考察
遅筆ですが、ちまちまと進めていきます。
探査船アルゴー号が初めて探知した、人類居住可能惑星のbt-448-3の地上に降りた調査チームのリーダーと護衛部隊の指揮官の死因について話し合っている会議が続いている。
「葦原技術長、今なんと…?」
野上副長が信じられないと言わんばかりの表情で聞き返す。
「だから、魔法なんじゃないかなって。」
技術長の葦原はよく話が飛躍するけど、ここまで突拍子もない事を言った試しはないはずなんだが…
「葦原、どういう事だ?魔法なんてものは迷信か、科学的に未発達な状態の時に説明つかない事象を指す言葉だろう。」
「そう、その通り。我々にとってチームリーダーと指揮官を殺害したのは未知の現象よ。ならばとりあえず魔法と名前をつけて具体的な対策を考える方が優先されるはずよ。」
葦原の言うことにも筋が通っている。
「つまり、事象の発生するメカニズムはひとまず置いておくとして、発生する際の条件と結果だけを見て対策を考える、ということですか?」
遠田が他のメンバーにも分かりやすく噛み砕いて聞き返す。
「そうよ。まず二人が負傷する直前、ローブを着た男がヘーリオスにも翻訳できない未知の言語を話したわ。これ以外に合理的な説明のつかない行動をしていないことから、この言語が魔法の発動条件と考えられるでしょうね。」
「なるほど、その言語を唱えることで二人に裂傷を負わせたのか。じゃあ、その言語を話さないように大音響で妨害するのがいいのか?」
なんとなく解決策が見えてきたような気がするな。
「いいえ、その魔法が人体に直接的に裂傷を負わせるのか、それとも別の現象を発生させて、その結果として裂傷を負ったのかは分からないわ。それに、呪文のようなものを唱えることが発動の必須条件ではないのかもしれないし。」
「じゃあどうするってんだよ、嬢ちゃん。現状、防ぎようがねぇってことかよ。」
俺の出した解決策も否定され、大鉢さんが不機嫌さを隠さない口調で吐き捨てる。
「そうは言ってません。調査チームが対面した先住民の中にローブ姿の男は一人でした。魔法で攻撃する手段が広く普及しているなら、剣や弓矢は持つ必要がそもそもありません。つまり剣や弓を持っておらず、ローブ姿で棍棒のようなものを保持している人物を優先的に排除すれば魔法の発動を阻止できると思われます。」
なるほど、魔法そのものを防ぐのではなく、魔法を使われることを防ぐわけか。
「魔法を使えるものがローブ姿というのはいささか古典的偏見ではないのですか?周囲に溶け込むような服装をしていながら、魔法を使える者もいるかもしれません。」
野上副長が疑問を呈する。
確かにその通りだな。
「それは否定しないけど、それ以外に見分けられる部分が無いのよね。できれば友好的な勢力でも見つけて魔法のデータでも取らせてくれれば他の解決策も見つけられると思うんだけど。」
「なるほど…では、降下地点を変えて友好的な勢力を見つけられるまで地上の調査を続けるか。」
「ええ、その方がいいと思います。」
忍田情報長がこれからの大まかな方針を示して、葦原も同意する。
「では、引き続きbt-448-3の調査を続ける。忍田情報長は、調査チームの再選出及びヘーリオスによる再教育、剛田林自衛長は、護衛部隊の再編と緊急時の撤収マニュアルの作成を急いでくれ。」
「「了解!」」
〜
「艦長、再調査の準備が整いました。」
忍田情報長が報告してくる。
「よし、では降下地点はなるべく人口の少ないと推定されるエリアに設定する。また揚陸艇は光学迷彩を使用して接触時に無用な刺激を与えないようにしろ。」
「了解しました。」
「それと、調査チームのリーダーに無駄に相手を威圧するような言動を厳に慎むように伝えろ。」
「…了解しました。」
前回の反省から調査チームのリーダーの行動を制限するよう命令をすると、忍田情報長は少しだけ不満そうな顔を浮かべたがすぐに了承の返事を返した。
調査チームリーダーは情報科から選ばれているから情報長としては思うところがあるのかもしれない。
