第二十三話 ヘビーな蛇の悲劇
―――ヘビーバレストのモンスターたちは、初級ダンジョンのものとはいえ、やる気は人一倍あったりする。
人ではないが、好戦的な性格のモンスターが多く、一説によればそのせいでお互いに毒を使ってしまうことで、訪れる配信者たちに喰らわせる毒はその濃度が下がった状態ゆえに、致死率が低いのではないかと言うものもあるほどだ。
そう、たとえ相手が誰だろうとも、老若男女問わず、毒を滴らせる牙をぎらつかせて…
バギィンッ!!
【ヘビヤァッツ!?】
【…ふむ、この程度の毒の牙は貫通しないのは良いですネ】
「そもそもエリーゼに毒が効くのかなぁ…?」
…獲物に食らいついた瞬間、モンスターであるはずのヘビドラモンは、自慢の毒の牙が噛みついた相手の硬さによって砕け散ったことに驚愕していた。
あってはならないはずの、牙の破壊。
それなのに、この獲物は平然としており、ありえてはいけないはずなのにヘビドラモンは恐怖を感じたが…それはもう、遅かった。
次の瞬間、獲物が目の前から消えたかと思えば、大きな棘が迫り…
ドズンッツ!!
「…わお、あのちょっとツチノコに似ているヘビドラモンが、道端のガムのようにあっけなく…」
【ふむ、すっきりとした棘の踏みごたえですが、貫通力はもう少し欲しいですネ】
…案件配信を行う中で、エリーゼの手によって討伐されゆく蛇のモンスターたち。
本来であれば致死的なものではないとはいえ、状態異常やその素早さに翻弄されて苦戦する者が多いらしいが、エリーゼにとっては知ったことではない様子。
そもそも、マジックアイテムであるからこそ通常の人間には効果のある毒も効果をなさないようであり、強化メイド服もあるとはいえこのあたりのモンスターたちの牙も通さないようで、彼らの天敵と言っても良いのかもしれない。
”わお、予想以上に無双状態”
”普段異土君が前を出るけど、たまにエリーゼちゃんが出るととんでもないなぁ…”
基本的にエリーゼは普段の配信ではサポートに回るからこそ、そこまでその動きが見えることはない。
しかし、最初の方のカノン砲しかり、今回の案件はメイド服なので積極的に前に出てもらった結果…このダンジョンでの相性も相まって、圧倒的な性能が発揮されたのである。
もちろん、案件配信と言うのもあってか、武器も制限しており、あの足の棘が出るブーツだけでやっているのだが、それでもなお強靭な一撃が振り下ろされれば、なすすべもなくモンスターたちは穴をあけられ踏みつぶされ、縦横無尽に蹂躙されていく。
”わ、我が社が出した案件とはいえ…視聴者の皆様方、彼女だからこその異常性能だと思われますので、どうかそこまで期待を持たないでぇぇ!!”
”おいおい、案件会社のほうが叫ぶ事態になっているんだけど”
”確かに、エリーゼちゃんだからこそなせるわざなんだろうけど、これはこれで面白いな”
順調にメイドが蛇たちを蹴り飛ばし、潰し、貫く配信映像はちょっとぶっ飛んでいる。
それゆえに、案件会社の方のちょっと申し訳なくなるような悲鳴が上がりつつも、配信としては中々良い状態だろう。
「しいて問題を言うなら、エリーゼばかりが目立つので、俺自身が何もしていないように見えることぐらいか…いや、本当にこの状況だと彼女一人だけでも十分すぎないかと思ってしまう」
”ドンマイ、異土君”
”100円スパチャが投げられました> この金で、涙を拭くティッシュでも”
「地味に辛くなるようなスパチャだな!?」
とにもかくにも、案件動画としてはメイド服やブーツの強さを見せられているのだから、成功だと思いたい。
「エリーゼ、今のところ調子はどう?」
【問題ないですネ。背中のパージボタンをうっかり押さないように気を遣えば、背後にも意識が回って敵を取りやすくなっているかもしれないデス】
”まさかのデメリットがメリットに作用しているだと?”
”へびども!!ぜんりょくでせなかをねらえぇぇぇl!!”
【今のコメント、投稿者には遠距離からスナイプしましょウ】
”ひぇっ”
エリーゼの無双ぶりに、モンスターたちの方を応援したくなる視聴者たち。
中には強化メイド服の唯一の弱点と言って良い背中のパージボタンを押すようにするコメントもあるが…一応、万が一発動した時に備えて、配信を緊急停止させられるようにはしているので問題は無いと思いたい。
うちは健全な配信です。ハイ、メイド服を着たメイドが蛇を相手に無双しているのは健全なのかと言うのかは人次第のことです。
順調に進めているのは良いことだと思いたい。
【まぁ、そもそもこの強化メイド服、背後からの強襲にも備えているのか胸元のボタンで棘を生やせるみたいですネ】
「ハリネズミみたいな機能だな…というか、基本棘が多いから守る方が多い…のか?」
”綺麗なバラには棘がある…そのコンセプトで、今回の強化メイド服は創られております”
”美しさに誘われる相手を、ぶすりとさす…凶悪性を兼ね備えつつ、身を守ることでその美しさもまた守られるようにしているのです”
「へぇ、そんなコンセプトで…」
”と、言いたいところなのですが、この状況だと綺麗なバラにはトゲミサイルポッドが装填されている…と言いたくなるので…”
そのコメントに、何も言えなくなる。
いや本当に、うちのメイドがコンセプトを粉砕するような配信を流して申し訳ない。
”なのでここはひとつ、沈静化のためにあのパージボタン、押してみませんか?”
「やらないからね!?」
配信映像内で、いきなりメイド服がパージされるメイドは流したくはない。
ひとまずはまだまだ、この蛇のダンジョンのモンスターたちはメイドの手によってなぎ倒される映像が続きそうであった…
『ーーーー』
…上層で、蛇のモンスターたちがなすすべもなく、大量にやられていく。
その光景は、初心者配信者たちがレベルアップしようと、レベリングをする中でモンスターたちを討伐する光景とは…絵面が少々酷いとはいえ、大差がないとは思いたい。
しかしながら、相手をしているのは人間ではなく、主に一人のマジックアイテムのメイド…それに、ダンジョンが黙っていることはあるだろうか。
いや、無い。
通常でもありえることなのかもしれないが、それでも莫大なエネルギーを持つものが暴れまわっていると言う状況は見ているだけで良い気分ではない。
…ゆえに、ダンジョンは嫌がらせを行う。
見れば、どうもメイドが一人の少年を守るようにして動いているのであれば…狙うのであれば、そちらが良い。
物理的な強さには心もとないが…造形自体は、どうとでもなるもの。
ぐじゅりと音を立てながらダンジョンの中で成形され、緩やかに彼女の元へ送られていく。
これは、初級とはいえダンジョンだからこそ、せめてもの警告として贈るもの。
どのように扱われようが…メイドに対して、少々嫌がらせが出来ればそれだけでも良いのだ。
生み出した後は、制御できないかもしれないが、後のことを考えればこれでいい。
そしてゆっくりと、形作られたそれは…壁を突き破り、そして突き動かされるように先へ向かうのであった…
ダンジョンは牙をむく
配信者が油断しているのであれば、その隙を逃すわけがない
何が起きるのかわからないが…それでも多少は痛い目を…
次回に続く!!
…うっかり保存し損ねたせいで、消えた文字が大量に…はは…