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ブルーの低音  作者: 綾野 琴子
第2章 五人集合
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4 コミュニケーション

 五月三日。ゴールデンウイークまっただ中である。

 ゴールデンウイークと言えば、小学生辺りなら、休み放題、遊び放題という言葉が浮かぶ。だが、五月末に定期演奏会を迎える虹西高吹奏楽部にとっては、遊び放題などとは言えない。

 実際、ゴールデンウイークのほとんどが、部活に潰れる。だが、鈴木悠輔はむしろ「嬉しい」と思っていた。

「ったく、よく鈴木は嬉しいとか言えるよな」

 信二が、呆れたように口を開く。彼は、最近やっと、チューバをきちんと吹き始めたところだ。

「何で? だって、授業も無く一日中吹ける日が続くんだよ?」

「宿題やる時間がないだろうが」

 そう返しつつも、信二は照れくさそうに「嬉しいっちゃ、嬉しいんだけどな」とつぶやく。悠輔は赤い頬をした信二の顔を見て、どこか暖かな気持ちになった。

 一時はどうなるかと思った。だが、一夜明けたら、信じられない程信二の練習態度が変わっていた。何があったのかは知らないが、信二がチューバを吹く気になってくれたのは、悠輔にとっては大変喜ばしい事である。とここで、悠輔はハッと気づいた。

「……って、話がずれてるよ。僕たちの目的は、あそこにいるあの子だろ?」

 悠輔は、青色のトタンの屋根がついている、古い建物……楽器倉庫を指差した。

「今日こそは、相原さんと話さなきゃね〜」

 すたすたと、倉庫に向かって歩く。信二も慌ててついて行った。


 実は、悠輔と真琴はまだまともに話した事が無い。今のところ、挨拶だけはするという関係だ。

 今までにも何度か、真琴に話しかけようとはしてきた。

 しかし、真琴とは楽器が違う上に、練習場所まで違う。さらに、バスバスパート一年の中で、唯一中学と同じ楽器担当の悠輔は、信二を付きっきりで教えていた。

 部活が終わった後に話しかけようとも思った。しかし、家が遠いからなのだろうか、真琴は楽器を片付け終わると、すぐに帰ってしまう。

 そんな事があって、結局、今までずっと真琴に話しかけられなかったのだ。

「これ以上は延ばせないから、何とかして仲良くならないと!」

 倉庫の前に着いた悠輔は、ますます張り切っていた。

「……言いたい事は解るけどさ。何でお前の計画に、俺も関わってくるわけ? 一人では話しかけられない……というわけでは無いんだろ?」

 信二は肩をすくめた。どうやら、悠輔の思惑が解っていないようだ。

「永瀬も、この計画には必要なんだよね」

 首を傾げる信二の隣で、悠輔はふと、一年前の事を思い出した。


 ゴールデンウィークの最終日に行われた、中学校の合同練習会での会話は、今でも悠輔の心に残っている。

「ねぇ、師匠……」

 体格の割に柔らかいテノール声を出す悠輔。当時、悠輔は愛媛県松山市に住む、明台中学校の三年生だった。

「『師匠』はやめろって、さっき言っただろうが」

 ムスッとした顔で、どこかぶっきらぼうに話す男の子。悠輔よりも背は低く年下なのだが、何ともいえない威圧感を出している。

「じゃあ……泰徳」

 悠輔は微笑みながら、あっさりと呼び方を変えた。男の子……竹林たけばやし 泰徳やすのりは、照れくさそうに「……それでいい」と返す。

 彼は、吹奏楽の強豪校である、松山市立常套じょうとう中学校のチューバ吹きだ。二年生である。

 普通なら、悠輔が先輩で泰徳が後輩という立場になるのだが、悠輔と泰徳は逆転した上下関係を続けている。……悠輔が弟子で泰徳が師匠という、奇妙な師弟関係なのだ。

「……あの、大きいヴァイオリンみたいな楽器は何て言うの?」

「知らねーのか? あれは『コントラバス』だ」

 悠輔と泰徳は、音楽室の隅でコントラバスを弾いている女の子……中井なかい 美奈みなを見た。

「明台にはそういう楽器無かったから……。やっぱり、大人数の吹奏楽部っていいよね〜。コントラバスとか、他にも少人数バンドじゃ見ない色んな楽器があるんだもん!」

「ああ……そういえば、明台は新しく出来た学校だったな」

「うん……」

 悠輔が通っていた明台中学校は、二年前、二つの小さな中学校が統合されて出来た学校だった。

 二校ともに吹奏楽部は無かったため、今の吹奏楽部顧問が、新しく「明台中学校吹奏楽部」を創ったのである。当然、部員は少なかった。楽器も、必要最低限のものしか揃っていない。だから悠輔は、コントラバスを知らなかったのだ。

