私と魔法と秘密の世界
第一章
夏休みに入ったにも関わらず、私にはどこかに遊びに行く予定はなかった。
普段から友達付き合いも薄く、大学外で話す友人がいなかったからだ。
夜、お風呂に入る時に入浴剤の入ったボトルを持つと軽かった。
中を覗いて見ると、ほぼ中身は残っていなかった。
『明日、買わなきゃ…』
呟きがお風呂の湯気に包まれて消えてしまうと、どこか空しい気持ちだけが残った。
一人暮らしを始めたばかりだからだろうか。
翌朝、目覚めたのはお昼過ぎだった。
私は急いで飛び起きた。
だけど、夏休休み中だったことに気付き、もう一度布団の中に潜った。
カァー、カァーと鳴くカラスの鳴き声で目が覚める。
窓の外を見ると夕方になっていた。
『あ、入浴剤…』
急いで身支度を済ませ、家を出た。
お風呂に入浴剤を入れることは、私が実家暮らしをしている時からの日課だった。
最近の入浴剤の発展は目まぐるしい。
チョコレート風呂、カレー風呂、だし汁の湯…など、色々と変わり種がある。
私は今まで冒険して、色々なお風呂に入ってきた。
もちろん、今までのお風呂も毎回新しい発見があって楽しかったけど…だけど、もっと新しい心躍る何かに出会いたいと考えていた。
しばらく歩くと、[入浴旅行やってます!]と書かれた看板が見えた。
『こんな所にお店なんてあったっけ…?』
しばらく看板を眺めていると、お店の中から細身で長身の男性が顔を出した。
芸能人かと思うほど、人間離れした整った顔立ちだった。
『寄って行きませんか?』
そんなキラキラした笑顔で見つめられたら、本来の目的を忘れてしまいそうになる。
『これから入浴剤を買いに行くので、また今度にします』
私は誘惑を振り切って、その店を通り過ぎようとした。
『入浴剤、売ってますよ。私のお店では入浴剤を買って、そのままお風呂を楽しめるサービスを行ってます』
彼は笑顔で手招きをする。
私は気になったので、入ってみることにした。
お店の中に入ると温泉のような香りがあたり一面に漂っていた。
壁に備え付けられた棚には入浴剤が入っている小さな小瓶が置かれている。
その小瓶に奇妙な文章が書いてあったので、顔を近づけた。
[入浴旅行シリーズ]
宇宙旅行編ー瞬く星があなたのすぐ傍まで
〜使い方〜
1、お風呂にお湯をはる。
2、お風呂に浸かってから、入浴剤を入れ
る。(注意:決して、お湯に浸かる前に入浴剤を入れないこと。)
『入浴…旅行…?』
『お客様のお望みの入浴旅行をご提案致します』
気が付くと、隣に先程の店員さんが立っていた。
望みって言われても…。私は少し考え込んだ。
『おすすめはありますか』
考えても、何も思い付かなかったのだ。
だったら、店員さんにおすすめを聞いた方が良いだろうと思った。
『そうですね…では、こちらはいかがでしょうか』
店員さんは一瞬考え込む素振りをし、近くの棚から虹色のきらきらとした粉が入った小瓶を取り出した。
『これは[魔法のスカイツアー編]です。今、 女性に最も人気の商品です。効果は30分 続きます。値段は2,000円と少し高め ですが、いかが致しましょうか』
『買います!』
即答だった。
値段は少し張るけど、新しい入浴剤に出会えた嬉しさからか、そこはあまり気にならなかった。
私はお財布からお金を取り出すと、店員さんに渡した。
『では、こちらをお使い下さい』
タオルとアメニティが入ったバッグを渡された。
『こちらの扉を開けますと、中が個室のお風呂になっております。鍵に書かれた番号の部屋をお使い下さい。瓶に書かれた注意事項を必ず、お読み下さい』
私はお礼を言って、奥に続く扉を開けた。
部屋は向かい合わせになっており、合計30個程あった。私は鍵に書かれた番号の部屋まで行き、扉を開けた。
中は白を基調としたシンプルな部屋だった。 左手には一人がけのソファとテーブルが置いてあり、右手には[ゆ]と書かれたお風呂ののれんがかかっていた。
本格的な銭湯みたいだと思った。
私は服を脱ぎ、小瓶を片手にお風呂に足を踏み入れた。
青と水色の可愛いタイル貼りのお風呂だ。 壁には富士山ではなく、緑色の大きな山が描かれている。
どこの山なんだろうか。
体を洗い、湯船に浸かった。
そして、小瓶に書かれた注意事項を読んだ。
『決して、お湯に浸かる前に入浴剤を入れないこと…よし、大丈夫だ』
蓋を開け、中身をお湯に入れるとお湯がきらきらと輝き始めた。
すると、白っぽいピンクっぽい雲が周りにもくもく現れた。
雲に気を取られて気が付かなかったが、先程いたお風呂場と場所が変わっていた。
なんと、湯船がぷかぷかとピンク色の空の中を浮いていたのだ。
身を乗り出して下を見てみると、見た事がない建物が建っていた。
『あれ、ここ日本じゃない…まるでお伽話の世界に来たみたい』
顔の近くを通る雲から甘い匂いがしたので、口に含んでみた。
『甘い…もしかして、空にある星や月も食べれるのかな』
近くにある星を手に取って、食べてみた。
『美味しい…』
ホワイトチョコの味がした。その後、近くを通った星や雲、月に次々にかじりついた。後ろを振り返ると私がかじった雲や月、星などにかじり跡が残っていた。
『もしかして、次にこの空間に来る人と共用なんてこと…ないよね…?』
いや、いや、もう食べちゃったんだもん。 今更、そんな事考えてもしょうがない!
もう忘れて、楽しもう!
こんな体験がこの価格で出来るなんて…2.000円以上払ってもいい。
店員さんにこの入浴剤を勧められた時は半信半疑だったけど、この魔法のような空間にそんな思いはかき消された。
効果が切れ、元の場所に戻った。
夢見心地だ。
お風呂から上がり、アメニティセットに付いているパックをし、部屋を出た。
お肌もつるつるで、来たときと、雲泥の差だ。
先程の店員さんがいた場所に戻ると他のお客さんの相手をしていた。
『では、こちらの入浴剤セット、お包みさせて頂きます。』
手際良く、袋に詰めるとお客さんに手渡した。
『またのお越しをお待ちしております。』
店員さんが頭を下げると、お客さんは片手を上げてお店を出て行った。
店員さんは私の方を振り向いた。
『お待たせ致しました。お風呂の方、いかがでしたか。』
『すごく、良かったです。入浴剤、買っても行けるんですね』
『えぇ、でも、入浴旅行は当店でしか体験出来ません。危険が付き物ですので。』
『危険って…』
『入浴剤を誤って、湯船に浸かる前に入れてしまった場合、空に投げ出されてしまったり、家の湯船から落下してしまった場合、私が助けに行くことが不可能ですから』
店員さんは妖しげに微笑む。
『じゃあ、買っていけるのは普通の入浴剤ってことですか。』
『普通でもないです。例えば、こちらの入浴剤。湯船に入れると桜の花が降ってきます。先程の方が購入されたのは春夏秋冬シリーズ。お風呂で簡単に四季を感じられることが出来ます。』
『これ、買って行きます!』
『ありがとうございます。暫くお待ち下さい。』
私は包んでもらっている間に店内を見て回ることにした。
なんで、こんないいお店があることに今まで気が付かなかったんだろう。
次はいつ来ようかな。
『お待たせ致しました。』
袋を覗くと、数が一つ多いことに気付く。
『こちらはお客様へのサービスです。』
店員さんは秘密ですよと言う様に人差し指を口に当てた。
私はこのポーズにぐらっとした。
あれ?私って案外、簡単なタイプ?
