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ブルーの低音  作者: 綾野 琴子
第4章 波乱
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5 夜の会合

 出発の準備を終えた真琴は、一度望実と合流し、自転車で近くのコンビニへ向かっていた。

「望実ちゃん。本当に、泊まって良かったの? 迷惑かけるのに」

 ダークブラウンの髪をなびかせながら、前を走っている望実に訊ねる。

「お母さんが良いって言ったから、いいの! 真琴、制服と明日使う教科書も持ってきたんでしょ? 今更後戻りなんて出来ないんだからね!」

 望実は前を向いたまま、普段通りのよく通る声で答えた。ライトブラウンの、跳ねた後ろ髪がリズム良く揺れている。

 真琴は「うん、分かった」と返す。それから、どことなく安心感を覚えた。

 数十分前に電話をした時は、明らかに動揺し、元気が無さそうだった望実。しかし、再び電話をして千羽鶴の話を持ち出してからは、元気を取り戻したという事が、声の調子から分かった。

 今の望実は、普段通りの姿だ。真琴には、望実の背中が大きく見えた。改めて、望実は頼りになる存在だと思う。

「あっ、そろそろ着くよ!」

 望実の言葉に、真琴は視線を望実からずらす。すると前方に、煌々と辺りを照らすコンビニの看板が見えた。

 そのまま自転車を走らせ、コンビニの駐車場で止める。自転車から降りると、真琴と望実はすぐに入口に向かって走った。

 自動ドアが独特の音を立てて開くと同時に、男性店員が「いらっしゃいませ」とお辞儀をした。二人は軽く会釈した後、文房具が置いてある棚へ行く。

「このコンビニには、折り紙あればいいけど」

 望実がつぶやきながら、文房具に視線を向ける。真琴も棚を真剣に見る。すると、正方形の色とりどりな紙が目に入った。

「これって、折り紙じゃない?」

 真琴が商品に指差しする。望実がすぐに指の先を見た。

「確かに折り紙! えーと、これは……三十枚入りかぁ」

「三個置いてあるから、全部で九十枚だね」

「よし! じゃあとりあえず、これを全部買おう! 」

 望実は折り紙を手に取り、素早く店員の元へ行き、買っていった。

 数分後。コンビニを出て自転車が置いてある所に着いた時、真琴と望実の携帯電話から着信音が鳴り響いた。望実がすぐさま、カバンから水色の携帯電話を取り出す。

「あ、永瀬からだ!」

 真琴が望実の言葉に反応し、慌てて携帯電話をカバンから取り出そうとした。しかし、望実が手で制し、「いいよ。直接読むから」と言う。それから、信二のメールをすらすらと読み出した。

「『俺も泊まりの準備が終わった。今は俺ん家にいる。一度、浜田ん家の近くの公園に集まらないか? 後、折り紙何枚ある?』……だって」

「じゃあ、一回公園に戻る?」

「そうだね。あたし、永瀬にメール返しとく」

 望実は慣れた手つきで文字をうち始めた。真琴も改めてカバンから携帯電話を取り出し、開いて操作をする。

「送信完了っと! 真琴、行くよ!」

「あっ、ちょっと待って。……よし、これで大丈夫」

 真琴は操作をし終わると同時につぶやき、携帯電話をぱたんと閉じた。

「こっちも送信完了したよ。じゃあ、公園に行こう」

 望実は一瞬首を傾げたが、直後に気付いた様子で「あぁ、なるほどね! うん、分かった」と返した。


 自転車を走らせているうちに、外灯に照らされた公園が目に入った。ベンチに座っている人影も見える。

「あれは……永瀬!」

 望実の声が聞こえたのか、信二が真琴達の方を見る。それから、公園の入口に向かって走ってきた。

 真琴、望実と信二は、入口に同時に着く。自転車のブレーキをかけながら、望実が信二に訊ねた。

「どう!?」

「今で二百枚」

 信二は折り紙を取りだし、汗を拭いながら低い声で答える。さらに、「お前達のと合わせて」と、小さな声で付け足した。

「あと八百枚いるよ……」

 望実がため息を漏らす。信二も望実を見て、うつむいた。眉間には皺が寄っている。まだ折り紙が二割しか集まっていないという事実は、精神的に二人を疲れさせていた。

 真琴は二人を交互に見て、何か言わなきゃと直感的に感じた。言葉を懸命に探す。そして、頭に浮かんだ事を、不意に口にした。

「諦めちゃ駄目」

 望実と信二が驚いたように、真琴の方に顔を向ける。真琴は二人をまっすぐ見て、自分の今思った事を言った。

「先輩だって、いま頑張ってるんだから!」

 思わず言葉に力が入っていた。望実と信二もだが、言った本人が一番驚いた。自分がこんなにも強く声を出す事が出来るなんて、思いもしなかった。

 真琴の言葉に目をぱちくりさせていた望実と信二が、気合いを入れ直すように頷いた。信二が叫ぶ。

「よっし! 別の店、行くぞ!」

「オーッ!」

 真琴と望実も拳を上げ、力強く叫んだ。


 気合いを入れ直し、再び出かける準備をしている頃に、自転車が公園に向かって走る音が聞こえてきた。三人が音の聞こえる方を見ると、二人の少年が懸命に自転車を走らせている。

