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君の横で見つけた永遠  作者: 椿屋一貨
2/5

昔日の記憶

幼馴染である「堀川紗奈」。


僕たちの出会いは新しく丘を開墾して造成された団地に家を建て偶然隣同士だった時から始まった。


僕たち家族は、東京の多摩にあるアパートに住んでいたが、僕が幼稚園に入るにあたってこの地に引っ越してきた。


紗奈達は近くのアパートから同じようにこの団地に家を建て引っ越してきた。


僕たち家族は新興住宅地で同じ時期に越してきて、そして家が隣であったことから親密な関係を築いていった。


子供達の関係も同じように、親密になっていった。


だが、僕と紗奈以外にも実は一人同じように毎日遊んでいた人がおり、遊ぶ時は毎回3人で一緒だった。


そいつは「大間健太」だ。

僕らは幼い頃は「けんちゃん」と呼び、逆に僕は「綾瀬奏」と言う名前から「そうくん」と呼ばれ、毎日遊び回った。


僕らは幼稚園の頃は毎回僕の家で遊び、2年間の間毎日のように一緒に過ごし、そのまま小学校に進級した。


小学校に進級しても僕達の関係は変わらなかった。


----


一つ変わった事を挙げるなら

小学生3年生の時、

健太から「そうくん」と呼ばれていたのが、「そう」と呼ばれるようになったことだろうか。


健太が僕のことをそうやって呼び捨てで呼ぶようになったもんだから僕も「けんちゃん」から「けんた」と呼ぼうと決めた。


しかし、何故がもう5年くらいの付き合いになるのにそう呼ぶ事に気恥ずかしい感情を抱いた。


紗奈の事は昔から「さな」と呼んでいたから呼び捨てで呼ぶのに慣れていた。


しかし、健太になるとそう簡単にはいかなかった。


だがある時、団地内の公園でボールを使って遊んでいた時があった。その時たまたまボールが公園の入り口を超えて道路に出てしまった。


健太は慌てたような素振りを見せながらそれを取りに行った。


その時、車が通りかかった。


急いで行ったから車が来ていたのだが気付かなかったらしい。


僕は思わず「けんたー!」と叫んだ。


実際には、車の速度も遅く、直ぐに停車した為、そこまで危険が差し迫っていた訳ではなかったのだが。


車の運転手に一瞥した健太はボールを持って帰ってきた。


丁度、時計の針が5時を指していたので僕達は帰宅する事にした。


僕と紗奈の家は団地内にあるが、健太の家は少し離れたアパートにあるのでそこまで3人で行ってから帰ることにした。


健太の住むアパートの前に到着した。


無事に健太のアパートに着いたので僕と紗奈は帰宅しようとしていた。


その時僕の耳元で健太が囁いた。


「やっとけんたって呼んでくれた」


僕は初めての感情を知った気がした。


僕は返す言葉が思いつかず、ただ健太と別れのハイタッチをしてそのまま紗奈と帰宅の途についた。


---


そうやって僕らの関係はより親密になりながら「変化の中学生時代」を迎える事になる。


コーヒーに溶けるシューガー。


そんな風に心の中に溶けていく何かを中学校に入学した時感じた。


桜が舞う中、僕らは進級した。


僕と健太と紗奈は同じクラスになった。


いつからだろうか。


僕は気付けば「紗奈」を目で追ってしまっていた。


-----


あれは中学一年、入学して一ヶ月が経ち、3人で下校していた時だ。


中学生になってから、僕らはこの3人以外の友達と話す事が多くなり、この3人で一緒にいるのは久しぶりだった。


久しぶりに3人で話せる事を僕は楽しみにしていた。


子供っぽい気持ちだと言われたらそうかもしれない。


でも、僕が本当に言いたいことを言い合えるのは健太と紗奈のみだった。


校門を出て1分もしなかっただろう。僕は体操着を下駄箱に置き忘れた事に気が付いた。


まだ学校を出たばかりだったので先に帰ってと一言だけ言った。すると、健太は自転車を降りて、歩いている紗奈の横を歩き始めた。僕はそれを見ると走って校門を潜り抜けた。


取りに戻って3分くらい経ってから僕は校門を出て二人を追い始めた。


走っていると直ぐに二人の影は見え始めた。


二人帰っている姿を見て、点と点が繋がった気がした。


どうしようもなく、分かってしまった。


僕の想い人は誰が好きなのか。


確信なんてものはない。


でも、それが僕の中の答えが知りたいという欲求を十分に満たす解であることは一目瞭然だった。


中学校に入ってからすぐだった。紗奈が目に追う先にいるのが健太だと思ったのは。でも、僕は何も不思議に思わなかった。


不思議に思わなかった分、その答えを求めてはなかった。

でも、今の二人を見れば嫌でも伝わってしまう。


僕がいない中で紗奈と健太は二人きりの世界を創っていた。