外に出ると夜空の星が煌々と輝いていた。 星ってこんなに綺麗だっけ?
今日は新しい入浴剤も体験出来たし、星もこんなに綺麗に見えるし、いい一日だったなぁ。
たまには、誘惑に負けるのも悪くない。
次の日の夜、早速昨日購入した入浴剤の封を開けてみる。
私は袋に入った説明書に目を通す。
[春夏秋冬シリーズ〜春の香り〜]
1,お風呂に入浴剤を入れる。
(使用者はお湯に浸かっていても、いなく てもどちらでも可。)
『あれ、これだけ?』
思ってたより、簡単だ。
私は先にお湯に浸かることにした。
そして、桜の形をした入浴剤をお湯に浮かべた。
すると、ピンク色の霧が発生し、桜の花びらが降ってきた。
場所は昨日使った入浴剤のように変わりはしないようだ。
桜のいい香りがする。
匂いまで再現出来るとは…ひらひらと舞い落ちる花びらはお湯に触れると炭酸のようにシュワッと軽やかな音を立て消える。
消えていく花びらを見つめていると、どこか儚さを感じる。
そういえば、小学生の頃、誕生日にソープフラワーをもらったなぁ。
あの頃の私はお風呂に花を浮かべるってどこかの国のお姫様がやることだと思っていたから、すごくわくわくしていたはずた。
今感じているわくわく感はあの頃に似ている気がする。
明日はどの季節にしようかな。
『あれ?本日もお越しくださったんですね。お使いの入浴剤に不備でもありました か』
店員さんは眉毛を下げ、申し訳なさそうな表情する。
『いえ、いえ。そう言う訳じゃないんで す』
私は慌てて顔の前で手を振る。
『では…私に会いに来てくれたとか?』
妖艶な笑みを浮かべ、私の手を取った。
『えっ』
『ツバキ、お客さんが困ってるぞ』
突然、他の人の声が聞こえ、当たりを見回す。だが、そこには私と店員さんしか居ない。
『ここだよ、ここ。下にいる』
言われた通り下を見ると、黒猫が1匹床に座っていた。
『お客様が居る時は、出て来ては駄目だろ う。セダム』
『ツバキがお客さんのこと困らせてたから、助けに来ただけだ』
『困らせたつもりは…』
『あ、あの!』
少し大きめの声で話しかけると、店員さんとネコは話すのを止め、こちらを振り返った。
『そのネコ、話せるんですか?』
店員さんは私とネコを見比べて、盛大にため息をついた。
『俺が説明するよ。ツバキは店を閉めてきてくれ』
『あぁ』
ツバキと呼ばれた店員さんは返事にもならない返事をし、店の外に出て行った。
『俺はセダム。君の名前は?』
『私は、四宮茉莉。』
セダムは私の周りを一周すると、驚くべき言葉を発した。
『先に言っておくと、俺とツバキは人間界の住民じゃないんだ。僕たちはガーデン・ベールという世界から来たんだ』
『ガーデン…ベール?』
『そう。簡単に言えば、魔法使いたちの住処ってところだな。』
『じゃあ、ツバキさんはその…ガーデン・ベールと言う世界に住んでいる魔法使いってこと?』
『そうですよ。まあ、最近は専ら、向こうに商品を取りに行くだけで、住まいはこちらに移していますが』
ツバキさんが音も立てずに、横に現れたのでびっくりして棚にぶつかりそうになる。
ツバキさんは咄嗟に手を伸ばして、助けてくれた。
『お礼にツバキさんじゃなくて、ツバキって呼んで下さいますか?』
『そ、それは…』
私は困って、視線を彷徨わせる。
『まぁ、それはおいおいでいいでしょう』
ふふふと微笑むツバキさんは天使の仮面を被った悪魔だった。
『それより、どうするんだ?俺らの正体バレっちゃったじゃん』
元はと言えば、セダムが私の前で話したことが原因だと思うけど、ツバキさんに責任転嫁しようとしてるみたいだ。
『行ってみます?私達の世界に』
『え?連れて行って貰えるんですか?』
『えぇ、特別ですよ。あなたは私たちの住む世界に通ずるものをお持ちみたいですしね』
ツバキさんはウインクをする。
え?待って、今、この世界に通ずるものを持ってるって言った?
今だけは、私をドキドキさせるツバキさんの所作スルーだ。
ツバキさんの方を見たが、『向こうの世界へ行けば分かりますよ』と言われ、その話は終わってしまった。
第二章
冷たい空気がまとわりつく様に漂っている。ここは地下室。私達の前にはアイアン製の重厚な扉が佇んでいる。
『この先に私たちの故郷、ガーデン・ベールがあります。人間界にはこの場所以外にも数カ所、テレポート施設があります。ガーデン・ベールの住民が人間界に行くことは簡単です。最近では気軽に旅行する方も増えています。ですが、普通の人がガーデン・ベールに行くのはほぼ不可能なんです。私たちの国に何かルーツがあるか、または…ガーデン・ベールの住民に知り合いがいるとか…まぁ、そんな方は中々いらっしゃいませんけど』
へぇ、そうなんだ。
じゃあ、私の身の周りにもツバキさんたちの世界の住民がいるかもしれないってことかぁ。
『周りの人にはあまり、こちらの世界の話はしない方がいいですよ』
『不審者扱いされるか、病院を勧められるか だな』
考えてた事が顔に出ていただろうか。て言うか、流石に私もほんとに聞いたりしないもん!