「艦長、護衛部隊ですが揚陸艇防衛のために設置型パルスレーザーを含む大型火力の現場判断での使用許可を願います。」
自衛長の剛田林が大型火力の使用許可を求めてきた。
「ふむ…分かった、大型火力の現場判断での使用を認めよう。ただ、あくまで揚陸艇での使用に留めてくれ。揚陸艇から離れる場合は個人携行可能な武器のみ使用することが条件だ。」
「了解しました。…ありがとうございます。」
前回、部下だった指揮官を失ったことが堪えているのだろう。
普段は無愛想な表情が多いが、安堵の表情を浮かべている。
〜
調査チームの第二陣が出発して3時間が経過した。
既に大気圏内に進出したと報告があった。
「調査チーム、地上に何か変化はあるか?」
<いえ、大気圏突入後、即座に光学迷彩を使用したため地上から気づかれた可能性は低いと思います。>
前回の反省を活かせているようだ。
「地上に人はいるか?」
<サーモセンサーと光学センサーに複数の反応がありますが、かなり小規模な集落のようです。>
大昔の"村"というやつに近いのかもしれないな。
「よし、ではその集落から少し離れた地点に着陸して人員を向かわせてくれ。威圧しないように少人数でな。」
<了解しました。>
〜
探査船アルゴー号が人類居住可能惑星のbt-448-3を発見して2度目の地上探査が始まった。
私は情報科調査チームの一員として住民とのコンタクトを任された。
「お兄ちゃんたち、だれ?」
揚陸艇を離れてあらかじめ観測していた集落の方向へ向けて歩いていると一人の少女と出会った。
「私達は空の向こうから旅をしてきたんだ。良かったら君の村で少し休ませてもらえないかな?」
前回の反省から少し叙述的な言い回しで少女に説明する。彼女が集落へ案内してくれるといいが…
「お空の向こう?…!」
少女は血相を変えると駆け出してしまった。
「彼女は一体どうしたんだろうか?」
調査チームの後輩に尋ねる。
「いえ、分かりませんね。ただ、あの方向は集落がある方向ですし、集落に着けば再会して理由を尋ねることも可能だと思います。」
「そうか、では当初の予定通り集落に向かおう。」
「「了解しました。」」
〜
私達が集落に到着すると、集落の入り口に大勢の住人が集結していた。
「大空を駆けるウッコの御遣いよ、何故このような村を訪ねられた。」
住人の中から年配の男性が進み出て私達に話しかけてきた。
警戒はしているようだが、前回のような敵意は感じられないな。
「私達はウッコとは関係がありません。空の向こうにある太陽系からやってきた地球人です。」
そう名乗りはしたものの、理解してくれるだろうか…
「太陽系…聞いたことがない。そもそもあの空に向こう側などあるのか…?」
「おい、分かるか?」「村長が分からないことが俺達に分かるわけないだろ。」「それもそうだな。」
やはり誰も理解することができないらしい。周囲の住人の話から最初に話しかけてきた老人が、この集落のリーダー的存在であることが分かっただけ良しとしよう。
「…あなた方がどこから来たは置いておくとして、何故この村を訪れたのかを聞かせていただきたい。まもなく冬になる。食料を差し出せと言うのなら我々も抵抗せざるを得ない。」
村長がそう言うと、住人達の農機具を握る手に力が入る。どうやら盗賊の類と間違われているようだ。
「いえ、食料は私達で確保できますので大丈夫です。私達はこちらに来て日がないので色々と情報が欲しいのです。」
「情報…ですか。」
「ええ、この世界の名前ですとか危険な場所とかですね。」
「……いいでしょう。」
いまだに警戒はしているようだが、情報が欲しいとの要請には応えてくれるらしい。
「ここで話すのも変ですから、私の家においでください。地図を見ながらの方が良いでしょうし。」
村長は家に招いてくれるようだ。
「村長!そんなどこの馬の骨とも分からない連中を家に招き入れるなんて危険だ!」
だが、住人の中には私達を招くことに反対なようだ。
