第二十二話 製作者様の言うことに
―――初級ダンジョンの一つ『ヘビーバレスト』…名が体を示すように、ここは蛇のような見た目のモンスターが出る場所であり、状態異常対策のポーションはもちろんだが…一番必要なのは、ほぼすべての種類の毒に対する解毒薬が必須ともいわれている。
まぁ、初級ダンジョンゆえに、実は普通の野生の毒蛇よりも弱い毒しか持たないモンスターも多いようで…これが上級とかであれば、万が一の毒での死亡に関する書類等が必要らしいが、ここではそう簡単に死ぬようなことはない。
蛇のモンスターで有名どころだと、バジリスクやラミアあたりがありそうだが…どちらも上級ダンジョンにしかいないそうで、バジリスクの方は石化させる毒や魔眼という石づくしのやばいものがあるらしいがこちらはとっくの昔に特効薬が出来上がっているらしく、ラミアの方は物語とかで見るような下半身蛇の上半身美女…ではなく、下半身が人の足、上半身が蛇という珍妙なものがはびこっているとか…それ絶対に違うモンスターと言うか、それはそれで珍獣的なものの見たさがあるような‥‥もっと配信者として上になった時に、絶対に見に行きたい。
「それはともかくとして、カメラをセットして…エリーゼ、案件でもらった服、着用したよね」
【ばっちりデス】
「それじゃ、今日は案件配信と言うことで」
【厚目財閥から提供された強化メイド服、私の普段着ているものと比べてどのぐらい違うのか】
「配信を開始しまーす!!」
””よーよー、まってましたぁ!!”
”おお、エリーゼさんのメイド服が、いつもとちょっと違う…金属っぽい?”
早速画面にずらずらと流れていく、コメントの数々。
本日は案件配信…厚目財閥特製の強化メイド服とやらを着用して、配信を異土たちは行う。
エリーゼが着用したのは、普段の黒白としたメイド服…ではなく、厚目財閥製のメイド服なだけあって、普段彼女が着用しているものとは違うものが多い。
ポケットが無いが、下着の方に一時的に追加しているらしいのでそこは大丈夫として、白ではなく銀色と金の縁取りがされた、ちょっと高級感…と言うか、金属のようなメイド服。
しかし、しっかりと布地のひらひら感も出ており、重量はなんと普通の衣服よりもはるかに軽量化されているようだ。
【厚目財閥の特殊形状記憶合金糸というものが使用されているようでシテ、通常の鋼鉄の5倍の強度を誇りながら、重量は綿の五分の一…中々すごいですネ】
「形状記憶ってことは、熱を帯びたら形が変わるとか?」
【そうらしいですヨ。内側に特殊なボタンがあって、押すことで部位に熱を帯びさせ、変形させるらしいでス。私の腕の変形機構には劣るようですが、大きな刃と盾に変ることができるようですネ。それに、付属のブーツの方も、小指部分にボタンがあって、それを操作すれば蹴った瞬間だけ棘が出る凶悪仕様…】
”割と堅実だけどえげつない仕掛けがあった”
”そういや、この間発表されていたなー、形状記憶合金糸。イゼメルワド社だったか、あそこが発表して公表して、増えたイメージあるかも”
”棘かぁ…ナイフが飛び出るスパインブーツや、爆薬が仕込まれたボンバーブーツとかもあるけど、それらに似た系統だな”
メイド服の軽い解説はさておき、この性能を試す手ごろな相手が欲しかったところ。
いつものスライムだとべとべとするし、コボルト相手は絵面が飽きるし…だからこそ、違う相手として今回はここを選んだのだ。
【それにこの服、ポケットはないですが変形機構の一部で収納部分も作られており…解毒剤アンプルなどもいくつか収納できますからネ。蓄えやすさを見せられるのデス】
「こういう場所だからこそ、道具を持って行ける…手持ちに邪魔にならない場所へ入れられるのは便利か」
【まぁ、そもそもご主人様を毒に犯させる気はないですけれどネ。万が一を考えて、ピンポイントで牙のみを狙撃して破壊できる小型バスターショットガンを用意してきましタ】
”武器を瞬時に破壊される蛇の悲しき運命…”
”案件動画でメイド服の凄さはわかるけど、よりえげつないメイド性能が出るんじゃないか、これ”
がごんっと音を立てて、小さな吹き矢のような形状に左手を変化させるエリーゼに対して、そんなコメントも投げかけられるのであった…
”…いやまぁ、一応我が社の宣伝になるのならばどのようなものでも良いですけれどねby厚目財閥”
”ただ、絶対にメイド服のその背中の方にある、ボタンだけは押さないでください。それは緊急時用のパージボタンですので、事故られると…”
…案件先のコメントもあったが、どうやら非常時に備えてざっくり脱げるような仕組みもあるらしい。
防火や防酸処理をしているらしいが、それでも融解された場合に、皮膚との癒着を防ぐための最終手段で用意したとのことだ。
その他、様々な緊急時の仕掛けもあるそうだが…やらかしだけは避けないとなぁ…