セダムが扉に魔法陣を書き込み、手をかざすと私たちの体はあっという間に光に包み込まれた。次に目を開けた時には、ハーブの庭が広がっていた。後ろをふりむくと、あの重厚感のある扉は蔓が巻き付き固く閉ざされていた。
『この庭を抜けて、少し歩けば検問所があ る』
セダムの方を見ると、見た目がさっきと変わっていて、口をあんぐりと開ける。
先程の黒猫の姿と打って変わり、金色の髪を風になびかせ、どこかの国の王子様かと思わせる服装になっていた。
『びっくりしたか?人間界では目立たないように黒猫の姿で過ごしているんだ。まぁ、俺はこっちの世界にいることが多いから、特段不便に感じることはないけどな』
ツバキさんの方を見たが、姿が変わったりはしていなかった。
『僕は人間界でも、こちらの世界でも姿は変えていませんよ。マリさんのお好みの姿があれば、変身しますがね』
『い、いえ、そのままの方がいいです』
『おや?私の姿を気に入って頂けたということですね。嬉しいですね』
私はぽっと顔を赤くする。
『ツバキ、早く行こう。もうお腹空いたよ』
助かったよ、セダム。ありがとう。
心の中で感謝する。
セダムはこちらに気付いていないかのように歩き出した。
検問所に着くとすぐ、私達は個室に通された。
ガーデン・ベールに入るためのパスポートが必要らしい。
ここの施設の職員だというエルフのゼラニウムさんに書類を渡された。
書き終わる頃にまた、こちらに戻ってくると言い残し、慌ただしく部屋をあとにした。
『名前の欄はせっかくですから、こちらの言 葉にしませんか?私達の国の住民の名前は 全て植物の名前なんですよ』
『因みに俺のセダムって名前は万年草または、 ベンケイソウと呼ばれている逞しくて強い 植物が由来なんだ。花言葉には星の輝きっ ていうのがあるんだ。俺にぴったりだろ?』
うん。うん。確かに。
『でも、セダムって言う植物はお世話が簡単なので、放置されがちなんです。そこで、私を想って下さいという花言葉が生まれたという話もあります。結構、寂しがり屋な植物ですよね。』
『人がせっかく、カッコつけたって言うのに台無しにするなよー』
『おっと、これは失礼』
ツバキさんは悪びれる様子もなく、いつも通りの笑顔だ。
『で、ツバキは…』
『私の名前の由来はまた、今度でいいでしょ う。それより、マリさんってお名前、漢字で どう書くんですか?[#「?」は縦中横]』
私は鞄からメモ帳を取り出し、[茉莉]と記した。
『なるほど。では、ジャスミンはいかがです か?ジャスミンを日本語に直すと、茉莉花 と言いますよね。』
『ジャスミンの花言葉に柔和や温順、愛らしさがあるし。ぴったりだな』
『…ジャスミンにします』
セダムが言った花言葉には少し照れる。
けど、自分の名前が二人の名前のように植物の名前に由来していたのは嬉しかった。
その後、ゼラニウムさんが頃合いを見計らっていたかの様な丁度いいタイミングで部屋に入って来た。
『ジャスミンさんですね。人間界の住民の方がこちらにいらっしゃるのはいつぶりでしょうかね。では、証明写真を撮るので、こちらを向いて下さい』
写真というワードに少し緊張する。
撮り終わった写真を見て、顔が引き攣っていない事にほっとする。
今まで、学生証の写真を撮るにも何回も撮り直す目羽目にあったから心配だったのだ。
『この辺りにおすすめのカフェはあります か?実はお腹が空いてきたところなんです』
時計を見ると、午後1時を回っていた。
む、確かに私もお腹空いて来たかも。
『あぁ、それなら、ここを少し行った所に新しいお店が出来たんですよ。私はまだ、行ったことはないのですが、すごく人気なのですよ。この時間なら、少し空いていると思いますよ』
『なるほど。ありがとうございます。今から行ってみることにします』
私たちはお礼を言って、その場を後にした。
『スムーズに通過出来て良かったですね。人間界の住民の方は普段ならもう少し、手続きに時間がかかるはずなんですが…』
『そうなんですか?』
『まぁ、いいじゃないか。早く通れるに越したことはないんだし。お、あれじゃないか ?』
セダムが指を指す方向を見ると、透明なドーム型のテントが何個も並んでいた。
『しばらく、こちらに戻らなかった間にこん な物が出来ていたとは、驚きですね』
『わぁ、すごくおしゃれですね。太陽の光が 反射して、綺麗ですね』
『でも、あんなに太陽光が当たってたら、中 の温度はめっちゃ暑いんじゃないのか』
『ご安心ください!こちらのガーデンドーム 内には温度調節魔法を施してありますので、 どんなに日が照ろうとも、外が猛吹雪でも 中に入ればなんのその!』
メイド服を着たウエイトレスさんらしき人が近付いて来た。
『そうなんですね。それは大変ありがたいで す。お席は空いていますか?』
『はい!ご案内致します』
ハキハキとしていて、とても元気がいいウエイトレスさんに思わず笑みが溢れる。
『あのウエイトレス、応援団に入れるぐらい の声量だな』
ぼそっと、セダムがつぶやいた。
ふふふ、確かに。
案内されたガーデンドーム内には白を基調としたソファやテーブルが置かれていた。
端には小さな噴水があり、流れる水に太陽の光が当たり、キラキラと輝いて見える。ここはまるで、宮殿のお庭のようだ。この間、読んだ漫画の中のお姫様もこんなお庭で、優雅にお茶会をしていた。
『このカフェはこの国の王女様が監修したらしいですよ。先程、入り口にその様に書かれているのを拝見しました』
『へぇー。王女様ってどんな感じの方なんですか?』
『お名前はプルメリア様。金色に輝く長い髪に、宝石の様な青い瞳、顔はお誕生日パレードの時に見たけど、とにかく美人だった』
そんなに綺麗な方なんだぁ。
会ってみたいなぁ。
『お会い出来ないこともないですよ。私の家 は代々続く入浴剤専門店なんですけど、顧 客に王女様もいらっしゃいますし』
『本当ですか?』
『でも、買いに来るのは大体、執事かメイドだろ?』
『それが、つい先日、王女様からオーダーメイドで入浴剤を作って欲しいという注文を受けまして、王宮に行く所だったのですよ』
『それって、俺らも付いていっていいのか ?』
『後で、確認の手紙を送ります』
そうだよね。
そんな簡単にはいかないよね…。
『大丈夫ですよ。セダムはともかく、何十年ぶりかにこちらの世界に来られた人間であるあなたに、王女様も興味がお有りでしょうしね』
『本当ですか?良かったー』
『俺のこともちゃんと伝えておいてくれよ な』
『では、何を頼みましょうか?』
セダムの方は全く見ずに、メニューに目を落とすツバキさん。
それに対して、『おい、聞いてるのか』と突っ込むセダム。
ひとりっ子の私にはその光景が微笑ましく思えた。
私にもこんなことを言い合える友達が出来たらいいな。
第三章
もし良ければ私の家に泊まって行って下さいと言うツバキさんの好意に甘えて、ツバキさんたちと共に帰路に着いた。
『あなたは自分の家へ帰られては?』と言うツバキさんに対し、セダムは『俺がいないと寂しいだろ?』と負け時と攻防戦だ。
家に着くまで、ずっとこの調子だった。
よく飽きないよね。
馬車を降りると、まるでギリシャのサントリーニ島を思わせる青いドーム状の屋根がついた白いお屋敷が佇んでいた。
柔らかなピンクと紫の雲が浮かぶ、夕焼け空に包まれたそれはなんとも見事な光景だった。
玄関を入ると大きな螺旋階段が目に飛び込む。
階段横には執事らしき服を着たおじいさんが立っている。
『お帰りなさいませ。ツバキ様。そちらの方 は、セダム様と…』
『ジャスミンさんですよ。今日は私の家に泊まってもらうことにしたんですよ』
今まで、茉莉と言う名前で過ごして来たのに、違う名前で呼ばれるのはなんだか変な感じがする。
名前の意味は大体、同じ感じだけれども。
『なるほど。ツバキ様が女性の方を連れて来られたのは初めてですね』
おじいさんはにこにこして嬉しそうだ。
『母にはこのことは秘密にしておいてくださいね。知られると面倒なので』
ツバキさんのお母さんってどんな感じの方なんだろう?
知られると面倒って、ツバキさんに悪い虫がつかないように追い払われるってことかな?
