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ブルーの低音  作者: 綾野 琴子
第4章 波乱
39/49

8 落ち込んで、乗り越えて(前)

 七月。蒸し暑さがさらに増す頃に、定期テストは行われた。

 鉛筆で書く際に起こる摩擦音が、教室に響く。一見静寂しているようだが、しかし、よく周りを見渡すと、壁時計をちらちら見て、落ち着かない様子の者が何人かいた。

 時計の長針が「10」を指した。すぐに、テストの終わりを示すチャイムが鳴る。吹奏楽部の顧問である葉山 明仁が「回答、止め!」と言った瞬間に、教室内はざわめきで溢れた。

「じゃあ、一番後ろの席の人、答案用紙を集めて前に持ってこいー」

 明仁の言葉を聞いて、後ろの席の人が立ち上がった。素早く答案用紙を集めていく。

 答案用紙を生徒からもらうと、明仁は「そしたら、先生が帰ってくるまで、待機してくれ」と命じた。それから、ゆったりとした様子で教室を出ていく。一気に、教室中が賑やかになった。

「まこちゃん!」

 後ろから声が聞こえたので振り向くと、香奈が手を振りながら、真琴の席に近づいてきていた。真琴も手を振り返す。

「私、テストあんまり出来なかったかもしれないよー。まこちゃんはテスト、どうだった?」

 答える前に思わず、顔がひきつってしまう。そして、一瞬では言葉が思い浮かばずに、口をもごもごさせた。香奈は、そんな真琴の様子に、きょとんとした表情をした。

 真琴が、何を言おうかと思考を巡らしている所に、恵がふんわりとした雰囲気を出しながら、真琴の席へとやって来た。

「二人とも~、テストお疲れ~」

「めぐちゃん、お疲れ。テストはどうだった?」

 香奈が恵に訊ねると、恵は困ったように微笑んだ。

「う~ん、あんまり自信ないな~。二人は?」

「私もそんなに出来なかったなー。暗い表情をしているから多分、まこちゃんも……だよね?」

 いきなり話を振られて、真琴は一瞬胸が飛び上がるのを感じた。慌てて、こくこくと頷く。

「そうか~。……でも、これからまた部活し放題って思ったら、なんか嬉しくならない~?」

 真琴は顔を上げた。恵の、心底嬉しそうな笑顔が目に写る。

「確かに、部活が出来るのは嬉しいね。そう思ったら、なんか解放感が出てきたかも……!」

 視線を移すと、目を輝かせ始めた香奈が見えた。さらに、恵が楽しそうに話す。

「今日からまた、クラリネットが吹ける〜」

「私も、歌い放題出来る! ああ、早く放課後にならないかな」

 真琴はたじたじしながら、二人を交互に見る。と、ちょうどその時、担任の女の先生が教室に入ってきた。今まで友達との話で盛り上がっていた生徒が、次々に自分の席へと戻っていく。

(じゃあ、また後で)

 香奈と恵は真琴の耳元で囁き、手を小さく振りながら戻っていった。

 しばらくして、先生の話が始まった。しかし、真琴は上の空で、話が全く耳に入らない。頬杖を突きながら、先程の香奈、恵の会話を思い返す。

(解放感……。わたしは感じないなあ)

 普通なら香奈のように、テストが終わった後の気持ちは解放感で一杯のはずだ。しかし、真琴はそうは感じなかった。逆に、重たい塊が胸につっかえているような気がしていた。

 さらに真琴は、部活に出られるのを、二人が嬉しそうに話していた事を思い出す。

(部活……。もうすぐ、吹奏楽コンクール……)

 思わず、ため息をついた。


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