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無茶振りゲーム  作者: 水乃戸あみ
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第五話 探しもの。2

 心の中で解説してたら、吉川さんのお話が始まっていた。始まっていた……が。

「……常磐線?」

 常磐線って、あの、やたらに長い?

「常磐線って言えば、品川駅から仙台駅までの?」

 雨梨が質問していた。なんでも知っとるな、お主は。あたしら田舎民には縁もない路線だろうに。

「……はい。その常磐線です」

 答えるまでに妙な間を作った後、吉川さんは答えた。訝しみながらも雨梨は質問を重ねる。

「脇って?」

「文字通り線路脇です。そこにバラ撒かれていたんです。品川から仙台までもうずうっと歩き通しで。小さな破片のを見つけるためにえっちらおっちらと……。草むらの陰や道路脇なんかにも風で飛ばされていましたね。全部じゃあありませんが、やれるだけはやりました。これでもう事件解決の見通しは立ちましたね。今、テレビやネットを騒がせている奴。奴が本星です」

 机に両肘を付いて顎を乗せギラギラした瞳を向けられた。先週の一課刑事を彷彿とさせる態度だ。

 ……?

 態度はともかく、なんか既視感のある話だな。どっかで聞いたことのある気がするんだけれど……。

 それは雨梨も同じだったみたいでただひたすらに眉間に皺を寄せて考え込んでいた。最早定番となったキーパーの怒鳴り声とぱぇぱぇぷぉぷぉ音が知らず互いに呼応し合う中、雨梨が先にハッと気付く。

「もしかして、砂の器?」

 あ。あ。あ~……。

 既視感の正体はそれだったかあ。どっかで聞いたのことのあると思ったら。しっかし……吉川さん、それは悪手では。そういえば彼女、警察官志望だったな。

『砂の器』

 松本清張が書いた警察小説である。社会派小説とも言われているが、個人的には警察小説って言われる方がしっくりくる。主人公の刑事が泥臭い捜査をずっと地道に続ける警察小説。

 原作は六十年代に書かれたが、七十年代に公開された映画の方が有名か。けっこう原作と映画でがらりと趣きが違う。映画の高評価&大ヒットもあって、以降清張の死後も度々映像化されている。

 時代を経て――というところだけ見れば、夢の中へに通ずる……か?

 既存の作品に、既存の作品を重ね合わせる、ねえ。

 七十年代で合わせてきたんだろうか? あたしが悪手と思った点としては、パロディって伝わらなければおもんないよ? って点。

 この前ので変に影響受けたか? 狸合戦の史実絡ませは悪魔でもお題ありきだったし、アシモフ絡ませに関しちゃほぼ偶然だろうに……。それを自らやりにいくとは。

 小説内映画内で、バラ撒かれたモノを主人公が探す有名なシーンがあるのだが……、吉川さんはそれを示しているのだろう。

 雨梨とあたしが知っていたから良かったものの、そうじゃなければどうする気だったのか。そのまま話を続けるつもりだったのか?

 ううん。ここは敢えてあたしは黙っていようか。知らない体でいこう。

 吉川さん? 知らない人でも楽しませきゃダメなんだよ?

 雨梨に一旦目配せし、あたしが質問することにする。

「あたし、それ知らないんだけど」

「え」

「えて」

「知らないんですか? あんなに有名なのに? 名作なのに見てないんですか?」

 わなわなと、信じられない者を見る目で見られた。最近見たんかな。もしかして。

「うん」

 本当は映画も小説もドラマも観とるけど。

 吉川さんは考えるように少し俯いた後、口を開く。

「害者が殺されたのは二ヶ月前の午前未明です。これも線路脇で発見されたんですが」

「ちょいストップ!」

 なんか語り始めたので慌ててストップする。

「それ。あたし聞いていいやつ? がっつりネタバレしない?」

「あう」

 どうやら本当にただ砂の器になぞらえるつもりだけだっただけらしい。

 この時点で分かる。今回の話、失敗だったなと。知っている人にしか伝わらないパロディなんて知らない人から見ればつまらないだけである。映画かドラマのラストシーンのモノマネでもして締めるつもりなんだろうか。それにしたって、伝わらなければ、吉川ちゃんがお話を進められなければどうにもならない。

 このまま続けてもアレか。より微妙な空気になるだけか。ならばさっさとストップ掛けてあたしが行った方がいいか。

 そう思い、あたしが口を開きかけたそのとき、


「ていうかさ? 砂の器って常磐線じゃなくって中央線じゃなかったっけ?」

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