『心得ております』
『では、私は自室に戻ります。彼女のことは頼みましたよ』
『かしこまりました』
『では、ジャスミンさん、また後でお会いしましょう。因みに母のことですが、すぐに会うことになると思いますよ』
『は、はい。また』
ツバキさんには私が考えていたことが筒抜けになっていたようだ。
恥ずかしい。
手を軽く振り、去っていくツバキさんに続き、セダムもついて行ってしまい、その場には執事のおじいさん?と私だけが残った。
『私はツバキ様の執事のアイビーと申します。では、お部屋にご案内致します』
広いお屋敷の中を歩いて行くと、ある部屋の前に、メイド服に身を包むうさ耳の付いた女性が立っていた。
『こちらはメイドのチャービルです。ジャスミン様とお年が近いので、お話相手にと思いまして。新人メイドですが、一通りのことは出来ますので、何なりとお頼み下さい』
私がこのお屋敷に着いて間もないのに、年が近いメイドをいつの間に呼び寄せたのだろうか。
この世界には魔法があるらしいから、魔法でも使ったのかな?
でも、そんな素振り、全くなかった。
『チャービルと申します。よろしくお願いします』
彼女はスカートの裾を持って、優雅にお辞儀をする。
『こちらこそ、よろしくお願いします』
私は慌てて、頭を下げた。
顔を上げるとチャービルさんは柔らかく微笑んでくれた。
初めて来た世界に少し緊張していた私は、その笑顔に緊張がほぐれた気がした。
アイビーさんと別れた後、チャービルさんが部屋の鍵を開けてくれた。
『女性のお客様がお泊まりに来られたことがないので、何か足りないものがあるかも知れません。こちらで一応チェックはしたのですが、何かあれば遠慮なくおっしゃってくださいね』
一歩、また一歩と部屋に足を踏み入れる。
天蓋付きベッドに、アンティーク調の白い机に椅子、キラキラと輝きを放つ大きなシャンデリア。
今まで見たことがないような絢爛豪華な部屋に言葉を失う。
ツバキさん、さっき、家は代々続く入浴剤専門店って言ってたけど、こんなに儲かってたんだ。
『あの、どうかなさいましたか?』
この部屋が凄すぎて、チャービルさんがいることをすっかり忘れていた。
『いえ、いえ。すごく素敵な部屋だったので、見惚れていました』
私は慌てて、訂正する。
『そうでしたか。そう言って頂けて準備した甲斐がありました』
準備?さっきから、聞きたいことがあり過ぎる。
もう、こうなったら思い切って、聞いてしまえ!
『あの、準備って言ってましたけど…私がツバキさんの家に着いてから、この部屋に来るまで、ほとんど時間がなかったのにどうやって準備したんですか?』
チャービルさんは戸惑ったような驚いたような表情を見せる。
『私は数刻前にアイビーさんから、ツバキ様から女性のお客様を連れて行くかもしれないとご連絡あったとのお話を聞いて、準備しただけなので…何とも…』
『数刻前?』
数刻前って、ツバキさんは一体いつ連絡をしたのだろうか。
考えても、考えても謎が深くなるばかりだ。
『あの、こちらの世界に来られるのは初めてだと聞きました。何かなさりたいことはありますか?』
気を遣って、話を変えてくれたのだろうか。ありがとう。チャービルさん。
『私、お風呂が大好きなんです。向こうの世界では、休みの日は温泉とか銭湯とかを回ったりしてて、平日は色んな入浴剤を試すのが楽しみでした。なので、この世界の入浴剤を色々試してみたいなぁって思ってます』
『なるほど、では、入浴剤倉庫に行ってみますか?試作品の入浴剤や、今、本店で発売されている入浴剤のサンプルまで沢山の種類があるんですよ』
『えー!?そんな場所があるんですか?是非とも行ってみたいです』
目的地に着くまで、胸を躍らせ、想像を膨らます私。
ごめんなさい。チャービルさん。
説明が全然、耳に入って来ないです。
『こちらが入浴剤倉庫です!』
セルリアンブルーのおしゃれなシックスパネルの扉が付いている。
この扉は英国首相官邸のドアによく使われるデザインだ。
何でこんな事を知ってるかと言うと、高校の修学旅行でイギリスを訪れたからだ。
残念なことに、イギリスには日本の入浴剤と言われる類の物はなかった。しくしく。
だから、代用品としてエプソムソルトを買っていったっけ。
最初は種類も多いし、コスパもいい天然の塩を買おうとしたけど、店員さんにそれだと浴槽を傷めちゃうよと言われ、エプソムソルトにしたんだ。
店員さんおすすめのラベンダーとローズの香り。
大切に大切に使ってるから、まだ半分以上残ってる。
こんなに残ってるのは使い終わらないうちに私が新しい入浴剤を買って来てしまうことも起因しているかも知れない。
中に入ると、棚に所狭しとバスボムや入浴剤の入った瓶が置かれている。
野菜やフルーツなどの食べ物の形をしたバスボムに加え、本の形をしたバスボムまである。
本の形をしたバスボムには題名が彫ってあり、物語の中へでも入れるということなのだろうか。
『本日の御入浴の際に使われますか?』
『え、使っちゃっていいんですか?』
『はい。こちらにある物は感謝祭セールの時などにまとめて安く販売したりするのですけど、それでもこれだけあると売り切れなくて困っているのです』
『でも、こんなに沢山あると、どれがいいか迷っちゃいます』
『それでしたら、ツバキ様が入浴剤の実験に使われる大浴場があるので、そこをお借りしちゃいましょう。浴槽が十個程に分かれているので、色々試せますよ』
『でも、十個も試したら、後でお風呂掃除大変じゃないですか?』
『ご安心下さい。このチャービル、お掃除魔法が大得意なのです!』
胸を張って答えるチャービルさんに思わず、笑みが溢れる。
『それは安心ですね』
私たちはしばらく二人で笑い合った。
ツバキさんに大浴場の使用許可を取りに行くと、快く承諾してくれた。これからも好きな時に使っていいとも言ってくれた。
私たちは二人でバスボムやら入浴剤やらを運び込む。
『では、私はこれで』と言い、出て行こうとするチャービルさんを呼び止める。
『あの、もし良かったら一緒に入りませんか?』
私が声を掛けると、チャービルさんは驚いた顔をして、振り返る。
『私はメイドの身なので、お客様と一緒に入浴する訳には…』
『お願いします。一緒に入って下さい!一人で入るのは寂しいんです。あ、もし上司に怒られちゃうとかだったら、私も一緒に怒られます』
チャービルさんは驚いていた顔を止め、柔らかく微笑んだ。
『そんな風にお願いされたら、断れませんね。その代わりと言ってはなんですけど、私からもお願いがあります』
『え?何ですか?』
『それです。私には敬語で話さなくていいです。あと、さん付けで呼ばれるのは慣れないので、チャービルとお呼び下さい。』
『それは…』
『……』
『チャービル…一緒にお風呂に入って欲しいな…』
どこかぎこちなさはあるがこれが限界だ。
『はい』
チャービルは満足気に微笑んだ。
その後、私たちは大浴場に足を踏み入れる。
白い大理石で出来ている高級感あふれる浴槽がいくつも並んでいる。浴槽から湯気がモクモクと立ち昇り、私たちを包み込む。
私がまず手に取ったのは、チャービルのおすすめだという[かぼちゃのバスボム]。
野菜屋さんに置いてあっても、気付かないような再現度だ。
かぼちゃの種まで再現されているのには驚いた。
お風呂に浮かべるとしゅわしゅわと音を立てながら、溶けていく。
私はバスボムが溶けていくのを、じっと見つめる時間が好きだ。
いつもと時間軸がずれ、ゆっくりと過ごすことが出来るからだ。
慌ただしい生活から解放される、私だけの時間。
