第5話「“プリ☆チェン”は命懸け!~女児のドレスアップは異世界を救う~」
――旅のはじまりは、朝露に濡れた草原だった。
空は高く、雲は薄く、風はやわらかく。
「なぁ、歩くならそろそろ靴を履き替えた方がいい。どう見てもその“サンダル”は戦闘向きじゃない」
「これはね、サンダルじゃなくて『おしゃれスリッポン』って言うの。瞬足より速いってうたい文句だったんだから、なめないで?」
「しゅんそく……?」
勇者・ゼフィルはまた一つ知らない言葉に頭を抱える。
さっきから、会話の五割くらいが通じていない。
そりゃそうだ。私は平成の記憶をそのまま引きずって転生してきたんだから。
「まあ、正直この靴でモンスターと戦えって言われたら無理だけど……」
私はランドセルの中をごそごそと探る。
そして見つけたのは、薄いピンク色のコンパクトミラー型おもちゃ。
正確には、「プリ☆チェン!ミラクルチェンジ♡ミラー」。
――懐かしい。たしか小三のとき、誕生日におばあちゃんが買ってくれたやつ。
「何か……神具の反応を感じる」
「これは多分、変身アイテム……だったはず」
ボタンを押すと、ミラーが光った。いや、めちゃくちゃ光った。
まぶしくて直視できないレベルである。
《プリ☆チェン、はじまるよっ♡》
「やばい、音声付きだったわ!!」
全身が光に包まれ、ふわりと浮かぶ。
次の瞬間、ドレスが身体にまとわりつき、リボンが宙に舞い、キラキラした演出と共に変身が完了した。
――目の前には、まごうことなき“魔法少女風ドレス”姿の私がいた。
「えっ、なにこれ……クオリティやばっ!」
ピンクを基調にしたフリルとレースの洪水、ウエストには星型のリボン、靴はハイヒール(でも安定してる)。
ランドセルまでドレス仕様に進化してる。
「……神降ろし、か……」
ゼフィルが神妙な顔で呟く。
違う。これはただの平成女児の夢の結晶である。
けど、今の私にはこの“姿”が必要だった。
「この世界、たぶん強くなきゃ生きていけない。だから……私は、平成の女児魂で戦う」
「……貴女、やはり只者ではないな」
「いやだから、ただの女児だったってば!!」
だけど、冗談で済まされないのは、目の前に本物の魔獣が現れたその時だった。
森の奥から現れたのは、黒い体毛に赤い目をした狼型の魔獣。
明らかに、狩る気まんまんでこちらを睨んでいる。
「くっ……いきなり実戦か……!」
「だ、大丈夫かなこれ……」
手元のステッキ(ごほうびシールが貼ってある)を握りしめる。
そして、ふとミラーから声がする。
《がんばって! おともだちと一緒なら、きっと大丈夫♡》
「……そうだった。“ひとりじゃない”のが女児の強さなんだ」
ゼフィルが剣を構える。
私がステッキを振る。
今、この草原で――平成と異世界の価値観が、交差する。
「ステッキ・カラフルバーストぉおおおお!!」
放たれた光が、狼を貫く。
キラキラしてて可愛いのに、めちゃくちゃ威力がある。
魔獣は一瞬で吹き飛び、草原には静けさが戻った。
「……勝った……のか?」
「……これが、プリ☆チェンの力だよ……」
私はスカートの裾を直しながら、肩で息をしていた。
確信した。この“神具”はただの思い出じゃない。
ちゃんと、戦える。
「よし。行こうか、ゼフィル。まだまだランドセルには夢と希望が詰まってるんだから」
「……了解だ、“真なる魔女”よ」
そうして、私たちの旅は本格的に始まった。
次回:「おままごとセットで村を救え!?~女児のリアル再現力が試される~」
平成女児の“ごっこ遊び”が、異世界の貧困を救う!?