基本的にモンスターのドロップ品はバラバラなんだが…それ、かなりの超低確率で全モンスター共通でドロップすると言われている『召喚石』だ。ランダムで、当たり外れがとんでもなくでかいから、配信者たちの間では別名『地獄のギャンブル石』ともいわれる代物だぞ」
…ぎゃ、ギャンブル石?
【ほぅ、ご主人様の運試しになるものですか…どうなるのか、興味ありますネ】
「このメイドを掘りあてた時点で、尽きているとは思うがなぁ…」
とりあえず次から中級に挑めそうだが、
何やら怪しげなものも出てきたが、どう生かせるか
次回に続く!!
…道中、尊い蛇の犠牲か‥