しばらく見つめていると、ドロドロとしたかぼちゃスープのような見た目になる。
『かぼちゃスープの匂いがする…』
チャービルがどこからか、大きな木べらを持ってくる。
『これで、かき混ぜれば完成です。この野菜シリーズのバスボムは保湿効果も高くて、お肌にもいいので、あらゆる世代の方から人気なのです』
『でも、こんなにドロドロしてたら、お風呂から上がってから体を流さなきゃいけないよね』
『いいえ。お風呂から出ると、体に付着している水分が全て体に染み込むように作られているのです。化粧水のような感じですね。なので、このお風呂に入るとお肌がつるつる、もちもちになるのです』
へぇ。なるほど。
『詳しいね。チャービルも入浴剤とかバスボムとか、好きなの?』
『この世界の方は皆さん、好きだと思いますよ?ツバキ様の御家は代々続く入浴剤専門店なのはご存知ですか?』
『うん』
『王家にも献上しているぐらいなので、この世界ではとても有名なお店なのです。一般的に考えれば、王家にも献上するぐらいの物だから、庶民には手が届かないって思われるじゃないですか。でも、ツバキ様たちは庶民にも手が届くお手頃な入浴剤も販売して下さっているのです。なので、ほとんどの国民が小さい頃から慣れ親しんで、使っているのです。……と、長話し過ぎましたね。体が冷える前に浸かりましょうか』
チャポン。お風呂に浸かると、お湯が波打つように広がっていく。
かぼちゃのスープに浸かっているような感覚はなんとも言えない感じだ。
でも、かぼちゃのいい匂いがして癒される。
味はどんな感じなんだろう。
まぁ、でも、味は期待出来ないかな。
前にパインアメの入浴剤を買った時、試しに舐めてみたけど、苦かったなぁ。
私が考えている事に気付いたのか、チャービルが顔の前で大きく手を振る。
そして、『味は保証出来ませんからね』と力強く言われる。
『まさか、舐めたりなんてしないよ』
慌てて否定するが、チャービルは疑いの眼差しでこちらを見つめる。
『あ、ねぇ、ねぇ。私、もっとこの世界について知りたいなぁ』
我ながら、今のは強引な話題転換だったと思う。
チャービルの顔を伺うと、
『何からお聞きになりたいですか?』
柔らかい微笑みに表情を戻して問うてくる。
私は安心して、次の言葉を繋ぐ。
『ツバキさんのお家のお店はこの世界で有名って、さっき言ってたけど…そしたら、このお屋敷に就職出来たチャービルは相当優秀ってことだよね』
チャービルは私の言葉に頬をほんのり赤らめる。
『私が卒業した学校からは成績上位者しか、ツバキ様達が経営するお店やお屋敷に就職出来ないので、学生時代は大分勉強しました』
『へぇ。チャービルが卒業した学校ってどんな所だったの?』
『私が卒業した学校は主に貴族や王族の方の下で働くメイドを養成する学校でした。小学校入学時から高校卒業まで十二年間の教育を受けます。小学校入学の際には事前審査があって、ここを通過出来ない場合はもう一校あるメイド養成学校に入学します』
『もう一校あるの?』
『えぇ。もう一校の方は下級貴族の方や庶民のお家で働くメイドを養成する学校です。こちらの学校に通っていても、成績優秀だと認められれば、私のいた学校に編入することが可能でした。メイド養成学校の他にも執事養成学校、王族や貴族の方が通われる学校、普通に勉強だけを学ぶ学校もあります。将来、メイドや執事になるつもりはないという方も教養のために養成学校に通う方もいらっしゃいます』
『そんなに種類があるんだね』
『ジャスミン様も入学意思があれば、通われることも可能です』と言い、私の胸元で光る青い宝石を指差す。
『え?この宝石がどうかしたの?』
『この宝石はガーデン・ベールの秋方面でしか発掘されないと言われているとても貴重なものなのですよ。このタイプはもう一つの宝石とセットで使うことが多いです。二つの宝石を近付けて使うことで、宝石の輝きが増すと言われています。この宝石を持たれているということはジャスミン様のお近くにいる方もガーデン・ベールのご出身かも知れないということですね。ジャスミン様がこちらの住民権をお持ちでなくても、親族の方がこちらの国のご出身であれば、学校に通うことも可能ですよ』
『良かったですね』と言ったように笑うチャービル。
でも、私は全然笑えない。
だって、そんな話、お母さんから一度も聞いたことなかったし。
このネックレスは高校を卒業する時にお母さんからお祝いとしてもらった物。
あれ、今日ツバキさんも私がこの世界に通ずるものを持っている的な感じのこと、言ってなかったっけ。
『そのご親族の方は宝石商だったのかも知れないですね』
私が返事をしないので、親族がいるという前提で話が進んでいく。
まぁ、間違いではないのかな?
『え?どうして、そう思うの?』
『この宝石は一般には出回らない物なんですよ。ですが、宝石商の方なら持っていてもおかしくないですね』
『じゃあ、発掘したとしても売ったりしないってこと?』
『発掘された物のほとんどは王族や上流階級の貴族の方たちの下に渡ります。……あら?そう考えると、そのご親族の方はは王族や上流階級の貴族の方ということも考えられますね』
お母さんはどんな気持ちで私にこれを渡したんだろう。
宝石を指で摘み上げて、よく見てみる。
けど、私のいた世界にある宝石と何ら変わりはない。
『あまり、長湯するのは良くないので、そろそろ上がりましょうか。他の入浴剤はまた明日使いましょう』
『うん』
色々考え過ぎて、頭がパンクしそうだ。
また明日考えようっと。
第四章
朝早くに扉がノックされる。
私が返事をすると、チャービルが顔を覗かせる。
『おはよう。早いね』
私は起き上がり、眠たい目をこする。
『おはようございます。実は本日、王宮からお手紙が届きまして、プルメリア王女様が是非ともジャスミン様とお会いしたいとのことです。王女様は本日でもお会い出来るとおっしゃっていますが、どうされますか?』
『ツバキさんはこのことについて、何か言ってた?』
『ツバキ様は本日、本店の方から呼ばれたらしく、セダム様と共に朝早くに出て行かれました』
『そう…なんだ…。せっかくだし、お会いしてみようかな』
昨日のことで、頭はすっきりしなかったけど、気晴らしになるかもしれないと思った。
『では、早速、着ていくドレスを選びましょう!』
チャービルに背中を押され、衣装室に向かう。
部屋に入ると、二人のメイドさんがに並んでいた。
『初めまして。衣装室専属のフランネルと申します』
『スイセンと申します』
二人はピンク色の髪を結い上げ、同じメイド服を着ている。
瞳の色を除けば、何一つ違うところがない。
『もしかして、双子なの?』
私の問いかけに、
『『はい!』』
フランネルとスイセンは同時に答える。
二人は顔を見合わせて、恥ずかしそうにする。
『では、私は王宮に連絡をしてきますので、一時、席を外します。二人とも、ジャスミン様をよろしく頼んだわよ』
チャービルはペコリと頭を下げ、部屋を出て行く。
『ジャスミン様、奥の部屋にドレスをご用意しています』
『ご案内します』
二人に続いて、奥の部屋に進む。
すると、白、ピンク、赤、青、黄色…色とりどりの鮮やかなドレスが並んでいた。
『実は昨夜、ツバキ様がジャスミン様のために、洋裁店を呼んで、ドレスを見繕っていらっしゃったのですよ』
『ちょっと、それは秘密にしてって言われたでしょ』
『あら、そうだったかしら?』
私がお風呂にゆっくり浸かっている間にそんなことをしてくれていたのか。
これ、全部でいくらぐらいするんだろう?
