第二十五話 相手も呆れる死因は嫌すぎて
…危うく、異土は逝きかけた。
敵の攻撃ではなく、身内の攻撃でもない…ただの抱擁で。
【ご主人様を、こんな危険な目に遭わせるなんて許せないデス】
””「お前のせいだろうがぁぁぁぁぁぁあ!!””
【シャゲェェッツ!!】
異土がどうにか息を吹き返したのを確認しつつ、びしぃっとラミアに指を突きつけるエリーゼに対して、敵味方双方からツッコミが入れられる。
流石に敵意を向けている最中とはいえ、思いっきり冤罪を被せられるのは相手も嫌だったのだろう。
言葉が違えども、その表情や身振り手振りから、明らかすぎる冤罪なのを理解しているからこそ抗議しているのかもしれない。
【シャゲシャァァァァァァ!!】
【おっと、怒りましたネ】
「ほぼエリーゼの責任だと思うよ」
”6割が多分、最初の方のこのダンジョンモンスターとしての敵意だけど…4割が今、冤罪に関しての講義の怒りになっているような気がしなくもない”
"いや、1:9ぐらいになっていると思う”
槍を構えなおし、エリーゼに鋭い目を向けるラミア。
明かに敵意を持っていることは見てわかるのだが、その怒りが少々別方面に塗りつぶされたのはどうなのだろうか。
「それでも、戦うことになるか…エリーゼ、いける?」
【腐食系の毒は現状、私には効果ありますからネ…こういう時に、耐腐食コーティング済みのオリジナル機とかがうらやましいですが、量産機なのでそこは仕方がないと割り切りましょウ】
いつの間にかモーニング…もとい、改良されて少し大型化した鉄球がついたメイドスターを手に持って、そう答えるエリーゼ。
今回の配信は強化メイド服及びブーツをアピールしていたが、この状況ではすぐにいつものモノに切り替えたほうが良いと判断したのだろう。
【とはいえ、腐食コーティングされていないいつもの服は躊躇しましたが…まだ、この強化メイド服を着ているのでマシだと思いましょウ。少しばかり、装甲として役には立つでしょウ】
”あわわわ、我が社の強化メイド服が、とんでもない責任を負わされている…!?”
”これ、ある意味配信事故と言いたいが…未知のラミアとの一戦に使用された服として、中々良いプロモーションには使えるんじゃね?”
”何もかも腐食されたら、終わるがな”
広報担当者だが何だか、どこかの人の胃が痛み始めるのはともかく、敵意のあるモンスターであれば相手をしなければならない。
「でも、目撃されているここのラミアとは…いや、あっちの方が異形過ぎるだけなのかもしれないけど、人型ってことはその分やりにくくもあるか…」
【問題ないデス。ご主人様。相手が何であろうとも…ご主人様に危害を加えるのであれば、お掃除するだけデス】
【シャゲッツ!!】
だっとエリーゼが一気に距離を詰めてメイドスターを振り下ろすと同時に、反応したラミアが槍で受け止める。
ガッギィイン!!ジュウウウウウウウ!!
【やはり、かなり強力な腐食性デス。こちらの鉄球が腐食して、あちらの毒を纏う槍が溶けないのは…なるほど、自身の一部を使ってますネ】
【シャァァッツ!!】
びゅんっと槍が振り回され、同時に飛び散る腐食液。
周囲を溶かしつつ、その液体を喰らわないようにかわす中で、分析をエリーゼが進めていく。
”一部を使っている?そんなことあるのか?”
”武器を扱うモンスターの中には同じようなことをするやつはいるよ。例えば中級ダンジョンに出現するボーントロールだと、自身の大腿骨を外して、こん棒に浸かってきたりするらしい”
”それ、歩けなくならないか?”
