プロローグ
異世界恋愛を思い付きました。
お、お目溢しを…。
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おばあさまは、ひがしのくに、ムスファのおひめさまでした。
だいななおうじょさまとしておうまれになり、わがくにド=ラヤークおうこくに、おこしいれしました。
そのさい、おくにどうしでそうだんして、コクトーこうしゃくけに、およめにきたのです。
「そうですよ、クトゥマーヌ。よく出来ました。」
「えへへ。おばあさま。」
ここは、おばあさまのおやしきのテラスです。
わたしのきょういくのせいかをみる、とのめいもくで、おばあさまとの、たのしいおちゃかいです。
ふわふわとした、あまいパンのようなおかし。
なんだかいいかおりのおちゃ。
おばあさまのすてきなおにわをみるこのじかんが、わたしはすきです。
きょうは、おばあさまがごけっこんのおもいでを、おはなしくださいました。
じゃあ、クトゥマーヌも、おんなじにいってごらんなさいといわれたので、がんばっておはなししたのです。
とちゅう、きれいなあおいちょうちょさんが、しろいおはなのところでひらひらしてたけど、がまんしました。
わたし、とてもえらいとおもいます。
「クトゥマーヌは、よくお勉強していますね。初めて聞くお話を、そっくりそのまま言えるなんて、とても優秀ですよ。」
「そんなにほめられますと、てれてしまいます。」
さいきんおぼえました、けんそん、です。
「まあ、驚きました。ずいぶんと、教育が進んでいるのね。……これなら、少しずつ後継として進めても、大丈夫かしら。」
ほめられて、とくいなきぶんです。
あとのほうは、ちいさなこえでしたので、ちょっときこえませんでした。
おばあさまは、テーブルにおかれたおちゃを、ひとくちのんで、すっとせすじをのばされました。
「クトゥマーヌ、あなたのスキルのことで、これから少しずつ、お話しておくことがあります。大事な大事なお話です。お父様にも、お母様にも、誰にも秘密にできるかしら?」
わたしのスキルは、ついこのあいだ、おまねきしたしさいさまの、すいしょうのかんていで、わかりました。
スキル『はり』、だそうです。
きぞくれいじょうには、もってるかたもおおく、ししゅうにこうかはばつぐんだそう。
ところで、おとうさまにも、おかあさまにも、ひみつ?
「おばあさま。『はり』のスキルのことでしたら、おとうさまもおかあさまも、ごぞんじでしてよ。」
「ふふっ、クトゥマーヌ。東国の姫にのみ伝わる、『はり』のスキルがあるのですよ。わたくしが、とっくりと、その真髄を教えて差し上げます。」
そのひから、おばあさまとの、『鍼』スキルのおべんきょうが、はじまりました。
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それから、何年か経ち、わたくしの婚約が成立した頃のこと。
わたくしは、おばあさまと、いつものテラスでお庭を眺めておりました。
ドーム型のパーゴラに、蔦を這わせる白いお花、蜜を吸う青い蝶。
おばあさまが、東国ムスファの青みのあるお茶を、ひと口飲まれました。
「クトゥマーヌ、いいかしら。ムスファではね、こう言う言葉があるの。
“結婚相手は、よくよく仕えて、立てておやり。
支えておやり。
思い思われるよりも、尽くし尽くすこと。
尽くし尽くしてもうまくゆかぬは
きつーくお灸を据えておやり。”
わたくしからの、婚約への餞です。
婚約おめでとう、クトゥマーヌ。」
「ありがとうございます、おばあさま。ええ、わたくし、きっと、そうしましてよ。」
「スキルを極めたあなたなら、何があっても、問題ないでしょう。互いに、良き伴侶となることを。」
秘密のスキル『鍼』、派生スキル『灸』を極めたわたくしは、第二王子殿下の婚約者となったのです。