高そうだなぁ。
『わざわざ、買ってくれなくても、昨日着てた服を洗濯して着ても良かったんだけどなぁ…』
『そんなことおっしゃらないで下さいよー。ツバキ様が女性にプレゼントをなさるなんて、前代未聞の出来事なんですよ』
スイセンと戯れていたフランネルが私の言葉に反応して、こちらを向く。
『え、そうなんだ』
意外極まりない。
あの美貌なら彼女の一人や二人、すぐに作れそうだけど。
そう言えば昨日、アイビーさんも女性のお客様を連れて来るのは初めてって言ってたかも。
『それより、早く準備しましょうよ。こんなに素敵なドレスがあるのですから』
スイセンは目を輝かせて、ドレスを見つめている。
『そうだね。王女様をお待たせする訳にはいかないしね』
そうして、着替えたのはダスティーブルーのドレス。繊細なレーススリーブが上品さを醸し出している。後ろ下がりのフィッシュテールがおしゃれだ。
フィッシュテールって、魚の尾に似ていることからこの名前が付いたんだって。
フランネルが髪をアップにしてくれたり、スイセンがそれに合わせてアクセサリーを着けてくれる。仕上げにはメイクもしてくれた。
全てが終わると二人は『わぁ』と歓声をあげる。
『とっても、お似合いです』
『ツバキ様にもお見せしたい可愛いさです』と口々に褒めてくれる。
恥ずかしさもあったけど、鏡に写る自分は別人のようだった。
『とてもお似合いですね』
振り返るとそこにはチャービルが戻って来ていた。
『ノックはしたのですが…みなさん夢中でしたので、気付かれなかったみたいですね』
私たちは顔を見合わせ、笑い合う。
『チャービル、本当にここまでしか付いて来てくれないの?』
私とチャービルはというと、王宮の中にある別邸の前に来ていた。
ここには王女様が住んでおり、王女様の名前を取って【プルメリア宮】と呼ばれている。
『ジャスミン様、頑張って下さい!』
チャービルは拳を掲げて、応援ポーズをする。
私は渋々、一人で門をくぐる。
ここから先は王族、そのお世話係、また、王族に招待された者しか入ることが出来ない。
招待された先は王女様のお気に入りの場所だという温室だった。
昨日、ツバキさんたちと行ったカフェに若干似ている。
王女様が監修したんだから、似ててもおかしくないか。
でも、私の目の前にそびえ立つ大きな温室は絢爛豪華で、似ても似つかない…かも。
扉をノックすると、
『お待ちしていました。どうぞこちらに』
メイドさんが王女様の元に案内してくれた。
温室の中は緑でいっぱいだった。
爽やかな鳥の声、飛び交う白色の蝶たちと美しい花の上を吹いてくる清々しい風。
温室なのに、どこからか吹いてくる風に髪を押さえる。
『ごきげんよう。お会い出来て嬉しいわ』
王女様は金色に輝くふわふわした長い髪を耳にかけ、優雅に紅茶を飲んでいた。
『初めまして。ジャスミンと申します…』
チャービルとここに来るまで、沢山練習した自己紹介が一気に飛んでしまった。
だって、そのぐらい輝いているんだもの。
この世にこんな可愛い人が存在するの?ってぐらいの可愛さだ。
『ジャスミンね。私はプルメリアよ。周りの人にはリアって呼ばれてるの。あなたにもリアって呼んで欲しいわ。あと、私、堅苦しいのは苦手だから敬語で話さなくてもいいわよ。それにあなた、私と同い年だって、聞いてるわ』
『リア…よろしくね…』
『えぇ、よろしくね』
リアは私の手をとって、優しく微笑んでくれた。
『ジャスミンの住む世界は今、夏だと聞いたの。だから、夏に取れる食材でお菓子を作ったのよ。』
ブラックベリーとラズベリーのクランブル、ブルーベリースノーのミント添え、ベリージャムクッキーにごぼうのミニドーナツ。
確かに八月に収穫出来る食材ばかり。
『この世界は今、夏ってこと?』
リアはあら?聞いてないの?と言ったように首を傾げる。
『ガーデン・ベールは四区画に分かれていて、東方面は春、西方面は夏、南方面は秋、北方面は冬。そして、私たちのいる王宮はその真ん中に位置していて、唯一四季を感じられる場所なの。だから、ここはあなたの住む世界と四季が同じなのよ。あなたが泊まっているツバキのお屋敷は春ね。春方面に住んでいる人たちは一年中、季節が春。だから、たまに旅行をして他の季節を楽しむの』
そういうことか。
ツバキさんのお屋敷付近は暖かな心地良い風が吹いていたのに、王宮の周りはただ暑いだけで風もなかった。
場所を移動するだけで、季節が変わるとは思ってもみなかった。
リアがラベンダーの小さなつぼみの砂糖漬けを紅茶に浮かべると、花がふわりと香りを漂わせながら咲いた。
『あまり、驚かないのね』
『うん…私のいた世界にも似たようなお茶があるの。でも、それはお花の周りを茶葉で巻いて、てまりみたいにしたものだから、これとは別物なんだけどね』
中国茶の一種である工芸茶に似ていると思ったのだ。
『へぇ、そう。私、小さい頃家族であなたの世界へ旅行に行ったことがあるの。確か、ニホンだったかしら?その思い出が忘れられなくて…もうすぐある、私の誕生日にまた行きたいと頼んだの。でも、私はこの国の王女、そう簡単に行くことは出来ない。この世界ではお祝いごとがあると、入浴剤をプレゼントし合うのが慣習なの。だから、今年も誕生日に大量の入浴剤が送られて来る。でも、ツバキさんの作る魔法の入浴剤なら、ニホンに行ったつもりになれるかもしれないと思って、王宮に呼ぼうと思ったの』
『きっと、ツバキさんなら叶えてくれるよ。私も魔法は使えないけど、日本のことなら役に立てるかもしれないし』
『ジャスミン、ありがとう』
リアに抱きしめられる。
『でも、あなたも練習すれば魔法を使えるようになるかも知れないわよ。三親等以内にガーデン・ベール出身者がいればの話だけど』
昨日、チャービルにこの宝石を持っているということは近くにガーデン・ベールの出身者がいるのかもしれないと言われたことを思い出す。
それはこのネックレスをくれた母がこの国、出身かも知れないということを表している。
そのことをリアに伝えると、
『まぁ、そうなの?もう一つの宝石はあなたのお母様が持っているの?』
『うん。普段はジュエリーボックスの中にしまってるけど』
『二つで一つの宝石の内、片方だけが時空を超えると、もう一つの宝石はその宝石を探そうとしてその居場所を伝えるという言い伝えがあるの。中々、片方の宝石だけが時空を超えると言う例はないから、あまり知られていないのだけれど』
『じゃあ、お母さんは私がガーデン・ベールに来たことをもう知っているかも知れないってこと?』
『そうなるわね。あなたが昨夜、ツバキさんのお屋敷に泊まったことも知っているかも知れないわ。もしかしたら、手紙を出しているかも』
『え?手紙なんか出せるの?』
時空を超えても手紙のやりとりが出来るなんて、驚きだ。
『あなたの世界からは、満月の夜だけ手紙を送ることが出来るの。こちらの世界に売っている満月のレターセットというのを使うのよ。
