第14話「平成、街に立つ!~初依頼はリンゴと追跡者~」
「というわけで、エル=フェリアの街に来ましたァ!!」
両手を広げて宣言するリナの横で、私はひっそりと深呼吸した。
空気が少し甘い。パン屋の香りと、遠くで焼かれている肉の匂い。街の音は活気に満ちていた。
「ほんとに……異世界だなぁ」
「ほら見てこの看板! “ドラゴンの背中に夢を乗せて☆ 冒険者ギルド エル支部”! こういうセンス大好き!」
「むしろ不安しかないんだけど……」
ゼフィルは変わらず無表情で、しかし周囲に警戒を払っている。
「街中でも油断するな。特に“冒険者狩り”がいる今は」
私たちはギルドに登録し、最初の依頼として、郊外の果樹園から街の市場への“荷物運搬”を任された。
内容は単純、ただし──
「これ絶対、中に人入ってるレベルで重い!!」
「平成の女児にさせる仕事じゃない……!」
リナと私が悲鳴を上げていると、突然、後ろから声が飛んできた。
「お嬢さん方、それ、手伝おうか?」
振り返ると、そこにいたのは──
金髪で、ちょっとチャラそうな雰囲気の少年。片目に眼帯、肩には剣、腰には魔導石を下げている。
「……誰?」
「あぁ、名乗ってなかったな。オレはレオ=ヴァルシュタイン。元貴族、現・気まぐれ自由人ってとこだ」
「元……貴族?」
「まぁ、今はただの荷物屋だよ。運ぶの得意なんだ、こう見えて」
そう言って、リナの持っていた木箱をひょいっと持ち上げる。全く重そうな素振りを見せない。
「……イケメン……? いやいや、こういうのには裏があるって相場が決まってる!!」
「うっわ警戒心つよ……」
「信用できないっての! こういうキザで軽そうなのが、後から裏切ったりするんだって!」
レオは困ったように笑った。
「いや、でも手伝わせてよ。報酬の半分でいいから」
「半分も取る気か!!」
「じゃあ三分の一!」
「そういう問題じゃないわ!!」
コントみたいなやり取りをしているうちに、なんだか空気が和んできた。
結局、レオの力も借りて荷物は無事に運搬成功。
ギルドからの報酬をもらい、ちょっとした達成感に包まれる私たち。
が、その帰り道──
「……っ、つけられてる」
ゼフィルが小声で言った。
私たちの背後、数メートルの距離に、黒いフードをかぶった人物の姿が。
「来やがったか、“冒険者狩り”ってやつ……!」
剣を抜くゼフィル。構える私たち。
だがそのとき、横からレオがすっと前に出た。
「へぇ、まさか今日が“あんたら”の出番になるとはね……」
さっきまでの軽い雰囲気が一変し、彼の目が鋭く光る。
「いいか、女児ども。下がってろ。ここからは“男の仕事”だ」