第二十一話 甘美な誘い
「…案件メール?」
【ハイ。どうやら配信者向けに、企業が出されているもののようで、ご主人様宛てにいくつか届いているようですネ】
…記念配信も終わり、ゆったりとした時間を過ごしていた異土とエリーゼ。
得られた投げ銭やらチャットへの返信作業などもある中で、ふと、とあるメールが届いていたのを見つけた。
案件…それは、配信者にとってチャンスでも良縁をつなぐ機会でも、場合によってはやらかして炎上し、全てを失う可能性のあるモノ。
ダンジョン内で使える装備や調理器具、それとは関係なくファッションから工場見学など、その内容は多岐にわたるのだが、大抵の場合は配信者とつながることで、将来の投資につなげたいというのが多い。
もちろん、配信者側としても最新のものが使えたり、何かと優遇を受けられたりするようにはなるのでデメリットはほぼ無いのだが…うっかりやらかしたことによって、連なる企業ともども倒産した事例もあったりするのだ。
「恐怖系初級ダンジョン、ポポヨラスでの配信者の悲劇とかあるからなぁ…まさか、ガチの怪異のようなモンスターが、より狂気じみた姿に…配信者のおっさんもガチ変態の…」
【それ、悲劇ではなく喜劇が起きてないですカ?】
エリーゼは知らないから、そんなことが言えるのである。
とはいえ、見せたくはないな…あの悲劇は、今もなお配信者たちの間では案件が来たら、きちんと吟味して対応するようにと、確実に心に刻まれているのだから。
誰もがあのようなことになりたくはないものである。
「まぁ、当時の配信者は現在、どこかのバーで働いているとかそんな話は置いておくとして…確かに、色々あるね」
配信者にとって案件もまた稼ぐ手段になるのだが、それでも基本的にはもっと登録者が多い配信者の方に企業が出すことが多い。
まだ1000人を突破したばかりの初級ダンジョンばかりで、異土としてはまだ先になるかと思ったが…案外、こういう若手を狙って投資目的で出すところも多いのかもしれない。
「でも基本的なものが、エリーゼ向けになりそうなのが多いんだけど…モンスターをその場で調理するように倒せる包丁とか。防火布実験とか」
【ご主人様向けにもありますヨ。事故でダンジョンにお子様が入っても絶対安全防護服ってノモ…】
「それは絶対受けないからね」
誰がお子様だ。
とはいえ、色々と案件メールが入っているようで、ざっと見る限りでは変な企業はないようだ。
こういう案件メールの中には、偽装して入れるものもあると聞くからこそ、注意深く調べてから対応するのだが、それなりに悪くはない。
「マイナーなのも、有名なのも混ざって…ウミダナデンキとかいろいろ…へぇ、厚目財閥とかからのダンジョン向け強化メイド服とか…需要あるのか?」
アパレル関係で強いとい噂の企業もいくつか出ているようで、ダンジョン内ファッションの一環で出してきているようである。
見た目だけでも華やかに、美しくかっこよく、たくましく‥‥配信者界隈でもファッションセンスは大事だろう。
【すっごくありますよ、ソレ。しかし、私のモノと比べると、性能が落ちそうですが…ふむ、デザインは悪くはなさそうですネ】
正直言って違いが分かりづらいが、悪くはないらしい。
エリーゼの新しいメイド服…いや、彼女の場合は自分で作れるそうなので、デザインも参考にするつもりらしいが、他社のものも着たくなるのだろう。
ちょっと面白そうな気もするので、ひとまずはその案件を受けてみようと、異土たちは返信するのであった…
「しかし、厚目財閥のメイド服色々種類多いな…水着メイド服とか…服?」
【メイド服の定義に入ればいいのですが、微妙なのも…むぅ、メイドたるもの、あらゆる環境下でも大丈夫な各種メイド服は持っておくものですが…アーマードメイド服…良いですネ】
「もはや兵器だよ、それ」
…この財閥、ガチで何を目的で作っているんだ、こういう服。