もし、昨日が満月なら、今日、あなたがいない間に手紙が届いた可能性があるわ』
私はいてもたってもいられなくなり、立ち上がった。
『馬車を出すわ。このお菓子はお土産に持って帰って』と言い、リアは近くのバナナの葉にお菓子を包んでくれた。
『ありがとう。リア』
『いいのよ。落ち着いたら連絡してね』
リアに見送られ、私は足早に王宮を後にした。
ツバキさんのお屋敷に着くと、ちょうどアイビーさんが郵便受けから手紙の束を取り出しているところだった。
『私宛の手紙は届いていませんか?』
息を切らしながら、近付いて来た私にアイビーさんは一瞬ギョッとした表情をしたが、気を取り直して目当ての手紙を探す。
『こちらですね』
手渡された手紙の差出人を見ると、それはお母さんの名前だった。
アイビーさんは状況を察したのか、静かにその場を離れていった。
【茉莉へ
ごめんなさい。
あなたにはいつか話さなければならないと 思っていたわ。あなたがどこまでのことを 知ったのかは分かりません。私はあなたの ためにこの事実を隠していたと思っていた けど、それは私の勝手な思い込みだった。 あなたにも当然知る権利がある。今から話 すことを信じるか信じないかはあなた次第 よ。
私はガーデン・ベールで生まれて、ガーデ ン・ベールで育った。私の家は秋方面を中 心にハーブ店を営んでいたの。大学生の時、 初めて好きな人が出来たの。でも、私は貴 族、彼は庶民だった。当時、私には許嫁が いたんだけど、好きな人と付き合えないな ら家に居たくないと言って、家を出たの。
それからはずっと人間界にいるの。
私、あんなふうに家を出てしまったから、 お母様とお父様は怒っているかしら。なん だかんだ言っても、心配なの。私の代わり に会いに行ってくれると嬉しいです。 ハーブ店の名前を記しておきます。
母より】
『お母さん…』
今まで誰にも話せずに苦しかっただろう。
先程まで、お母さんに対して沸々と湧き上がってきていた疑問は、なかったかのように胸にスッと入っていった。
言うなれば、鍋の水を沸騰させて、水蒸気にした感じだ。
『おや?今日は王宮の方へ赴いたとお聞きしましたが…お早いお帰りですね』
振り返りと馬車から、ツバキさんとセダムが降りてくるところだった。
『ツバキさん…セダム…』
『…なるほど』
『??』
ツバキさんはこの一瞬で状況を察した様子。 セダムは何のことか分からないといった様子だった。
私たちはダイニングルームに場所を移した。
お母さんから手紙が届いたこと、その内容を話すと、
『やはり、お母様はガーデン・ベールのご出身でしたか』
ツバキさんは自説を確かめるように頷く。
『最初に気付いたなら、何で言わなかったんだ?』
『ジャスミンさんは何も知らない様だし、私が何か言っても混乱させてしまうと思ったんだ』
でも、ツバキさん、『この国に通ずるものをお持ちみたいですね』とか、意味深なこと言ってましたよね。
じっとツバキさんの方を見ると、
『そんなことも言いましたね』
私が持ち帰ったお菓子を口に次々に放り込む。甘い物好きなのかな?
って言うか、私がまだ何も言っていないのにまた返事をされた。
私、そんなに顔に出るかな?
『それより、そのハーブ店行ってみるのか?』
セダムの問いかけにツバキさんもお菓子を食べる手を止め、こちらを伺う。
『もちろん、行きますとも。お母さんの願いでもあるし、私もお母さんの育った場所に行ってみたいし』
『そうと決まれば、早速準備しますか』
ツバキさんはそう言って、部屋を出ようとする。
『ツバキさんもついて来てくれるんですか?』
『えぇ、そのつもりですが…知らない土地にジャスミンさんだけを送り込む訳にはいかないので…知らない土地と言ってもお母様の故郷ですがね』
『俺もついて行ってやるから、心配すんなよ』
セダムは誇らしげに胸に手をあてる。
二人がついて来てくれるなら心強い。
『ありがとうございます。ツバキさん、セダム』
第五章
ガタン、ゴトン。
今、私たち三人は馬車の中だ。
『実は僕、昨夜、そのハーブ店に電話をしたんです。そしたら、マダムデイジーが電話に出ました。ジャスミンさんのお婆さまです。僕の店でも、何度か取り引きをしているのですが、お会いするのは今回が初めてなんです』
おばあちゃんの名前はデイジーって言うんだ。
どんな人なんだろう。
今まで、お母さんにおばあちゃんのことを聞いても、遠い国にいるから会えないのとしか話してくれなかった。
そう言って、全然会わせてくれないから、もしかしたら、亡くなったのかも知れないと思っていた。
『それで、俺らがどんな目的で行くのかは伝えたのか?』
あぁ、それ、私も気になってた。
『三人で訪問すること、入浴剤に使うハーブを探していること、マダムデイジーに是非ともお会いしたいことは伝えました。ですが、お孫さんにあたるジャスミンさんも一緒に訪問するということは伏せました。お母様が一度、家を出て行かれたということを考慮すると、お孫さんに会うことを躊躇われる場合があると考えたからです』
艶やかな笑みを浮かべ、サラサラと話すツバキさんだが、私はだんだん心配になってくる。
『でも…大丈夫でしょうか?』
『まぁ、確かに…それじゃぁ、嘘言ってるみたいだしさ』
私の考えにセダムも同意する。
『嘘だなんて、人聞きの悪い。今回、私がハーブ店に向かう目的は他にもあるんですよ』
『なんだ、それ?聞いてないぞ』
うん、うん。
『王女様のお誕生日に贈る入浴剤に使う材料探しも兼ねているんです。なので、マダムデイジーに嘘をついたと言うことにはならないんですよ。』
あ、それ。
昨日、リアと会った時に話した魔法の入浴剤か。
確か、日本に行ったつもりになれる入浴剤が欲しいって言ってたよね。
ツバキさんにもこのこと、伝えなきゃ。
『なるほど…。日本に行ったつもりになれる入浴剤ですか……』
ツバキさんは何やら、ぶつぶつと言い始めたので、セダムが話をまとめる。
『じゃあ、俺とツバキはハーブ店に着いたら、ハーブの調達。ジャスミンはマダムデイジーと何とか二人きりになって、話すってことでいいよな』
うん。お互い頑張ろう。
そのハーブ店はまるで、魔女の宅急便に登場するキキの実家のようだった。
外壁は黄色や緑色をした蔦で覆われ、所々、白い壁が見え隠れしていた。
庭園には色とりどりの花が咲いている。
外からでも分かるぐらいの植物が、開け放たれた窓から顔を覗かせている。
『お待ちしていましたよ。お会い出来て嬉しいわ』
私たちが馬車を降り、お店に近づいて行くと、灰色の髪の毛をしたおばあちゃん【マダムデイジー】が出て来た。
黄色い無地のワンピースにサーモンピンクのエプロンを身に付けた可愛らしい感じのおばあちゃんだ。
『初めまして。porter bonheur のツバキと申します。こちらはセダムとジャスミンさんです』
ポルテ・ボヌール?
