発見
素人が手慰みで作ったものですが楽しんでいただけると幸いです。
航海日誌 〜統一暦159年16月324日〜
その日、我々の乗るアルゴー号の艦載AI「へーリオス」が初めて緊急報告を上げてきた。
≪人類居住可能惑星を発見!人類居住可能惑星を発見!≫
まさか俺が艦長の間にこんな事が起こるなんてな…
とにかくブリッジに上がろう。詳しく調べないといけないしな。
「状況報告!」
俺の声がブリッジに響く。
こんな時だというのに随分偉そうだと自嘲じみた気分になる。
「外殻センサーが人類居住可能惑星の確度が高い惑星を発見したようです。」
情報長の忍田が報告してくる。彼は36歳とこの艦としてはそろそろ初老が見えてくる年齢だが、理知的で情報処理能力に優れている。
あと、彼ほどアンダーフレームのメガネの似合う男もそうそういないだろう。
「へーリオスはその惑星が人類居住可能惑星であると結論付けたということか?」
「はい、直ぐに調査に向かうべきでしょう。」
副長の野上早苗が具申してくる。彼女は俺よりも6歳上だが、有能な副長として俺のことを支えてくれている。それに彼女のメガネとショートカットの組み合わせは、相当似合っている。
…まぁそんな事は置いといて、だ。
「よし、そうだな。進路をその惑星に向ける!第一船速!ひとまず当該惑星のある星系外縁部まで進出しろ!航行中は当該惑星の物理的性質と星系内の運動を観測!」
「「了解!」」
〜
「艦長!」
ブリッジに機関長の大鉢英が乗り込んできた。
彼は今年で51歳となり、このブリッジはもちろん艦全体で見ても最年長の部類に入る。その分経験もあり、頼りになるんだけど…
見た目はゴリラだから子供には怖がられるんだよね。
「機関長、なんだ?」
「なんだ?じゃねぇ!こんな無茶な出力が持つわけねぇだろ!何考えてやがる!」
「いえ、人類居住可能惑星が見つかったので急いで調査をと思ったのですが…それにそんなに無茶な出力じゃないでしょう?」
「そりゃあ、短時間じゃ問題にもならんがな。この…bt-448-3だったか?この惑星に着くまでどれだけかかると思ってんだ。そんな長時間こんな出力じゃコンバーターがイカれちまう。」
「すいません…では、機関科の方で無理のないチャートを作っていただけますか?」
「それは本来艦長の坊主が作るもんだ…って言いたいがな、分からねぇもんを分からねぇまま勝手に作られるよりはマシだな。」
「もちろん作っていただいたチャートは私の方で確認しますし、私が責任を持って運用します。」
「そうか…それなら請け負った。機関の負荷の確認もある。下の連中と作ってくる。」
そう言って大鉢機関長はブリッジから出て行った。
多分機関部にいる部下の人たちのところだろう。
「大橋艦長、あまり大鉢機関長に好きにさせるのはどうかと…」
野上副長が若干怒ったような顔をして話かけてくる。
「いや、でも彼の方が経験もあるし、なによりこの艦の事を、第一に考えてくれてるのは分かるからね。」
「ですが!艦長はへーリオスによって見出された選ばれた人なのです!そんな艦長にあのような口を利くなんて!不敬罪ものです!」
「落ち着いてください、野上副長。第一、不敬罪なんてこのアルゴー号にはありませんよ。」
主計長の遠田未来が話に割って入ってきた。
彼女はこのブリッジでは最年少の21歳で、見た目も穏やかな癒し系の黒髪ロングで場の雰囲気が少しだけ緩んだ。
「それは…そうだけど。」
「それに、大鉢機関長も艦長が優秀な人だって認めて期待しているからこそ、ああいう厳しい口調になるんですよ。」
「そういうものかしら。」
「そういうものです。」
「そう…まぁ、艦長を信用してのことでしたら目を瞑るとしましょう。」
…どうにか副長の怒りは収まったようだ。
それにしてもあんなにキレてる副長に堂々と言い返せるとは、意外と遠田は肝が据わってるのかもしれないな。
〜
「艦長、どうやら今までにない高速での航行の影響で、センサー類の精度がかなり落ちているようです。」
忍田情報長から報告があった。
どうやらアルゴー号出航以来、センサー類を限界まで使った事がないため高速航行時のセンサーへの影響を予測できなかったようだ。
「それは観測にどの程度影響があるんだ?」
「現状では、速度を落とすまでほとんど観測できないものと思われます。」
「修理で対応できるか?」
