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無茶振りゲーム  作者: 水乃戸あみ
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第六話 面白い話。

「面白い話をして下さい」


 よし。殺そう。


「吉川さんどうする? 先週の横溝に因んで見立て殺人なんてどうかな? 個人的には魔女の暦がオススメだよ? 特に最後の殺人なんかがいいよ?」

「? なんのことですか? あ。もう始まってるんですか?」

「桜子あんた絶対横溝作品殆ど既読済みでしょ……。魔女の暦って。わたしだってまだ読んでないのに」

 復刊祭りなんだってね! そんなことより。

「吉川さん? 面白い話って……? なんか、違くない? 無茶振りゲームってもっとこう」

「私、学んだんです」

 冷や汗たらたらなあたしを遮って吉川さんは言った。その瞳には深い思慮と少しばかりの後悔が感じられるが、吉川さんのことだし、どうせ昨日考えたことを今日やってみたかったとかそんくらいのテンションに違いない。あたしには分かる。

「私たちは余計なことをし過ぎていました。原点回帰……いえ、それどころか、もっとシンプルにいくべきではないでしょうか? 素人は、とかく目の前の物事を複雑にすること、それだけで何かを成し遂げた気になって満足するきらいがあります。大事なのはただ一点。面白いかどうか。そうでしょう? 技術なんて磨いてなんになりましょう? ……他人の褌で相撲を取ることがいけないとは申しませんけれど……、客弄り、お題先取りによる文意変更、前任者の話を引き継ぎ世界観を発展させる、パロディ、その他最近学んだアレやコレ。技術よりも先にもっと磨くべきことがあるのではないでしょうか? ええ、ええ、きっとあるはずです。ええ」

 挙げたものの大半、吉川さんが率先してやったことだけどね。

「ある意味これ以上ない無茶振りだけど」

 そんな前置きをしてから雨梨が訝しむ。

 もち吉川さんのポジションを。

 それを自ら言ってきたってことは……。

「ええ」

 机に両の肘をつき『如何にも』ってな雰囲気を吉川さんは先程から作り出している。

「今回、私はけんに徹しようかと」

「けん?」

 口語だと意味を判じかねたので問い返した。吉川さんはそれが当たり前の如く頷く。

「つまりは様子見です」

「死ね」

 シンプルな罵倒が横から聞こえてきた。




『無茶振りゲーム』

 開催日程。毎週水曜放課後五時付近(今のとこ)。

《戦績》

 桜子△××○

 吉川△○××


「むふー」

「満足そうだね」

「昇天しそう」

「そう」

 水曜放課後十七時前。教室の後ろ側の扉から廊下へと出る。玄関へは向かわずに、自販機方面へと向かう。この往復五分ばかりの短い道のり、その一歩一歩があたしの心を高揚させているということを、あたしは今になって知る。ルーティンとはかくも恐ろしいものである。意識していない場所にこそ、重大な意味が潜んでいるのである。

 先週から一週間後の今日。あたしは一週間経ってもその結果に満足していた。心が幸せに満ちていた。満ち足りていたと言っていい。オリンピック金メダリスト、M-1グランプリ王者ってこんな気分なのかなとふと思う。頂点を極めて一時的に目標を見失っている感覚。ああ、あたしも遂にその高みへと至れたんだと思えば感慨深いものがある。想えば、ここまで幾つもの戦いを潜り抜けてきた。ハードルを掻い潜ってきた。くだらないと何と言われようと繰り返し行っていればそれに対し愛着やプライドが湧くというもの。周囲の見る目も変わってくるというもの。

 が。


 レジェンド

 卯衣雨梨


 引っかかる。引っかからないって言えば嘘になる。横で呑気に欠伸かいてるこいつの寝首を掻いてあたしが勝利して始めて、頂点を極めたと言えるのではないだろうか? 未だ雨梨に対する目と、あたし、おまけで吉川さんに対する目が違うのはどういうことだろう? 敬いってものが感じられない。敬いは言い過ぎにしても、教室居残り組の、「今日は雨梨やんないのかな~」「またあのふたりか」みたいな空気感は何だ。もっとこう、期待に満ちた目を向けろ。王者だぞ? あたしは。

 あたしが深い思慮を巡らせていると、雨梨が言った。

「寝首掻いて勝利も何もないでしょ。ハードルは掻い潜っちゃダメでしょ。M-1グランプリよりはR-1グランプリじゃない? ていうかあんた戦績的に今吉川ちゃんと同点だし頂点も何もないでしょ。ふわぁ」

 忙しいツッコミをして、何度目になるかわからない欠伸をして、雨梨はリプトンのレモンティーをがっこんと出した。あたしは牛乳をチョイスしてがっこん。

 ふむ。どうやらあたしの深い思慮は口から漏れていたらしい。漏れ出ていたらしい。溢れんばかりのあたしの深い思慮。それはどうやらあたしの内に秘めている大きな器でも収まりきらなかったみたいだ。あたしの言葉はあたしを超えてしまうのだった。

「桜子、昔っから自分客観視できないよね」

「いやまあ、全体的に冗談なんだけどね?」

 あたしは思考を言葉にするという心底しょうもない遊びを止めた。雨梨の目が痛々しかったからだ。辛い。

「よくそんなしょうもない浅い思考延々垂れ流せるよね」

「冗談だっつってんだろ。いやね? あたしさあ。なーんか、今日嫌な予感がするんだよね。んで朝からそわそわしちゃって」

「そわそわしちゃって変な遊びするってそんな小学生みたいな。吉川ちゃんでしょ?」

 呆れるように言葉を吐いた後、雨梨は瞳を細めた。瞳の先にはこれから練習に繰り出そうと準備しているサッカー部が大量に。

 あたしは同意するように頷く。

「ぜったいアレ、またしょうもないこと考えてるよ」

 そんな顔をしているのだ。

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