あ、もしかして、ツバキさんのお店の名前かな?
『初めまして、デイジーよ』
握手を求められたので、慌てて手を出す。
『それで…あなたたちは何のハーブを探しているのかしら』
『王女様の誕生日にプレゼントする入浴剤にこちらのハーブを使いたいと考えているんですが、何かおすすめがあれば見せて頂きたいと思いまして』
『まぁ、そうなの?王女様にプレゼントする入浴剤にうちのハーブを使って貰えるなんて光栄だわ。今、夫がちょうど温室にいるから案内するわね』
マダムデイジーによると、一年中秋気候なこの地域の特性を鑑みて、春・夏・冬の植物も育てられるように三つの温室を完備しているそうだ。
大きなドーム型の温室。
一度中に入ったら、出て来れない迷宮の建物みたいだ。
『夫はこの中にいるわ。私もお茶を淹れたら、合流するわね』
『お気遣い、ありがとうございます』
私はツバキさんとセダムが中に入って行くのを見送る。
『あら?あなたは…?』
マダムデイジーは困ったような、戸惑ったような顔をする。
『お手伝いさせて頂きます』
『まぁ、ありがとう』
マダムデイジーの嬉しそうに笑う顔はお母さんに少し似ている気がした。
温室からハーブ店に戻る道。
マダムデイジーはしきりに私の顔を見る。
ついには私とぱちっと目が合う。
『あら、ごめんなさい。娘のことを思い出しちゃって…ちょうどあなたぐらいの歳の娘が私にもいたの。もう会えないかも知れないけど…もう一度、会えたら…あの時は、ごめんなさいって謝りたいわ。周りの体裁ばかり気にして、あの子の話を全然聞いてあげられなかったから』
涙を浮かべ、話すマダムデイジー。
あの話をするなら今しかないと思った。
『…私がお母さんに伝えます』
『え?それはどういう…』
マダムデイジー、いや、私のおばあちゃんは驚いた顔をして私を見る。
『私、実は…おばあちゃんに会いに来たんです。私の母の名前はミモザです。今日は母にこのハーブ店を教えてもらって、訪ねて来たんです』
おばあちゃんは驚いて、言葉が出ないようだった。
そりゃあ、もうずっと帰って来なかった娘の子どもを名乗る私が現れたんだもん、当然の反応だよね。
『ミモザは元気?』
『はい。おばあちゃんのことを心配していました』
『私のことを心配してくれるなんて、嬉しいわね。ミモザは今、どこにいるの?』
『この世界にはいません。人間界の日本という場所に住んでいます』
私の返答に少し寂しような、悲しような表情をする。
私たちの間に沈黙が流れる。
『じゃあ、ミモザを王女様のお誕生日パーティーが行われる日程に合わせて、こちらの世界に招待したらどおだ?』
『ちょっと、お父さん…いるなら言ってよ』
『すまん、すまん』
おばあちゃんにお父さんと言われた人はいつの間にか話し込んでいる私たちの後ろにいた。
『あなたのおじいちゃんのライラックよ』
『初めまして、ジャスミンです』
『ジャスミンかぁ。孫に会えるなんて、嬉しいなぁ』
おじいちゃんはとても喜んでいる。
こんなにすぐに受け入れてくれるなんて、拍子抜けだ。
優しい人たちで良かった。
『いけないっ。お茶淹れたら合流するって言ったのに…あの子たち、待ちくたびれてないかしら』
『ツバキさんはともかく、セダムは…』
まだ帰って来ないのかと、駄々をこねる姿が目に浮かぶ。
『早く持って行ってあげなきゃね。お父さん、ジャスミンちゃん』
『あぁ』
『はい!』
新しい家族が増えた嬉しさに私は頬を綻ばせた。
帰り際、泊まって行かないと知ったおじいちゃんはすごく悲しそうな顔をしていたが、おばあちゃんに諭される。
『さっき、あなたも言っていたじゃない。王女様のお誕生日パーティが行われる時に王都でホテルを借りましょう。そこに、ジャスミンとミモザ、あとミモザの旦那さんも招待するの。今日、ジャスミンを泊めるにも何も準備が出来ていないじゃない。だから、次、会う時に最高のおもてなしが出来るように準備するのよ』
おばあちゃんが話し始めると、おじいちゃんの顔はみるみるやる気に満ちた明るい表情になって行く。
『それはいい!ジャスミン、楽しみにしてなさい』
『はい。楽しみにしてます』
『良かったですね。ジャスミンさん』
『はい!』
こうなったのも、ツバキさんとセダムのおかげだ。
あとで、お礼をしたいな。
おじいちゃんとおばあちゃんは私の姿が見えなくなるまで、手を振り続けてくれた。
二週間後。
ついにリアのお誕生日パーティ当日になった。
街中にプルメリアが飾られ、お祝いムード一色。
昨日、私とツバキさんとセダムはリアへの誕生日プレゼントを送った。
今頃、封を開けているかも知れない。
ツバキさんのプレゼントは日本三大香木と言われる沈丁花・梔子・金木犀の三つの香りが楽しめる入浴剤らしい。
リアの願いである【日本に行ったつもりになれる】って言う部分はどんなふうに表現したんだろう?
後で聞いてみよう。
セダムは入浴剤の塊に王女様の顔を彫って、送ったみたい。
それは、ちょっと怖くない?
リアが泣いたら、慰めなくちゃ。
私はおばあちゃんに手伝ってもらって、リラックスさせてくれるハーブと言われているホップとラベンダーでクッションを作った。
おばあちゃんのハーブ店を包んでいるホップの蔓のグリーンカーテンから、淡い緑色の蕾を摘み、ラベンダーの花を入れたら完成だ。
クッションの中にいれた植物が枯れてしまわない様に魔法もかけた。
呪文はLe bonheur est éternel (ル・ボヌール・エテルネル)。
意味は永遠の幸せ。
ガーデン・ベールで使われている魔法の呪文は全てフランス語。
王宮を中心として、放射線状に広がる街並みもフランス由来。
かつて、この世界を作った人がフランス人だったとかなかったとか。
誰も本当のことは分からないみたい。
後から調べてみて分かったことだけど、ツバキさんのお店の名前 porter bonheur
( ポルテ・ボヌール)は幸運を運ぶという意味があるんだって。
ぴったりな名前だね。
今から、プルメリア宮で、リアとツバキさんとセダムとささやかながら、誕生日パーティーをする予定。
夜はお母さんたちとホテルで再会を祝って、パーティー。
なんと、おばあちゃん、ツバキさんにも招待状を送ってたみたい。
招待状に何て書いてあったと思う?
未来の旦那様へって書いてあったんだよ。
もう、勘弁してよー。
それを受け取ったツバキさん、苦笑いしてたよ。
そんなこんなで、非日常を過ごしている私。
では、最後に
【Puissiez-vous continuer à passer un bon moment avec vous. 】
あなたとの幸せな時間が続きますように。