第二話 冥土の土産
大体数日おきに一話出せたら…のペース予定
今はちょっと早いですが、遅くなる時もあるのはご了承ください
―――ろくなものが無い、安全なだけの初級ダンジョン。
それがここ、初級ダンジョンの一つ『スタリアル』の認識であったが…このダンジョンに併設されている、配信者ギルドを収める支部長…吉田電造は今、物凄く頭を抱えていた。
「おい‥12番のカメラ、今日入った新人配信者があることをやらかしたんだが」
「どうされましたか、吉田ギルド長?」
ギルド長であるからこそ、今この場所にいる配信者たちの動向はしっかり見る。
その信念をもって、全チャンネルを閲覧していたようなのだが…どうも、その中の一人の映像を見て漏らした言葉のようで、職員は声をかけた。
「迷惑行為でもやらかしましたか?」
「違う、そうではなくてな…ここ、初級ダンジョンのはずだよな?」
「ええ、そうですね。配信初心者たちにとっては、モンスターもほとんど出ず、出てくるのも鉱石程度…凄い価値があるわけでもないですが、掘り出したりする様子でも一喜一憂したりして、色々な感覚をつかみやすい場所のはずですが」
「それが、どうもこいつ…マジックアイテムを掘り当てやがった」
「ん?」
ギルド長の言葉に、一瞬何を言ったのか、その場にいた職員たちは首をかしげる。
初級ダンジョンでのマジックアイテムの報告例はほぼ無く…出たのであればそれはそれでかなり大きな事態だが、本当なのかは疑わしい。
過去には、見つけましたと言ってわざと別の場所のモノを偽装して出した配信者の例もあり、今回もそうなる可能性があった。
「そうであってほしかったが…見ろ、この映像記録」
だがしかし、その可能性はすぐさま潰され、映し出されていた映像…異土がエリーゼを得た瞬間が、職員の前に見せられた。
「はぁ?…え、なんですかこれ」
「箱のようなものが変形して、中からメイド?え、誰かがマジックアイテムで眠っていたとかいうわけじゃないのか?」
「こんな初級ダンジョンに、マジックアイテムを持ちだして眠りに来るやつがいるのか?」
少年が黒い箱を掘り出し方と思えば、次の瞬間には箱が美しいメイドになった映像を見て、思わずそう叫ぶ職員たち。
本当にそのメイドがマジックアイテムなのかどうかツッコミを入れたいところなのだが、様子を見る限り嘘ではないようだ。
「えっと、どうしましょうか、吉田ギルド長」
「決まっている、戻ってきたらすぐにこちらへ来るように通達だ。幸い、配信映像も見ている人数はほぼ無くて…これで、あのメイドが本当にただのメイドレベルであれば、問題は無い…はずだ」
配信初心者のやらかしに関しては、これはこれで想定できた範囲ではある。
いくら初級ダンジョンとはいえ、未知の可能性が眠るダンジョンには変わりはなく、ありえないことが起きても不思議ではない。
だが、それでも出てきたこのメイドがただのメイド…人の世話をすることだけの、戦闘力も何も無いような、それだけの存在であれば、問題は無いはずである。
まぁ、一部のコレクターなどは情報を知ったら殺到しそうな気もするのだが、それはそれで規制をかけて、配信者を守ればいい。
…単純に確認し、少しだけ動けば済む程度の話、そのはずだった。
しかし、その思いはすぐに裏切られることになった。
ブーーーーー!!ブーーーーーーーーーー!!
「うぉっ!?どうした!?」
「な、7番カメラの配信者からの緊急通報!!映像内には…うっそだろ!?これ、ここで出るのか!?」
「ホウレンソウ!!何がどうしたのか、すぐに報告を!!」
突如として、配信者ギルド内に響き渡る警告音。
それは、こんな初心者向けのダンジョンでも、万が一の事態があったら怖いので配信者たちには所持を義務付けられている緊急アラームから発せられたものであり、各配信者たちの映像がつなぎ合わさり、何が起きたのかすぐに理解させられる。
「あれは…グランディスブラッドワーム!?奴が何故ここに!?」
【ホゲジャァァァァア!!】
映像に映し出されていたのは、巨大なとげとげの生えた凶悪なミミズのようなモンスター…『グランディスブラッドワーム』と呼ばれるもの。
見た目の通り、ミミズのようにダンジョンの地面の中に潜り込み、獲物を喰らう凶悪なモンスターではあるが、その体格ゆえにある程度のサイズの獲物でなければ腹が満たされないのか、大型が出やすい中級以上のダンジョンでしか出現しないはずのもの。
だがしかし、それでも何故かこの初級ダンジョンに突如として出現し…相当腹を空かせているのか、暴れて無差別に襲っている光景が映し出されていた。
「急いで初級ダンジョン内にいる全配信者へ緊急警告及び避難勧告!!」
「吉田ギルド長!!不味いです、一番近くにいる12番の方へ向かって…!!」
「なんだとぉ!?」
確認すれば、すぐに避難を始めている配信者たちの姿が移って…いや、一部が犠牲になって映像が途切れたのもあるのだが、その中の映像の一つに、ワームが配信者を…先ほど確認した、メイドを得てしまった少年の元へ向かう様子が映し出されていた。
大きな口を開けて、すぐにでも飛び掛かり、逃げる間もなく…
【---ご主人様への、敵対行動を確認。排除しマス】
「「「…は?」」」
迫りくるワームを前にして、瞬間移動のように瞬時にメイドがその前に立ちふさがる。
マジックアイテムらしいが、それでもたった一人のメイドが身を犠牲にして主を守ろうとしているのかと思ったが、どうやら違う。
いつの間にか、その右腕が変形して大砲の筒のようなものへ形状が変わっており…
ドワォゥッ!!
…たった一発、閃光のような光がほとばしったかと思った次の瞬間、絶命の声を上げる間もなく、ワームの全身が消し飛んでいた。
そしてその威力のすさまじさを物語るように、ワームがいた場所の後方もまた大穴をあけ…ダンジョンの外に貫通していたのであった。
「…おいおい、何だよ、今の」
「あのメイド、腕から何かびかっと出したかと思ったら…いくらあの中級レベルのワームでも、塵一つ残さず…それどころか、ダンジョンの壁すらもぶち破って…!?」
「どう考えても、ただのメイドじゃなくなったんだが!?」
それと同時に、今起きた出来事を職員たちはすぐに受け入れられなかったのだが…どうやらこの日、残業も確定したのであった…
消し飛んだ、初心者にとっての脅威
同時に吹き飛ばされた、ここのギルドの平穏
その一撃は、重すぎたようで…
次回に続く!!
…右腕からの強力な大砲のような攻撃、ロマンを今回は詰めてあります。
どこぞやのメイドの胸には何も詰まって…
(…ここで、言葉は途切れ、地面が赤く染まっている)