「あいつら、やっと来たか」

 信二は口角を上げてつぶやいてから、二人に向かって手を大きく振る。そして、再び声を上げた。

「悠輔、律!」

 悠輔と律は、信二の呼び掛けに答えるように手を振り、今まで以上に自転車を速く走らせて公園入口前で自転車を止める。同時に、甲高いブレーキ音が鳴り響いた。

「お、お待たせ~」

「遅くなって……ゴメン」

 荒く息をしながら声を出す悠輔と律。望実が、「無理しないで、落ち着いて」と促した。

 しばらくして、息を整えた悠輔が口を開く。

「すっかり遅れちゃったね。真琴にメールを返す暇も無かったよ~。ごめん!」

 真琴に向かって手を合わせる悠輔。律も小さく声を出す。

「オレもメール返せなかった……。遅れた理由もオレにあるし」

 真琴は慌てて「いいよ、大丈夫だから!」と、首を横に振る。悠輔と律は真琴の言葉を聞くと、安堵したような表情を見せた。

「言い訳っぽくなるけど、遅れた理由を説明すると……これ」

 話しながら、律はカバンの中を探り、取り出した。

「これって、使いかけの折り紙?」

 望実が、既に開けられている袋の取り出し口を見て言う。

「うん、そう。……家から持ってきた」

 折り紙を見つめる真琴、望実、信二に対して答える律。悠輔が後に続く。

「律が、公園に行く前に家からあるだけ折り紙を持っていこう……って電話してきたんだよね。だから、家に折り紙があるか探してたんだ~」

「だから、家を出るのが遅くなった……。とりあえず、悠輔のと合わせて八十枚程集まったけど……」

 律が申し訳なさそうにつぶやく。一方、真琴達三人は目を輝かせて聞いていた。

「お前ら、ナイスだ!」

「すごいじゃん! あたし、こんな手思いつかなかったよ!」

「二人とも、本当にありがとう……!」

 信二、望実、真琴が口々に言う。悠輔、律は目を丸くし、互いに顔を見合わせた。

「そうだよ、買うだけじゃなくて、友達に家にある折り紙持って来てもらえばいいんじゃねーか!」

「何枚集まるかは分かんないけど、いいね、それ! あたし、友達にメールしようかな~」

「わ、わたしも!」

 さらに話が盛り上がる三人。悠輔が「ちょっと! 僕達を置いて話進めないでよ~」と、その場を制した。


 悠輔が三人を落ち着かせた後、何とか話し合いを始める。最初に、真琴が質問をした。

「今集まっている折り紙は、約二百八十枚だよね?」

「そうだよ~。で、後八百二十枚程集めなきゃいけないんだよね」

 悠輔が真琴に続いて発言した。次に、律が口を開く。

「文房具店はもう閉まっているから、主にコンビニで折り紙を探す……と」

「折り紙を売ってないコンビニもあるだろうし、たくさん回らないとな」

 信二が喋った後、真琴が訊ねる。

「何時までコンビニを回るの?」

「あっ、それなんだけど」

 すぐに望実が反応した。

「出かける前にお母さんから言われたんだけど、少なくとも十二時までには帰って欲しいって」

 確かに十二時位が一番良いと、真琴は思った。自分達はまだ高校生だ。今、夜遅くに外を出歩いている事を望実の母に許されているのが不思議な位なのだ。帰るのが一時、二時以降になったら望実の母は心配するだろう事が、すぐに想像出来た。

「うん、そうだね。あんまり帰るのが遅すぎても、望実ちゃんのお母さんに迷惑かけるし」

 真琴は賛成する。悠輔、律、信二も特に異論は無いようだった。

「時間はそれで良いとして……集合場所は、どうする? 浜田の家?」

 今度は律が訊ねた。信二が意見を出す。

「いや、一回この公園に集まって、それから皆で浜田ん家行った方が良くねーか?」

 四人からは「確かに」「そっちの方がいいね」等、賛成の意見が挙がった。

「じゃあ、望実ん家に行く時間も考えて、十一時五十分に公園集合でどう~?」

 悠輔の意見に、四人全員が頷いた。

 この調子で話し合いはどんどん続く。友達に、家にある折り紙を持って来てもらうように頼む事。また、集める折り紙のノルマ、女子だけで歩き回るのは危険なので、男子と一緒にコンビニを回る事。そしてその組み合わせ。十分後にはこれらの議題を話し終えた。

「一緒に回る組み合わせは、僕と真琴、律と望実だね~」

「で、俺は一人かよ……。なんか虚しいな」

「しょうがないじゃん~。一人じゃんけんに負けたんだから」

 悠輔と信二のやり取りを、律が「はい、そこまで」と制した。

「じゃあ、そろそろ行こうか?」

 真琴が言って自転車に乗ろうとしたのを、望実が「ちょっと待って!」と止めた。真琴は首を傾げる。

「さっき三人でやっちゃったから、今度は五人で気合い入れしようよ! それで、真琴が主導で言って! 言いだしっぺだからねぇ」

「ええ!?」

 真琴は思わず声を上げた。すぐに断ろうとするが、律が遮る。

「うん……良いと思う。相原、言ってくれない?」

 真琴は口をつぐむ。それから悠輔と信二の方を見ると、二人も期待するような目で、真琴を見つめていた。

 仕方がないと、真琴は諦めた。それから、望実、信二、悠輔、律に歩み寄る。四人も真琴に歩み寄って、小さな輪になった。

 全員が右手、右足をを前に出す。それを見てから、真琴は深く息を吸う。そして、今までに無い程力強い声を出し、叫んだ。

「折り紙集め、頑張るぞ!」

「オーッ!」

 五人の声は、月が雲から顔を出した夜空に響き渡った。

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