第10話「ギャルは火を囲んで語りたい。~仲間ってなによ?~」
夜の森は、昼とはまるで違う顔をしていた。
冷たい空気が葉のすき間から降りてきて、焚き火の明かりがかすかに揺れている。
私たちは、森の中の開けた場所に小さな野営地を作っていた。
地面に敷いたマットの上で、私はあぐらをかいて座り、リナは真横で、まるで渋谷のカフェにでもいるかのような余裕の姿勢でスマホをいじっている。
ゼフィルは焚き火の向こう側、黙って星を見ていた。
「ねぇ」
リナがふいに口を開く。指先で画面をスライドしながら、私の方も見ないで言う。
「アンタらさ、本気で“仲間”とか思ってんの? この状況で?」
焚き火がパチッと小さく爆ぜた。
私は少しだけ考えて、それから笑った。
「思ってるよ。だって、リナがここにいて、今こうして話してるじゃん。理由、いる?」
リナはようやくスマホから目を離して、私を見た。
彼女の目は、想像よりずっと真剣だった。
「……そういうの、ズルいわ。ちょっとグッときたじゃん」
「ふふ、でしょ?」
「でもさ」
リナは今度は星空を見上げて、ぽつりとこぼした。
「こっちの世界来てから、まだ全然寝れてないの。スマホも充電できないし、カラオケもないし……。あたし、平成じゃないと生きられないかと思ったよ」
「平成、ね」
私は筆箱をそっと撫でた。
「私も、最初は怖かった。何もかもわからないし、言葉も通じないし。でも、“懐かしいもの”って不思議と、武器になるんだよね」
「うちら、平成の亡霊ってこと?」
「それ、かっこよくない?」
2人でくすくす笑った。
ゼフィルが焚き火越しに、ゆっくり言う。
「……くだらない話に見えて、すごく大事な話をしているように聞こえるな」
「そうなのよ、ゼフィル。あんたも平成に染まっていきなさい」
リナはそう言ってウインクした。
焚き火の炎が、ほんの少し高くなった気がした。
その夜、私たちはようやく「パーティー」として、ひとつの輪になった。