異変
“姉様、ご婚約おめでとうございます。
……これからはもう、姉様とはお呼びできませんね。”
焦ったように、グイスのヘーゼルの目の色が、魔力で淡く黒へと揺れています。
わたくしの婚約が決まったと、告げたあの時のよう。
さっきのダンスよりも、とても近い距離で見つめられて、わたくしは、そんな事を思い出しました。
“わたくし、グイスと結婚できたら良いですのに。”
「姉上。大人達の様子が、おかしいのです。久しぶりに親族で集い、酒に酔い、開放的な気分になったかと思っていました。ですが、お酒が飲めない方もいて、簡単な会話が出来なくなり、足腰がふらついています。友人達からも聞きました。この会場内で、何か起こっているのでしょうか。」
……いけません、昔のことに、気を取られてましたわ。
ちらほらと、ふらついてる大人達や、学院生達。
来年度以降入学の子達は問題なく。
ふらついてる方々の顔ぶれは、カルッカ殿下や王妃様の派閥の方々ですわね。
ふと。ある事に気付きます。
わたくしが針をお配りした方々は、無事ですわ!
「グイス。わたくし、女男爵の儀礼称号を持っているのは知っていて?」
「え? ええ、はい。知っております。突然、何を?」
グイスは、まばたきをしておりますの。
ふふっ、目の色がヘーゼルに戻りましたわね。
「グイス、カンショーネ商会はわかるかしら。わたくし、今宵、ここで何かが起こることは、想定しておりましたの。商会の者に、ご贔屓の方々に、針をお配りすることも。グイスには、わたくしのスキルの秘密を、話しておりませんでしたわね?」
「先程の、鍼のスキルのことでしょうか?」
針のスキルと、鍼のスキル。
組み合わせますと、人の気持ちを操れますのよ。
と言っても、わたくしの味方に付いてもらえる、そんなような、ほんの少しの後押しですけれども。
カルッカ殿下がご無理を言われた時への、わたくしなりの備えでした。
ですが……。
「グイス。どうにも、きな臭いですわ。わたくし、王子妃教育で忙しくさせられておりました。
……そうですわ。
今にして思えば、わたくしを忙しくさせておき、他のことを、考えないようにさせられていたのですわ。」