そこに僕が入る余地なんてなかった。


健太は自転車に乗らず、紗奈のペースに合わせて歩き、二人は話しながら帰っていた。


紗奈は健太から目線を逃すことなく、健太を追い続け、そして僕が見たことがないほど輝かしい笑顔を見せていた。


健太もそれに応えるように楽しそうに会話していた。


いつも紗奈の目線の先に健太がいた理由は目の前の光景が答え合わせをしてくれている。


でも、その現実を飲み込むのは中学生になったばかりの僕には重すぎて。


現実から逃れるように僕は家の反対方向にある図書館に向かった。


今は二人と顔を合わせたくなかった。


僕はきっと今二人と会えば健太を拒絶してしまう気がする。


僕は一人静かに歩き出した。


次の日の朝、僕は初めて体調不良以外の理由で学校を休んだ。


どうしても、学校に行って現実を自ら受け入れようとすることだけは避けたかった。


何も考える気力がなくなった僕は一人、自分の部屋でパソコンのモニターを前にして一人邦画を見て過ごした。


3本目の映画を見終わり、4本目の映画を見ていた時だった、家のチャイムがなった。


流石にまだ両親の帰ってくる時間ではないのでインターフォンを確認するとそこには紗奈がいた。


幼い頃から僕らは互いの家を行き来する仲であったので、僕は玄関に行くと何も訊かずに取り敢えず家に入るよう促した。


すると紗奈は家に踏み込んだ。


そして、リビングのソファーに座るなら、紗奈は僕に質問した。


「昨日は学校に帰った後なにしてたの?遅かったじゃん」


その質問に僕はどう答えるか悩んだ。


悩むと同時に僕が体調を崩してない事は紗奈には丸わかりなんだなと思った。


普通、学校を欠席したのなら体調を心配するのが先だろう。


でもそれがなかった。


やっぱり、丸わかりなんだ。


幼馴染を前にして嘘はつかないなと改めて痛感した。


そして答えた。


「図書館で久しぶりに勉強をしてから帰ろうと思って。」


僕は嘘が通用しないとさっき思ったばかりなのに、堂々と嘘をついた。


紗奈は言った。


「そうなんだ」


紗奈はその答えはどうでも良かったようにスルーして僕にある事を告げる。


それは僕達の関係性を180°変えるには十分過ぎるものであって。


僕は、なにも答えれなかった。


昨日の二人を見るまでの僕ならきっと悲しみに包まれただろう。


でも、僕の心の中で嬉しさが勝ってしまう。


「健太が引っ越しするらしい」


7月の終業式の日。


夏の太陽が教室に光を届け、教卓を照らす。まるでスポットライトがそこに当てられたかのように教室の教卓のみ輝いて見える。


教室に健太が担任の先生と入室してくる。


そして教卓の前に立つ。


教師が、話し出した。


「この度、健太君が兵庫県に引っ越す事になった。だから最後にここで一人ずつ別れの言葉を言って送り出してやろう。」


----


僕は紗奈から健太が引っ越すと紗奈の幼馴染は一人になる。そんな観測的希望に浸っていた。


はたから見ればなんて醜い人間だと糾弾されるかもしれない。


だが、そんなことどうだって良い。


ここからは僕が紗奈との距離を詰める。


そして。


-----


僕の番がやってきた。


僕はなんて挨拶しよう。


頭の中をいくつもの言葉が溢れる。


そして、言った。


「ありがとう。」


たった一言。


でもその一言には僕の全部が詰まっている。


嗚呼、ありがとう。


心からそう思うよ、健太。


-


僕の期待は淡く脆く。


だから簡単に崩れていったのだろう。


僕と紗奈の話す機会は減った。


健太がいなくなってから僕と紗奈は話さなくなった。

お互い話そうとしないし、距離を縮めることなんて想像すらできない状況になった。


紗奈は元から明るく回りに好かれるタイプだった。


でも、僕は教室の隅で読書をするタイプ。


対極的だった。


だからある程度コミュ力もあって、色々な話題に精通して博識だった健太がバランスを、僕と紗奈の関係を取り持ってくれたいたのだろう。


そう思える。


それほどまでに僕達は接点を見失ってしまった。


僕は距離を縮めると意気込んでいても本質はその程度の人間だったんだろう。


紗奈から引っ越しの話を聞いた時は心の底から喜んだのに今は、健太戻ってきてくれと願ってる。


そんな自分に嫌気がさす。


結局、僕達は中学生の間、幼馴染という事実ほどなかったかのように思えるほど関わらなかった。


同じ高校にこそ進学したものも、結局関わる事なく高校2年生を迎えていた。


----


でも、この中1から高2の空白は僕が永遠の意味を知るには十分過ぎたんだろう。


今ならそう思える。

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