「いえ、故障している訳ではありません。解決方法としては、速度を落として航行するか、星系外縁部に到達してから観測するか、センサー類を高速航行に耐えうるように改修するか、です。」
「忍田情報長、それぞれの解決策をへーリオスで検討してください。」
副長が艦載AIに諮るように言う。
「野上副長、私個人の考えを言わせてもらえば、今回のケースではへーリオスは対応できない。あくまでへーリオスはAIであり、万能の神の発言ではない。」
「ですが、今までへーリオスが間違えたことなどありません!」
「それは今までは全て日々のルーティーンだったからだ。今回のような新しい事象には対応できない。」
副長と情報長が言い合いを始めてしまった。元々この2人は同じ情報科所属で野上副長が忍田情報長の部下だった事もあるんだけど、立場が入れ替わってしまって複雑なのかもしれない。
「忍田情報長の言うことにも一理ある。まずはセンサー類が高速航行に耐えられる改修が可能かどうか調べようと思う。それでいいだろうか、野上副長。」
「艦長がそうおっしゃられるのでしたら、異存ありません。」
「よし、葦原技術長を呼んでくれ。」
「了解致しました。」
〜
「それで、私のところに話を持ってきたと。」
アルゴー号技術長の葦原希は俺と同い年の26歳でカレッジの同期生だ。
赤毛を三つ編みにしてツナギを着続けているのがトレードマークだ。
「ああ、もし改修が可能なら星系到着前に情報が集められる。どうにか頼めないか?」
「ふーん。そうだ、重力波レーダーと探査プローブ、あと超空間通信は使える状態なのよね?」
「え?あ、ああ。どれも実際に使用した事はないけど稼働状態なはずだが。」
彼女と話ているとよくこうして話が飛躍するから戸惑う。
慣れてくれば彼女なりに必要な情報を聞き出すためだと言う事がわかる。
「それならなんとかなると思うわ。やってあげる。」
「そうか、それは助かる。」
「じゃあ早速だけど作業に移るわね。」
「ああ、頼んだ。」
〜
「艦長、とりあえず形にはなったわよ。」
そう言って技術長の葦原がブリッジに入ってきた。
「もうできたのか。流石だな。」
「まぁね。探査プローブに重力波レーダーを搭載してbt-448星系に先行させる。で、星系到着後に重力波レーダーを起動してスイープ情報を超空間通信でアルゴー号に送り返すようにしたわ。こうすればアルゴー号は高速航行を続けたまま星系情報が手に入るってわけ。」
「そうか、わかった。ありがとう。」
「どういたしまして。じゃあ私はラボに戻るわ。」
そう言って葦原はさっさとブリッジを出て行ってしまった。
〜
「艦長、スイープ情報が出ました。」
忍田情報長から探査プローブから情報が送られてきたと報告を受けた。
「よし、ブリッジに公開してくれ。人類は居住可能なのか?」
「はい、公転周期は約0.0061年、自転周期は約1.49日です。これは太陽系地球とほぼ同一の値です。
大気組成、質量、大気温度ともに地球と同一と考えられます。」
「そうか…艦内の太陽系標準暦とはズレが大きいのが気になるな。」
「地球人類が太陽系を領域とする天体国家となった際に最も外縁に存在する海王星をもとに制定された暦ですから。
bt-448-3調査中は大昔の地球太陽暦を使用するべきかと思います。」
「そうだな、そうしよう。」
まさかそんな大昔の暦を使うことになるなんてな…
「艦長、よろしいでしょうか」
アルゴー号自衛長の剛田林司が話しかけてくる。
彼は情報長の忍田と同い年でカレッジの同期生だが目つきも鋭く、筋骨隆々という言葉がぴったりな体躯をしている。
「なんだ?」
「この星はあまりにも地球に酷似しています。すでに何らかの知的生命体が存在している可能性もあります。調査の初動段階では万が一に備えられるよう、自衛科から偵察部隊を編成し任務に当たらせようかと思います。」
「ですが、いきなり武力を用いるというのは野蛮ではないですか?」
野上副長が忌避感を示している。
…無理もない。アルゴー号の出航以来、戦闘と名のつく行為は全くなく、暴力装置としての戦闘科の立場がどんどん低くなり規模を大幅に縮小して現在の自衛科となったからだ。
現在のアルゴー号では暴力や戦闘というものは半ばタブー視されるものになっている。
自衛科に所属する乗組員も公には批判されないものの、後ろ指を指されるような居心地だろう。
自衛長の剛田林も例外ではなく、ブリッジでは一番存在感がない。