”獲物の血肉をぎゅっと圧縮して、代わりにするのだとか…”
さらっと何かえげつない談議がコメントで流れてくるが、モンスターが自身の能力をより発揮するために、血肉の一部を使って攻撃してくることは珍しいことではないらしい。
今回のラミアの場合、槍の方には彼女の蛇側部分…脱皮などで張り付けたのか、それで覆われているらしく、何もなければ刺突性能は少し下がるようだが、腐食する毒で覆うことで補っているようだ。
振り回すだけでもその腐食毒の液体は周囲へ飛び散って溶かし、足場を悪くして奪ってくるが、下半身が蛇のラミアだからこそ、どのような地形でも蠢いて機動力も無くならないようだ。
【相性が良い武器とモンスター…いえ、こちらとしてはどっちも相性最悪ですネ。カノン砲も熱がちょっとあるので、ピット器官を有されていたら、感知されて軌道を読まれて回避される可能性もありますカ】
今までの相対してきたスライムやコボルトとは違い、エリーゼとしてはあのラミアとの相性は最悪のようだ。
異土自身がこっそり近づいて攻撃しようにも、相手は蛇ゆえか気配察知も優れているようで、エリ0是が瞬時に姿を消して背後に回っても、尻尾で弾き飛ばされて攻撃がなかなかできない。
【シャゲシャゲェェェェェエ!!】
”これ絶対に、初級の強さじゃないだろ!相性が悪くても、結構やばいぞ!!”
”まず腐食使ってくる時点で、正面から相手をしたくねぇ…!!”
どどどっとその場で槍を百裂突きとして突き出して動かすだけでも、飛んでくる腐食液がかなりの凶悪性を持つ。
ジュワアアアアアアア!!
【っ、強化メイド服に幾分かかかって…ダメですネ。完全回避も難しいですカ】
エリーゼも完璧に無傷とはいかないようで、強化メイド服のところどころに穴が開いていた。
腐食液が微量でも、かかった範囲は溶かされるようで、直に肌に触れるまでとはいかずとも、このままでは致命傷を負わされる可能性が高い。
【長期戦は不利…ならば、リスクと腐食を承知で、接近戦に持ち込みましょウ】
「でもエリーゼ、どうするの?あの槍、腐食毒で覆われているから、接近しても武器が…」
【大丈夫でデス。腐食に対抗できる武器は…要は、腐食する実体が無い武器を使えばいいのデス】
そういうと、エリーゼの腕が…いつも左ばかりだったが、左右両方が同時に変形した。
ガシャガゴンッツ!!
【エネルギー出力上昇…『ダブルビームフィンガー』!!】
”おおっ!?ビームサーベルとかじゃなくて、エネルギー体の腕!?”
”そうか、ビームで出来ているのなら腐食関係ない!!いやまず、メイドがビームを使うってどういうこと!?
エリーゼの両腕が光り輝くものに切り替わる。
よくある某白い悪魔の有名な武器の光る部分と言うか、わりとロボット物とかSFで有名なビーム系の武器の、両腕版。
【ビームなので溶けまセン!!接近戦で、焼き殴りマス!!】
【シャゲェェェエ!!】
ガァァンッ!!ジュウウウウウウ!!
急接近して振り下ろされたエリーゼの輝く拳を槍で受け止められるが、腐食液はビームを腐食できない。
バチバチと火花が飛び散り、まともに正面からぶつかり合っている。
「おおっ、思いっきりやりあえている…鉄とかじゃないから、溶けもしない!!」
”すごっ、ビーム兵器を扱えたのかあのメイド。カノン砲を使っている時点で元からか”
がちんがちんっと音を立てつつ、腐食毒液まみれの槍と打ち合えるビームフィンガー。
熱量もかなりあるようで、毒液すらも蒸発させている様子。
「これならいけ…あ、いや、待てよ、蒸発‥?」
まともにやれている様子を見て、大丈夫かと思ったが、ふと、異土は気が付いた。
蒸発しつつある、毒液のガス。
それは焼き消えているわけではなく、じわりじわりと広がって…
腐食は相性が悪い
しかし、対抗手段はあった
でも、何やら不穏さも…
次回に続く!!
…ひたいがぴりぴりかゆいな