「彼らは私の客人として扱う。何かあったとしても私が責任を持つ。文句は言わせんぞ。…申し訳ない、村のものが無礼な口をきいてしまいました。」
そう言うと村長は私達に頭を下げた。
「いえ、そのように見えるのも事実ですし、気にしておりません。」
「そう言っていただけるとありがたい。」
住人達は不満そうな表情を浮かべながらも村長の決定には逆らえないのか、道をあけてくれた。
「荒屋で申し訳ないが…」
村長はそう言って家に招き入れてくれた。
この集落では一番大きな家のようだ。材質は周囲に自生している木のようだな。
「お邪魔いたします。…君は。」
「あっ……。」
先程の少女が村長の家の中にいた。
「この子は…?」
「この娘は私の孫です。この娘があなた方をウッコの御遣いだと勘違いしたためあのような出迎えとなってしまったのです。ほれ、この方達に謝りなさい。」
村長は孫娘を紹介すると、私達に謝るように迫った。
「お兄ちゃん達、ごめんなさい。」
「いえ、気にしていませんから大丈夫ですよ。」
なるべく穏やかに気にしていないことを伝えると、孫娘は安堵した表情を浮かべた。
「では改めて、この世界の情報が欲しいとのことでしたが、具体的にどんなことが知りたいのですかな?」
村長は私達の顔合わせが終わると本題に入った。
「はい、まずはこの世界に名前はあるのでしょうか?」
「….ええ、この世界はセントエルモと呼ばれております。」
村長はこの世界を、つまりこの星がセントエルモと呼ばれていると明かした。
我々からするとbt-448-3に通称ができたと思うべきだろう。
「セントエルモ、ですか。ではここの国の名前はあるのでしょうか。」
「ええ、もちろん。ここはカレワラの地です。」
「カレワラ…ですか。」
前回の調査の際に、指揮官と思しき人物の発言の中に出てきた単語だな。
「ポホヨラ、という単語に聞き覚えはありませんか?」
「ポホヨラだと!?…お客人、やはりポホヨラの手の者だと言われるのですかな?」
村長の雰囲気が変わった。どうやらカレワラとポホヨラは敵対関係にあるようだ。
「いえ、先日ポホヨラを名乗る方と出会ったのですが、手痛い歓迎を受けたもので…。」
「……なるほど。我々カレワラとポホヨラは戦争状態にありますからな。運悪く軍勢に遭遇してしまったのでしょうな。」
やはりカレワラとポホヨラは敵対関係にあるようだ。それに、戦争状態とは面倒なことになりそうだな。
「そうでしたか。やはり運が悪かったようですね。」
運が悪いで命を落としたものが6名も出てしまうとは…
「ここもポホヨラとの境界に近いため男手が出征に出ることもありますが、帰らない者も時折おります。あの娘の父親もその一人です。」
あの娘というのは村長の孫娘だろう。村長は少しだけ眉を顰めて無念そうな表情を浮かべる。
「そうでしたか…ポホヨラが攻めてくるようなこともあるのですか?」
「時折ありますな。その時は村の者総出で防衛する羽目になります。」
この村に長時間留まると戦闘に巻き込まれる可能性がある、ということか。
「ポホヨラが攻めてくる目的はなんなのでしょう。」
自衛科の隊員が横から口を挟む。
「今は私が話をしているんだが?」
「ポホヨラが万が一攻めてきたときに目的が分かれば対策も立てやすいので。」
自衛科隊員を咎めると、対策のためだとのことだ。
「…ポホヨラがこの村に攻めてくる主な目的は食料の徴収ですな。戦争は食料を大量に消費しますからな。」
「なるほど、ありがとうございます。」
自衛科隊員は目的が分かるとすぐに引き下がった。
「…ところで村長、魔法というものに心当たりはありますか?」
自衛科の隊員なんかに話の主導権を取られたことは気に食わないが、目下のところ最重要な課題である魔法についての情報を得ることの方が優先だと考え直し、村長に尋ねる。
「…魔法、ですか。私が使えますが。」
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