「ところで、コントラバス……を弾いているあの子とししょ……泰徳は」

 いつもの癖で「師匠」と言いそうになったが、すぐに呼び方を直した。泰徳が「師匠」と呼ばれるのを嫌がるからだ。

「何だ?」

「二人とも、仲良しだよね〜。それに、ユーフォの……」

たに 未来みきな」

 二人は、明台中のユーフォニウム吹き二人と一緒に曲を吹いている、未来を見つめた。

「そう、谷さんも……三人、すごく仲良し。なんか、強い絆があるって感じ」

「絆? 変な事を言うよな、お前は」

 泰徳は一瞬、しかめっ面をした。だが、すぐに真顔に戻る。

「俺はそんなの信じてないが……まあ、あの二人とは何だかんだ言って、ずっと一緒にいるからな」

 泰徳は微かに口角を上げ、ふと遠くを見つめた。過去を思い出しているのだろうか。


「そういえば、悠輔」

 数分経った後、泰徳が突然悠輔に話しかけてきた。

「何?」

「お前は、どこの高校に行くとかもう決めているのか?」

 悠輔は一瞬、目を泳がした。「うーん……」と唸りながら考え込む。

「まだ決まってないんだな」

 悠輔は苦笑いしながら、「そうなんだよね」と返す。

「じゃあ、よく聞いておけ」

 泰徳は再び、視線を悠輔から美奈へと移した。

「明台は、コントラバス無いんだよな」

「うん」

 悠輔の所属する明台中学校吹奏楽部は、今年やっと、部員が26人になったところだ。

 今まで少人数バンドだったし、楽器が無いということもあって、今までコントラバスを弾く人はいなかった。

「もし、大編成の吹奏楽部がある高校に入るなら、きっとコントラバスを弾く奴もいるから……そいつともちゃんと練習して、あと最低限のコミュニケーション取っとけ」

「えっ……何で?」

 泰徳は改めて悠輔の方を向いた。

「まず……コントラバスの楽譜は、チューバと同じ動きが多いんだよ。動きが全部同じ曲もあるくらいだ。だから、コントラバスとは合わせとく必要がある」

「なるほど」

 コントラバスは、チューバとほぼ同じ低音域の楽器だ。だから必然的に、コントラバスも伴奏が主な仕事になる。チューバと同じような動きになるのも、頷ける。

「コミュニケーションを取っとかないと、音色や音形が合わない時に意見を言い合えなかったり、言っても相手に聞いてもらえなかったりするかもしれないだろ。他の楽器と合わせるのも重要だが、同じ動きが多いコントラバスは、特に重要だろう」

「……そっか!」

 悠輔は目を輝かせた。

「つまり、泰徳達三人みたいに仲良くなればいいんだね? わざわざ『最低限のコミュニケーションを取る』なんて長い表現、使わなくていいのに〜。素直じゃないなあ」

 泰徳は「なっ……はあ!?」と素っ頓狂な声を上げる。だが、悠輔は気にせず、ひたすらにこにことしていた。

 その後、何故泰徳が苦笑いしながら「お前、やっぱ不思議な奴」とつぶやいたのか、悠輔はいまだに解っていない。


「……おい、鈴木! 聞いてるのか?」

 ハッと我に返る。右を向くと、信二が呆れたように悠輔を見ていた。

「お前……何を考えていたんだ?」

「……ただ、僕たちがここへ来る理由を、思い出していただけだよ」

 信二は一瞬、「訳が分からない」と言いたそうな顔をした。だが、その言葉は言わず、今度は照れくさそうな顔になる。

「まあ、俺も、相原さんと……コミュニケーションっていうか、話せる……ようになるに越したことはないからな。お前に付き合うぜ」

 悠輔は目をぱちくりとさせる。そして、「ぷっ」と噴き出した。

「何がおかしいんだよ」

「だって……素直に『仲良くなる』って言えばいいのに、あいつと同じ事言うからさあ……やっぱ似てる」

 話すうちに、思わず笑みがこぼれた。信二は、顔を赤らめながら、慌てたように声を上げる。

「なっ……! あ、あいつって、誰だよ?」

「その話は、後でね〜」

 とびっきりの笑顔を信二に向ける。そして悠輔は、意を決したように倉庫の扉を開けた。

今回は、「ブラス魂」から泰徳君達に登場していただきました!



前話でも書いたとおり、今、私は多忙&スランプ中のため、6月からは更新周期がどうなるか解りません。意外と早かったり、またはものすごく遅くなるかも……。


とりあえず、6月中には律を出したいと思います。

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