第十四話 メイドなりの思うところデス
…正直言って、自分の火力に関して過剰なものがあるとは自覚している。
そう思うのだが、それでも大事なご主人様を守るためには、これでもまだ足りないのではないかとも矛盾した想いもまたあるだろう。
だからこそ、その間のちょうどいいバランスを…ほどほどの妥協点を探すということは、密かな目標としているのである。
【グルルルルルァァ!!】
でも、目の前の狂犬に関しては、その都合のいい塩梅を探す材料としてはいまいちだろう。
筋肉の厚みが凄かろうとも、どれだけの力を秘めていようとも…
【…いえ、非殺傷性武器の妥協点を探すには、頑丈さがあればいいのでしょうカ】
突進攻撃を仕掛けてくる、力任せのスタイル。
それは軌道を読みやすく、エリーゼは手に持ったメイドスター…その先端の、鎖付きの鉄球を振り回し、狙いを定めて叩きつける。
ドッゴォオオオン!!
【ギャイイインッツ!?】
軽めの鉄球、振り回しやすいように小型にしたが、速度の分威力が乗せられているのだろう。
ぶつけた時に爆発する機能は試しで切っているのだが、この一撃だけでも吹っ飛ばしてしまうのであれば、少しばかりいらなかったかもしれない。
【ですがまぁ、それはそれで置いたほうが良いですネ。今はご主人様に害が及ばないようにお掃除するだけですシ】
【グルルルォオッヅ!!】
もう一つ、この戦闘の中でエリーゼは気が付いたこともある。
自分に向けられている視線、大事なご主人様の目だけではなく、周囲に隠れ潜み、怯えているコボルトたちの目。
その中に、明らかにモンスターではないもの…おそらくは、このコボルドーンを仕向けたであろう者たちの視線も感じ取っている。
メイドたるもの、主へ向けられる視線には気を使い、なおかつその周囲にある他の視線からも、感情や想いを読み取って瞬時に敵かどうかを認識する必要がある。
それゆえに、敵であると判断できたのであれば…いや、まだ手を下すには足りないか。
(…こんな時、姉妹機ならどうしたでしょうカ)
関係なく屠る?いや、それは蛮族過ぎるか。
でもやるかやらないかと言えば…大半が、殲滅しそうなのは言うまでもない。
(人の振り見て我が振り直せ、姉妹機の振り見て我が振り見直せ…少しは、考えることにしましょウ)
ええ、一番大事なのは力を使うよりも…
「エリーゼ、前、前、前!!」
【グルァアアアアアアア!!】
【あ】
少しばかり考え事をしたせいで、だいぶ接近されていた。
コボルドーンの口が大きく開かれており、バチバチと口内に電撃のブレスが発射直前まで溜められているのが分かるだろう。
遠距離ではなく、至近距離で一番火力の取れる…少なくとも手を使って受け流されるような技でなければ確実にメイドを葬るための手段として選んだと思われ、選択肢としては正解を引き当てている。
メイド服でのガードをされるかもしれないが、至近距離でかつ可能な限り布地で防がれない場所を狙うものだとすれば…
―――ああ、まだまだ、私は未熟ですネ。
考え事をしている程度で、相手の動きを見忘れているとは、やっちまったデス。
【でもこれ、問題ないですネ】
ゴッス!!
【グルワアッツ!?】
ボゴィンッツ!!
ブレスそのものを、素手で防ぐ手段が無いわけではないが、そもそもの話として吐き出させなければいい。
無理やり拳を下から叩き込み、なおかつそっと小型爆弾を口を閉じさせる前に放り込ませれば、ブレストの反応で爆発が生じる。
ボゴンッス!!
【グルアアアアアアアアアア!!】
口の中の大爆発で頭が吹っ飛びかけたようだが、持ちこたえたようで絶叫が上がる。
そしてそのまま苛立ちと痛みに耐えかねてか、勢いに任せての拳ででたらめに殴り掛かってくる。
「ですが、甘いデス」
迫ってきた手を素早くつかみ、抑え込む。
勢いが残っているので、それをそのまま利用し、重ねて投げ飛ばす。
遠くへではなく、地面へベクトルを向けて…
【セイッ】
ドッゴォォォォォォォォォン!!
【グルワァァァァァァッヅ!!】
勢いよく叩きつけ、地面が大きくへこむ。
その衝撃に、コボルドーンの全身の骨が砕け散ったことを感覚で捉えるが、これで終わりではない。
【魔石はココのようですネ】
叩きつけられて体が軽くバウンドして戻ってきたところで、頭をわしづかみにする。
後頭部に、毛の奥底に隠れるようにして存在していた、目の前の廃棄物の弱点。
ブレスの口内爆発で砕けてほしかったが、大事な部分だからこそ内外共に守っていたのだろう。
だからこそ、もう一度…
ドズムゥッツ!!
【--------ァ!!】
勢いよく地面に頭を叩きつけなおし、ぐしゃりと後頭部の魔石が砕け散った音を耳にして、コボルドーンの肉体が塵と化していく。
「…心配する意味はなかったけど、えげつないな」
”頭が地面に完全にめり込まされていたな”
”恐ろしいメイドだ…でもなぜだろう、興奮する”
”おい、変な扉を開きかけたやつがいるぞ”
ちらっと見れば、大事なご主人様の声に、少しばかり見えているコメントの数々。
このぐらいは脅威でもなんでもないので、そこまで不安にさせる気もなかったのだが…まぁ、別に良いだろう。
「それよりも…こちらですね」
視線から感じ取れる、移動している気配。
彼らは逃げようと思っているのだろうか?この力を見て、ろくに情報も取れなかったのもあるが、逃げたほうが良いだろうと判断して。
ああ、逃げるという判断は間違っていないだろう。
そこは良いとは思うのだが、それでもあと少し早ければ…違う、最初からこんなことをしなければ、良かったのにと思う。
ガションッ
「え?エリーゼ、もう相手はいないのに、何で腕を変形させて…」
【ええ、ご主人様。確かにもう、あのコボルドーンはいないでしょウ。ですが、彼らを仕向けた者たちが、そこにいるので…捕縛しますネ】
ボンッツ!!
打ち出したのは、非殺傷性の捕縛弾。
非殺傷性と言っても…
バチバチバチィイイイ!!
「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」
【…スタンネット、綺麗に捕えましたね】
軽めのスタンガン機能で、抵抗も奪う仕掛け付きではある。
ひとまずは、これでご主人様に対して害をなしそうな輩を潰すか、あるいはコメントでちょくちょく見る暗殺者ギルドに手を付けてみるか…取れる手段は色々ありそうなのだ…
脅威はすぐに取り除かれた
さて、後はタノシイタノシイ尋問タイム…ヤルヨネ?
「ちょっと怖い感じに言ってない?」と疑問を投げかけられつつも、
次回に続く!!
…ブレス直前で防いで自爆させるのは、王道…かな?