「いえ、最初から武力行使を前提とする訳ではありません。万が一、先住民が敵対的であり交渉の余地なく攻撃してきた際に、逃走の時間を稼ぐための迎撃行動が可能な我々がまず接触を試みるべきだと申し上げているのです。」
剛田林自衛長の意見も一理あるな…
だが、艦内の他の乗組員は自衛科が単独行動をするのは許さないだろう。下手をすると独立反乱のために自衛科が単独行動をするのだとか妄想を繰り広げる輩が出ないとは限らない。
「二人の意見もわかる。だが、まだこの惑星に知的生命体が存在するのかも未確定だ。ここは情報科から探査チームとその護衛として自衛科から部隊を出す、という方針でいこうと思う。それでどうだろうか?」
「艦長がそうおっしゃるのでしたら。」
「自分もそれでしたら納得します。」
「よし、忍田情報長と剛田林自衛長はそれぞれ調査にあたる人員の選抜にあたれ!」
「「了解!」」
〜
そう言えばbt-448-3大気組成は地球とほぼ同一なんだよな。
なら…
「環境長の柴山さんを呼んでくれ。」
「お呼びですか、艦長。」
そう言ってブリッジに入ってきたのはアルゴー号環境長の柴山徹だ。
彼は今年33だが、見た目は完全に中年のおっさんといった風貌をしている。だが、そんな見た目に反して宇宙船内の特殊で複雑な閉鎖環境を維持する能力にかけては右に出る者がいない天才技師だ。
俺も艦長になる前は環境科で彼の下で働いていた。
「ああ、農業区画で炭酸ガス濃度が低くなっていたでしょう。bt-448-3の大気組成はアルゴー号が再現している地球大気とほぼ同一のものですし、大気圏内に進出したら農業区画だけでも換気を行えば解決するかと思いまして。」
「それは難しいと思います。ほぼ同一の大気と言えど、微妙な組成の違いや空気中の微粒子や微生物の存在がアルゴー号の環境に与える影響が測れません。農業区画の炭酸ガス濃度については居住区の排気からフィルターを使って分離した炭酸ガスの輸送と農業区画の排気のモニター強化で対応します。ただ、フィルターの濾過を利用して炭酸ガスや酸素を分離して貯蔵する事はできるかもしれません。」
「なるほど、了解しました。では、その方向で進めてください。」
「了解です。」
そういうと柴山さんはブリッジから出ていった。
〜
「艦長、bt-448星系外縁部に到着しました。周辺領域に生命反応及び人工物のようなものは認められません。」
忍田情報長が報告してくる。
準惑星や小惑星クラスの天体はあるが、防衛装置や基地のようなものはないらしい。
「わかった。あの惑星に知的生命体がいるとしても、我々地球人類のような天体国家ではない、というわけか。」
「このままbt-448-3の公転軌道まで進出しますか?」
「ああ、そうしよう。念のためそれぞれの惑星の公転軌道を越えるたびに星系内を再度スイープする。」
「「了解」」
〜
「艦長、bt-448-3の公転軌道に入りました。」
「ここまで、特に何事もなく来れたな。調査チームと護衛の編成は完了しているか?」
「護衛部隊は既に編成を完了し、艦長のご命令があればすぐにでも出動できます。」
「調査チームの方も希望者による人員の確保は終了しています。現在、ヘーリオスによる調査内容の教育が行われているので、出発には一時間ほどかかります。」
「わかった。では、調査チームの教育が終わり次第揚陸艇でbt-448-3に降下だ。」
「「了解!」」
〜
「調査チームと護衛の諸君!諸君らは人類居住可能惑星を探るアルゴー号の手となり、目となり、耳となる存在だ!増えすぎた人口に自然破壊によって失われた太陽系第三惑星の地球に酷似したこの星が我らの新天地となるか否かを確かめる事が君たちの任務だ!
この星には知的生命体が存在する可能性も否定できない!諸君らはもし先住の知的生命体と遭遇した際にも慌てず、ヘーリオスの教育通りに刺激せず、友好的な関係を築いてもらいたい!
だが!第一に優先すべき事は安全に調査を終わらせて、全員が生きてアルゴー号に戻ってくる事だ!
諸君らの調査の成功と無事な帰還を期待して訓示とする!」
艦長の職務として調査チームと護衛の部隊に激励の言葉をかける。
そして彼らはbt-448-3に向けて降下を開始した。
〜
「艦長、調査チームの降下開始から3時間が経過しました。予定では既に大気圏内に到達している――」
忍田情報長の報告を遮って調査チームから切羽詰まった声で通信が届く。
<調査チームからアルゴー号へ!人型の生命体を発見!繰り返す!人型生命を発見!>
続きはちまちまと作成していきます。